「ふくぶっちょー!」
「却下」
 三年A組に飛び込んで来た大声に、返事を返したのは何故かそこにいた(まあこの学校では当たり前の光景だが)三年F組の住人だった。
「……なんで柳さんが却下すんスかァ〜? てゆーかいつもいますよね柳さんって」
「副部長に相談することがあれば、伺うのが参謀というものだ」
「そうっスけど部長が復帰したんだから部長のクラスに集まればいいのに〜」
「C組は今日課外授業だ」
「え? そうなんスか。通りで志野さんが来ないと思った(三年E組の住人)」
「志野の後輩がお前のクラスにいるからな。まああいつは遊びに行き過ぎな気もするが」
「千々くんがどうしました?」
 仁王のクラスから帰ってきたもう一人のA組の住人の言葉に、柳が。
「志野がよく赤也の組に遊びに行くが、今日は来なかった。どうしてだろう。と赤也は思っていたらしいのでな」
「ああ、流石にテレポート出来ませんからね」
 課外授業先から遊びには来れませんよ。と柳生。
「で、切原くんは何故ここに?」
「う…用件あるんスけど、言う前に柳さんに却下されちゃって」
「宿題がらみでなければ聞いてやる。言ってみろ」
「やっり真田副部長寛大!」
「そうでないとお前はいつまでも居座りそうだからな」
「あ、柳さんひっ…」
「人の台詞を横取りしないでくれ蓮二…」
 ひっでぇと言おうとした切原は、唖然の後柳が真田の言おうとした言葉をトレースしただけだったことを悟る。
(……なんで柳さんって、自分が言わなくてもいい台詞をわざわざ言うんだろ)←禁句
「そらその方が精神攻撃ゆう感じするからじゃろ?」
「うわぁっ! って仁王センパイ人の心読まないでくださいよ!」
 いつの間にか切原の背後にいた仁王が、けははと笑ったので、切原は数歩後ろに逃げる。
「…仁王くん、こちらに来られるなら、私が呼びだしに応じる必要はなかったのでは…」
「それはいわん約束じゃ」
「それに赤也、俺は貞治がいれば自分の言葉を語らないぞ? あいつが全部語ってくれるからな」
 無駄な労力は使わないぞ。
「………あの、なんで柳さんまで俺の思ったことがわかってんスか?」
「そりゃお前、さっきの心の台詞が呟きにもれとったからじゃろ。俺エスパーちゃうし、読めるわけなかろ?」
「えっマジスか!?」
「マジ」
「………(そろーりと柳の方を向く)」
「安心しろ赤也、その程度で俺の雷は落ちん」
 仏の微笑で言われ、切原は安堵する一方で、じゃあ雷が落ちる地雷原を教えておいて欲しいと思う。
「でも去年赤也に真田と髪型で間違えられた時は落ちたじゃろ? 雷」
「ああ、落ちたな」
「………お前ら、全然さりげなくなく失礼だ」
 すっかり蚊帳の外の真田がつっこんだところで、西側の扉から遠目にも目立つ赤髪が入ってくるのが見えた。
「ヒロシー辞書貸して」
 丸井だ。
「またですか丸井くん」
「だっていきなり使うっつんだもん」
「そもそも、丸井先輩は教科書とか全部置いて帰ってるんじゃないんスか?」
「お、いたの赤也?」
「いたっスよ」
「あー、あんだけどよ」
「じゃ借りなくていいんじゃ」
「仁王にこないだ貸したらエロ単語にばっかマーカーひかれて返されたんでもう使えねーんだわ」
 丸井の台詞に、全員が一斉に仁王を見る。仁王が“中学生なんて悪戯してなんぼじゃろ”と笑った。
「………いくらなんでもやりすぎっス。仁王先輩」
「くだらんな」
「丸井、新しい辞書は注文したのか?」
「しねえよ。あと半年もしねえで卒業なのに」
「もしかしてその間ずっと貸すことになるんでしょうかね、私は」
「やー助かるぜヒロシ」
「ブン太」
 丸井の背後にずいっと回った仁王が、その赤髪の目立つ頭をぐぎぎぎと引っ張った。
「あいてっいてっいてっ!」
「お前さん、あんまり俺の比呂士に馴れ馴れしいんじゃボケ」
「仁王先輩、途中っから言葉間違ってますよ……」
 注意より早く本音でてっスよ、と赤也。
「……赤也。もうすぐチャイムが鳴るのだが?」
「あ、……ああ! はい」
 すっかり本題を忘れかけた二年エースを促した真田は、なんだかんだいって切原の父親気分なのだろう。過保護だな、と柳は思う。さて、ここにあの怖い母親がいたらどうしているやら。
「あの、副部長んち、道場あるっスよね?」
「あるな」
「そこで、お泊まり会しちゃ駄目っスか?」
 切原の言葉に、それぞれの会話をしていた仁王たちも、視線をぐりっと向けた。
「……お泊まり会?」
 仁王に髪を掴まれたままで丸井が疑問を飛ばす。
「そっス! 決勝は二日後だし。その前に相互理解ってか親睦ってことでみんなで、お泊まり会しませんかって! 道場なら8人くらい雑魚寝できっしょ?」
「お前はそういうことに関しては手間を惜しまんな」
「そういう性格っスから」
「褒めておらん」
「しかし、いいんじゃないか? 弦一郎。精市も二つ返事で了承するぞ。
 俺としても、赤也とのダブルスの最後の詰めが欲しかったところだ」
「蓮二がそういうなら俺は構わないが」
「ちゅーことは、俺らも参加?」
「最初っから8人っつってるっしょ仁王先輩」
「そうだな。あ、俺ジャッカルに言ってくる! てゆーわけで仁王手ェ放せ」
「嫌じゃ」
「いだだだだだだだ!」
「ああっ! 仁王先輩もうその辺に! 丸井先輩の髪がもげちゃうっス! ハゲんなっちゃうっスよ!」

 ゴス

「誰がジャッカルだ!」
「……頭掴まれたままでもちゃんと切原くんの顔面には蹴り入れるんですね…丸井くん」
「あれは坊主でハゲではない。本物のハゲに失礼だろう丸井、赤也」
「……柳さんが一番ひどいっス」
「では脱毛症と言えばいいのか?」
「言い方変えればいいってもんじゃねーだろ」
「ではなんと表現すればよいのやら」
「初めから話題にしなければよかろう蓮二…」
「そうなのだが…。何処にメールするんだ? 弦一郎」
「幸村にな。すぐに知らせないと怒る」
「…それもそうだが、俺が打つ」
「何故だ?」
「お前のメールは遅い。休日の待ち合わせ場所の確認をその当日の午前二時頃に送って来るカメに打たせたらそれこそ精市が怒る」
「あれは説明書を熟読していたら朝になっていただけでメールに何時間も費やしたわけではないわ」
「………でも俺、柳さんの気持ちわかるっス」
 切原の言葉に、仁王はおおっぴらに、丸井は髪を掴まれているので心の中で頷いた。






「そーいや、お前さんなら真田んちが道場って知ったその日にいいそうなもんやが」
「は?」
 学校帰り、一度家に帰って、荷物を持って来る道中に道が一緒になった仁王が切原に聞いた。返事は“思いつかなかったんス”。
「お泊まり会云々は興味あったんスけど、道場がそれとリンクしなくって」
「じゃなんで今」
「こないだ、氷帝の日吉に聞いたんスよ。偶然会って。この間先輩たちが道場に泊まりに来て迷惑だったって」
「ああ」
 氷帝の日吉は道場が実家だったか、と柳からのデータを思い出す仁王の横で、すっかりぐしゃぐしゃになった頭で丸井が。
「そういや赤也、お前寝言言うっけ?」
「さー? 同級生の話だと五月蠅いらしいんスけど」
「それは思い切り言ってるってことやぞ?」
「そっスね! あれ、仁王先輩とかは?」
「俺も少し寝言言うらしい。比呂士が言うとった。ブン太は寝言はいわんが部屋の端から端まで転がってくよな」
「余計なこと言うなぃ仁王」
「うわ俺丸井先輩の隣だけは避けよ…。………柳さんは?」
「……柳ぃ?」
「しらんな。というか真田や幸村もしらん」
「あの三人は昔っから合宿でも一人部屋、二人部屋だったじゃん。見る機会なかったって」
「修学旅行は?」
「クラス違ったし」
「二年時はあの三人が固まっとって、俺達誰一人組一緒じゃなかったからの」
「へー。てことは寝相初公開?」
「仁王、お前盗撮とかして女子に写真商売すんなよな?」
「さてな」
「否定しろ」
「仁王先輩ー! 俺柳さんの寝顔一枚」
「千円な」
「撮る前から商売すんな!」
 その頃、北の方角で真田と帰路を同じくしていた柳がくしゃみしたことは三人の知らない話だ。


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*前の拍手お礼文その三。拍手は小話に置きます。
 前のお礼はほぼ立海になってもうしわけなかった…。立海好き、このサイトに来てるんだろうか…。