*この話はPS2用ゲームドキドキサバイバルの四天宝寺がいるバージョンです。
 ゲームがわからなくてもわかるようにしたつもり…。
  








「暑…」
 休憩時間に練習もせず、なにをやっているのかという話だが、白石は参っていた。
 ここは、暑すぎる。
 全国大会前に行われた全国出場校のサバイバル合宿は、死活問題の遭難に変わった。
 救命ボートでたどり着いた島は目的地に違いなかったが、暑すぎる。
「白石ー、生きとっとや?」
 頭にかぶせていた濡れタオルを取って、千歳が上から聞く。
 逆光で彼の顔は不鮮明だ。
「あー…あれ、お前橘くんと話しとったんちゃうん?」
「桔平とは午後打ち合いすることになったと。だけん今は白石んとこおるよ」
「ふうん…」
「白石、日焼け止め塗っちょっと?」
「ああ、塗らな赤なりおる…」
「大変たい…」
 すとんと白石の隣に座り込んだ千歳がジャージの上着を脱ぐと白石の顔を日光から遮るようにかけた。
「少しはマシとやろ?」
「…余計暑いんちゃうんか」
「短い間だったらいい日光避けたい」
「……すまん」
 それもそうなので、素直に甘える。
「白石、可愛か…」
「こら、抱きしめんな。余計暑いっちゅーねん」
「白石は冷たか心地たいー」
「俺は保冷材ちゃうわ」
 やっとれん、と立ち上がって白石はすたすたと日光の下へ出ていってしまう。
「千歳ー、フラれたんか?」
「はりかかれたばい」
 謙也の声にぽへ、と笑って千歳は遠くなった白石の背中を見遣った。




「白石ィー!」
「おー、金ちゃん。コシマエくんと試合終わったん?」
「あー! 聞いてぇや! ワイあいつに“エンザンカネブドロウ”って呼ばれた!」
「……“遠山金太郎”を“コシマエ”風に読んだ読み方か…。うまいなコシマエくん」
「関心すんな白石ー! なんかないか!? コシマエを上回る読み方!」
「んなこと言われても」
 広場で打ち合っている越前を見遣って白石はないわぁと呟く。
「“越前”はコシマエ以外におもろい読み方あらへんやろうし…名前がリョーマくんてカタカナやしなぁ…」
「ワイやられっぱなしはイヤや!」
「金ちゃん、コシマエくんのその呼び方なんか一過性なんやから気にしたらあかん。
 元はといえば金ちゃんがずっと“コシマエ”呼ばわりしとんのが悪い」
「大会ではちゃんと越前て呼ぶ!」
「いや、金ちゃんは絶対大会でも“コシマエ”の筈や……」
 予想つくわ、と遠い目をした白石の襟首を背後から伸びた腕が引っ張った。
「っ……なんや、……………跡部くん?」
 意外な人物に、白石は捕まれたままの襟首をそのままにどうした視線を向ける。
「おい、白石お前あの氷帝の恥の小学校の同級生らしいな?」
「……それはまさか侑士のことか?」
「他にいるかあーん?」
「おらんわ…。なんかやったん?」
 襟首を離させてから、白石は跡部に向き直った。
「あいつ…立海の仁王と結託してなんか企んでやがる。お前止めてこい」
「それ、止める役どっちかっちゅーと柳生くんとか跡部くんなんやない?」
「いや、俺は忙しい。柳生じゃ奴らに歯が立たねえ」
「で、俺におはち?」
「そういうこった。無力化してこい、いいな」
 言うだけ言って去っていく跡部を見送って、白石はため息。
 しかし休憩時間に二人は見つからず、夜の時刻を迎えてしまった。



「う〜……」
 四人寝のベッドに大きな身体を丸めて押し込み、呻る千歳を見遣って機嫌直せーと謙也が言った。
「だけん…最低あと七日俺は白石のこと抱けんばい」
 ここじゃ無理ばい、と嘆く千歳に謙也はともかく財前はそのオツムの足りなそうな頭を叩いてやりたい(実際は足りすぎている筈だが、そう見える時がある)。
「千歳ー」
「しら…っだっ!」
 ロッジの扉を開けて入ってきた同室の男に、千歳は条件反射で起きあがって、勢いで頭をベッドの二段の底にぶつけてしまって呻く。
「阿呆か…」
「なんや白石?」
「ああ、なんや向こうで肝試しやるんやと。脅かし役山側。
 数人見繕ってこい言われたからな。千歳も謙也も財前も来ぃや」
「おお! それは面白そうやないけ」
「謙也クンは好きっスねえこういうの…」
「いいやんか! 光もや!」
「はいはい…」
 ひょいと二段目のベッドから飛び降りた財前の後ろで、ようやく痛みの治まった千歳が肝試し?と顔を出した。
「そう、お前も来い」
「んー…白石がやるならやるばってん…。金ちゃんは?」
「越前くんとなんやルールしらんのにポーカー対決しとる」
「金ちゃんやからなぁ…ダウトと勘違いしとるんちゃうかルール?」
 謙也の言葉に、あり得るわと言って白石はロッジを出た。




「で、謙也クンとペア…代わり映えしないっスわぁ」
 くじを引いた結果に財前が零すと、そらこっちの台詞やと謙也。
「はいはーい。ほな二人は二番手やから、俺ら先行くわな」
「おう行ってらっしゃい白石ー」
 行くでとペアになった千歳を招いて、白石は夜の森の中に足を踏み入れた。

「結構進んだな…」
「脅かしも結構おもしろかったとね」
「まあな…」
 懐中電灯の先にお堂と鳥居を見つけて、あそこやなと呟く。
「何事もなく来れてしもたなぁ…」
「何事もなくてよかよ?」
「そやな…。ええとボールをお堂に置いて…と」
 ボールを手に少し屈んだ千歳の背を見ながら、白石はそういや脅かし役には侑士もいたはずやんなぁと思った、時だ。
「…ッ!」
 背後からいきなり耳朶に熱い吐息を吹きかけられて背筋を走ったものに、白石は思わず小さな悲鳴をあげていた。
「白石っ!? っだ!」
 反応した千歳は、反応したはいいが反射でまたお堂の縁に頭をぶつけて声があがる。
「うわ…千歳間抜けやんなぁ」
 暢気な声は、今し方白石の耳を攻撃した人間のもの。
「侑士…」
「なんね? 忍足?」
 痛みに涙目になった千歳が頭を押さえながら傍に来て白石を腕に抱き込む。
「そんな防御せんでももうなにもせんて。はい蔵ノ介たちは合格な」
「侑士…なんやねん今の。肝試しちゃうやろ」
「ええやん。ようはビビらせればええんや」
「…跡部が言っとったよからぬ企みって」
「ああ、これ。仁王も今頃やっとるで」
「………なんや、もう、ええ。あ、それ財前やのうて謙也にやったれ。財前は無反応っぽい」
「そやな。そのつもりや。ほな俺は二番手待つわ」
「ああ、…ちょお疲れた」
 侑士と別れて、来た道を戻る。
「いつまで自分は俺をだっこしとんねん」
「だけん…」
 自分を離そうとしない千歳に、白石はため息。
 嫉妬したしないの話だろう。こいつはそういう男だ。
 しょうがないわと呟く。
「?」
「千歳」
 腕をふりほどくと向き直ってその首筋に腕を回す。
 びっくりしている千歳の隙を盗んで、キスを一つ。
「…これでええやろ」
「…白石」
「ここから帰ったらいくらでも鳴いたるから、今は我慢せえ」
「……」
 行くでと背を向ける白石を見遣って、千歳は触れられた唇を押さえると。
「白石…ほんなこつ可愛か―――――――――――――!」
「うわ! やから抱きつくなー!」
「…うわーそこのバカップル。進路妨害っスわうざいっスわー」
 追いついてきた財前の一言が夜の闇にやけに印象的に響いた。


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 四天宝寺もドキドキサバイバルに間に合っていたらというお話。
 海側設定。
 千歳・白石・謙也・財前で同じ部屋。金ちゃんがハミゴ。
“エンザンカネブドロウ(カネブトロウかもしれない)”はプラチナコンビ(白石・金太郎)がマンパの月のオンザレイディオにゲストに来たリョーマが言った言葉。