嘘を吐く貴様らの舌なんてちょんぎって捨ててやる。 なにかの歌のフレーズが頭をよぎった。 「なんで、俺こんな目に遭うてんの?」 ちゃらと鳴る鉄の、鎖のついた枷に首と両手を拘束されている最中にはなにも言わなかったくせに、白石は拘束され終わってベッドに押し倒されてからそんなことを言った。 「光が言うたけん。今の白石を逃がしたらいかんて」 「……財前に『助けて』言うたんは間違いやった…」 白石が顔を背けてぼやくと、ちゃらと鎖が鳴った。 気に入らなくて、千歳はその白い喉笛にかみつこうとして、出来ないことに思い至る。 枷が邪魔だ。 獅子楽にいた頃、橘以外の友人は皆こういった友達ばかりで、虚勢だったり素だったり。 付き合いやすかったが、これやるよと餞別にもらったこの枷には困った。正直。 使う相手などいないと言ったが、すぐ見つかるって。と全くこちらの戸惑いを察しない返答。押しつけられた、と橘に言うと流石にそれは引き受けられないと苦笑された。 一人暮らしをする千歳と違って、家族で引っ越す上、年頃の妹がいる橘は余計仕舞い場所に困るということがすぐわかって、すまんねと謝った。 そのままなんともなしに部屋の奥にあった枷を、白石に使う気は全くなかった。 今日、財前に電話で呼ばれるまでは。 ひどく参った調子の白石を見て、財前から一通りを聞かされて、任された。 一晩財前の家に泊まった白石は、大事にされるのが辛いと言った。 「どげんして、光に『助けて』や言うたと」 「…………言うたら、はぐらかされてくれると思うた」 助けを決して求めない彼の、虚言の救い。 言われた瞬間、財前の方が泣きそうな顔になったという。 彼は、酷く参っている。 普段思いやる部員にまで、そんな顔をさせて。 なら、ひどくしてやる。大事にされていると、忘れさせてやる。 「白石、」 「…なんや…っ…ぁ」 呼びながら下肢の奥のそこにひたりと熱をおし当てる。 「……や、そ…な」 まだ慣らすような行為は一切していない。そのまま貫かれたらどれほどの痛みか。 だが、お前が言ったんだろう。大事にされたくないと。 「…ぁ…っうぁ…!」 悲鳴のような拒絶を聞かず、一気に貫いた。 肉が裂けて、下肢が血に濡れる。 「あ…ぁ…うぁ…っ」 「白石、舐めて」 貫かれた衝撃で、大きく呼吸を繰り返す彼の開きっぱなしの口に言いながら待たず指を二本つっこんだ。 「ん…っ」 両方からの圧迫に、彼は喉を鳴らして悲鳴をあげたが、無視をした。 「…ん……ん…っ」 苦しそうに眉を顰めるのも構わず、後ろは強く犯し続ける。 出血が潤滑液になって、その度水音が鳴る。 口から引き抜いて、濡れた指を奥の、自分の性器が出入りするそこにひたりと当てた。 彼の顔がびくりと怯えに竦む。 「……な、なして………そないな」 「白石が悪かよ」 「………や、やって、千歳には、言えへん」 「どげんして?」 強く問いつめて、指の一本の先をそこにねじり込む。 「ッ………や、やって」 ちゃらと鳴る鎖で身動きも取りづらそうにしながら、白石は泣きそうに呻いた。 「……俺ら、友達やんな?」 恋人やない―――――――――――――と呟いた白石の下肢に、性器の押し入ったそこに指を遠慮なく突き入れた。 「うぁッ…!」 「それ以上言うと、本気ではりかくばい」 「…ぁ…ッ……うぁ……」 「な、白石…」 出し入れを早めると、すぐ絶頂を知らせる悲鳴が漏れた。 「………と…もだち…やんか…っ」 「友達に、俺はこげんことせん」 「…やっ…て………いく…ら…大事…したって………」 白石の頬を、涙が流れた。 「一度も、俺を…………」 好きや言わへん … 。 そのまま意識を失った白石の頬に伝う涙を拭って、そうかと思った。 ずるりと性器を引き抜くと、血がとろりと太股を伝う。 好きだと、伝えていなかった。 恋人の関係だと思う。 白石は、好きだと言ってくれる。 けれど、自分は言わなかった。 いつだって、言おうとすると白石は言ったらあかんよと笑う。 痛いと笑う。 そのころから、気づき始めた。 彼は、自分を軽んじる。思いやれないと。 だから、傍にいて思いやれるようにして、それから目一杯伝えてやろうと思った。 けれど、白石は本当は待っていたんだ。 自分が傷つくことを無視してでも、“好き”という言葉をくれる誰かを。 拒む愛情すら、惜しみなく、出血する傷にすら目を背けず、愛してくれる誰か。 俺は、それが出来ていなかった。 待つことに決めて、彼を傷つけてまで伝える努力をしなかった。 無茶なのは、わかっていた。 だけど、謙也たちとは違う一線で触れてきてくれたお前なら。 言ってくれるんじゃないか。 傷ついてもいい。すぐ治してやるから。 唯頑なに守るだけでなく、傷つけないように愛するだけでなく。 唯傷つくことも全て愛してくれる人。 そうしたら、俺はもう自分を自分で愛していいんだと思える。 だから、お前に触れて欲しかった。 嘘を吐く貴様らの舌なんかちょんぎって捨ててやる。 何かの歌のフレーズ。 嘘を、吐いたのはこの舌。 「そげんことなかよ」 覚醒すると、傍で千歳の楽しげな声が響いた。 電話しているのか。 首にも、手にも鎖はもうない。 「ん、またな、桔平」 相手は橘らしい。切ると、起きた白石に気付いて、起きたとと笑った。 あまりに、いつも通りの態度。 「…………千歳」 踏み込んで、くれるだろうか。 言ったら。いえたら。 彼に、この言葉を心から言えたなら。 「ん?」 「…………………」 傷付けて欲しい。そして癒して欲しい。 どこが傷ついたっていい。だから、好きと言って。 傷ついた傷ごと、抱きしめて。 「…助けて」 囁くようにこぼす。 瞬間、強く抱きしめられた。 「白石」 呼ぶ声に、予感がした。 ああ、この後、傷つくのは自分。 けれど、きっと彼なら。 「……好いとうよ」 呼ばれた愛情に、思った通り心は出血して、酷く痛い。 けれどそれすら癒すように、目を背けず抱きしめる大きな身体。 「…千歳…っ」 「…ん?」 手を、背中に回す。 「…俺、千歳の恋人になってええやんな?」 「…うん。白石しか、俺は欲しくなかよ」 「……なってくれるやんな?」 「うん」 「……“千里”………ッ…」 愛してる―――――――――――――。 |