『待ってます』 涙が溢れていても、いつもの言葉だけじゃ、気付かないでしょう？ 「好きです」 放課後のクラブハウス。 部誌を書いていたその人に、告げた言葉。 「好きです、部長が」 「………、冗談か？」 「本気です。あなたが、あなたが、…好きです」 あなたが欲しいんです。 告げた言葉に、白石はぎこちないように笑って、すぐは無理と言った。 その日から、メールの会話が始まった。 『好きです。めっちゃ好き。部長』 『阿呆、勉強せえ』 『してますよ。天才ですから』 『それはいらんっていうんや』 いつだって、あなたはつれない。 その向こう、液晶の向こう。 俺が泣いてるって、気付かない。 雨が降っている。 駐車場は屋根などなく、ここにいるなんて告げていない。 けれど打ったメール。 待ってます。 あなたを。 あなただけを。 「財前、なして俺が好きなんや？」 ある日の部室で聞かれた。 「理由、欲しいですか？」 「一応な」 聞かれたって、困る。 だって。 「…ただ、好きなんです」 理由なんか、ない。 「ただ、あなたが好きなんです」 理由なんて、いらないほど。 『部長の白石や』 初めて会ったあの日から。 あなたしか、欲しくない。 こんなにも、好き。 「………」 白石は驚いて、初めて笑った。 「そら、……光栄や」 その笑顔が、大好き。 気付けば、唇を重ねていた。 茫然とした顔すら、俺の心を射抜いたのに。 「…………」 どうして、あなたは泣くの？ 泣く顔すら、俺の心を、あなたは射抜くの？ 『待ってます』 行き場のない言葉。 あの日、泣いたあなた。 どうしていないの あなたは、どうして俺の傍にいないの。 泣く顔すら、俺は欲情して。 「財前！」 響いた声が、嘘みたいだった。 「風呂、使ってええからな。家族今日はおらんねん」 白石の家に連れて来られて、風呂場にタオルと服を用意された。 「ほら」 タオルをぽん、と頭にかけられた。 「服がちょっと大きいのは勘弁や」 そう言って白石は笑う。 だから、財前はただその胸に抱きついた。 「……どうして」 「財前？」 「どうして、…理解ったんですか」 「……」 「どうして、あの日泣いたんですか」 「……財前」 「どうして…っ」 声が詰まる。 待って、まだ言いたい言葉がある 「どうして…俺が泣いてるって理解ったんや…！」 涙がぼろぼろと溢れた。 見上げた先、あなたは微笑んで、 「………ごめんな」 俺を、抱きしめた。 こんなに一途に思われるのは初めてで、くすぐったく、戸惑った。 唇を重ねられた瞬間、はじけた心。 好き あなたが、好き 叫ぶ心に、嘘やとこぼれた、涙。 「……財前」 濡れて、冷えた身体。 愛しい、お前が泣いてることくらい、わかるよ。 世界の果てにいても、わかる。 「……俺、お前に優しゅうしたい。優しゅうされたい」 「してなかった？」 「してた」 「……」 「やから、嬉しくて……俺は、…お前が」 その涙に濡れた後輩の頬に触れた手に、流れる涙。 「…好きやで」 伝えると、喉が鳴ってまた溢れる涙。 そのまま唇が強くぶつかってきて、白石は受け止めて唇を開いた。 舌が絡まる。 「……部長…っ…好き…好きや…！ もう、なんでこんな好きかわからへん…あんたがおらな………」 「あんたがおらな…あかんねん…！」 「……うん」 触れるキス。触れる腕。 目眩がするほど、愛しい人。 「好きやで。財前………」 『待ってます』 時刻は十二時。 待ち合わせを、十分超過。 送ったメールに返事がない。元々、部長としては完璧な癖、こういうことはいい加減でいつも最後に来る人だけど。 すると、携帯が振動した。 『今コンビニ。お前、昼食なにがええ？』 返事に、笑う。 まさか事故かって俺の思い過ごしすら、あんたはこんな笑いで返してくれる。 『早く来て。あんたが欲しい』 そう送った返事。 さあ、なんて返ってくる？ メールの涙に、気付いてくれたあの日のあなた。 今、傍にいてくれるあなた。 俺の涙に、笑えるような思い過ごしを返してください。 俺は笑って、あなたに駆け寄るから。 「財前！」 呼ぶ声に、振り返って。 「遅いっスわ、……部長」 俺は、あなたに微笑むから。 どうか、いつだって返して欲しい。思い過ごしの笑顔。 心配をしたことを、笑えるような思い過ごしで返して。 いつだって、好きだって言ってください。 俺の傍で、俺の笑顔で。 =========================================================================================== 半周年記念SS第二弾。 財前×白石。 千歳×白石・財前×白石・千歳×財前が投票で３トップだったので三つとも書くことに。 切ない系を目指したらあらー？みたいな。 フリーテキストなのでご自由に。ただし著作権だけは残してくださいませ。 |