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キミを愛そう/星はキミを抱いている
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木手は器用なのか不器用なのかわからない。
木手との待ち合わせの間に、千歳は不意にそう思った。
テニスコートでよく会う、テニス仲間に、自分とよく打っている木手が如何にも器用そうだと言われたからだ。
実際、器用なのだが。この間など、今日とは違って先に来ていた木手が、待っている間なにをやっていたかといえば、年が離れているという妹の外出用のバックを手作りで縫っていた。
それは素人目にも、店で売っていたら一万はくだらないんじゃないかという見事なできばえと可愛らしいデザインのもので、本を参考にしたのかと聞いたら、自分でと言っていた。どうも木手は武術以外に洋裁という特技があるらしかった。仕上げはミシンでやったから、全部手縫いなわけではないと木手は言っていたが、今日日、まつり縫いの縫い方はおろか、普通に縫うことすら指を刺す女が多い世の中で、木手のそれは立派な才能だと思った。
そう、それで済むなら“木手は器用”と答えればいいのだ。
しかしそうではない。木手と一度、コートが空いていない間、時間つぶしにインターネット喫茶に行ったことがあった。
そこで木手はこういった。
たまに仲間との会話で聞くんですけど、ウィンドウズとかマックってなんのことなんですか?
驚いた。今年一番驚いたことだと思う。今時、基礎中の基礎のパソコンのその種類すら把握していない中学生。いくら沖縄人とはいえ、ちょっと疎すぎないか。そう思った。
パソコンはないのか、と聞いた。ある、と答えた。デザインのラフを決めることや、部活のメニュー作成に使っている、と。
それで何故知らない、初起動の時や購入の時に設定しなかったかと聞くと、全部父親がやったのでわからないと言った。案の定、彼は自分用のパソコンを持っているにも関わらず、「SAFEモード」を知らなかった。よくそれでパソコンがウイルスに浸食されないな、千歳は木手の代わりのようにそんな危機感を持って思った。
メカオンチなのだろうか。しかしこの間見せてもらった技術の授業の工作はよく出来ていた。コンピューターなどの類の仕組みを理解していないわけではない、なら何故。
そこまで考えてやめた。
木手永四郎という人間は、とにかく千歳や、半月前から打ち合いに混ざるようになった橘の理解の範疇を越えている。
武術をやっていて、線や仕草、身体の芯の動きが何処か女性的な癖、性格はかなり男らしい攻撃的とさえ感じる気の強さで、それでいて神経質で、変なところで臆する。
そういえば、初めて会ったのは、木手が気持ち悪そうにうなだれているのを、九州のこの公営コートで見かけた、二年に進級する春休みのことだったかと思い出した。
最初、どうしたのだろうと思った。
見慣れない顔だ、というのが千歳の注意を引いた。
当時、比嘉の名は有名ではなく、当然その部員である木手の顔など九州ですら知る人間はいなかった。
旅行客とは思わなかったのは、テニスバックが傍らにあったからだ。
加えて言葉を聞いてもいなかったので、この近辺の学生だと思った。
何度も俯いたり、背筋を伸ばしたりしながら、口元を押さえて苦しそうにしている。
出先で熱が酷くなって帰るところだろうか。だったら、一度吐けば大分楽になる。
その時、コートには千歳と、千歳の相手をしていた橘しかいなかったので、千歳は橘に“ちょっと待ってくれ”と言って、木手に近寄った。
「大丈夫とや?」
驚かせないように声を掛ける。
と、それだけ顔を青白くして、余程気分が悪いのだろうに千歳の近づく気配にはもっと前から気付いていたというように全く驚かず、顔も上げずにコクリとだけ頷いた。
「そっち、洗面所あるから。歩けるか?」
「………行っても、吐けないから…」
弱々しく彼はそう言った。ということは何度か吐いて楽になろうとしたのだろうか。
ふと見ると、側に半分くらい手をつけた弁当箱があった。
少し、疑問に思った。この男は、身長も低くはない。一般的な体格の、普通の男子学生だと思う。それにしては、弁当箱のサイズはまるでダイエット中の女子が食べるような、男なら五回口に運べば中身が空になってしまうような小さいものだった。
「吐けんのか?」
気付くと、側に来ていた橘がそう聞いた。
それにも全く驚かず、彼は頷く。
本当に気持ち悪そうだ。失礼かと思いながらも、ただの風邪ではないかもしれないと、確認をとってから額を触ってみた。熱くはない。
そうしている間にも、顔色はどんどん悪くなっていく。
「おい、近くに病院あると。連れて行った方がよくなか?」
ただの風邪ではなく、なにかの病気かもしれない。そう思った橘が完全に顔色が真っ白になった少年の手を引いて言う。
その指先を見て、それに賛同したくなった。少年の両手の指にはタコのようなものがあった。ラケットの振りすぎとか、運動不足で出来るものではない。
明らかに日常的に吐いていて、吐く時苦しさのあまり洗面台の縁を強く握り過ぎて出来るものだった。
少年は大丈夫と言いたいのか、首を左右に振ったが、その仕草すら嘔吐感を酷くしたのだろう、すぐ身体が傾いで、咄嗟に受け止めた千歳の腕の中でぜいぜいと荒い呼吸をくり返す。
もう口で“大丈夫だ”という余裕もないのだ。
「桔平。病院先行って、言っといてくれ。俺ば苦しくないようゆっくり運んでく」
「わかった」
今度は少年はなにも否定もしなかった。もうほとんど意識が危うく、自分たちの言葉すら聞こえていても理解に至っていないのだろう、そう思って、その身体の膝と頭の下に腕を差し入れると持ち上げて、出来るだけ振動を与えないように歩き出す。
少年のテニスバックは橘が持っていってくれた。今日はテニスをするからと、下駄を履いて来なくてよかったと思った。
少年は予想に反して、沖縄の学生だった。
病院で診察を受ける際に、身分証明になるものを探した時に見たのが沖縄の知らない学校の学生証だった。
木手永四郎。それが彼の名前だった。
しばらく待つと、看護婦が出てきて、木手という名の少年の状態が落ち着いたことを教えてくれた。
安堵したが、しかし看護婦は不安になること言った。
木手くんもね、無理して食べないでいいのに。そういう病気だから。いつもここに来るの。同じ状態になるまで我慢するから。今日はお友達が一緒にいてよかった。
彼は、日常的にこの病院の世話になっているのだろうか。
すっかり千歳と橘を木手の友人だと勘違いしている看護婦に、彼はなにか運動に関わる病気なのかと聞いた。
するとそこで、看護婦は二人が木手少年の友人ではないとわかったのか、慌てて“ごめんなさい”と謝った。今のは、口外しないでねと。
よく世話になっているのなら、大丈夫になれば自分で帰れるだろうが、どうしても気になって二人は木手の意識が安定するまで待合室で待った。
そこに、如何にも沖縄の人種だと思わせる浅黒い肌の少年が複数入ってきた。
口々に“木手が運ばれた病室ってどこ”“看護婦に聞いてこいよ”“だからわったーもついていくっていったのに”などと言っている。あの少年の友人らしかった。
「あー、あの」
千歳がその少年たちに声を掛けた。
その中の、金の髪の背の低い少年が気付いて“なんか?”と聞いた。
「木手……くんの友達か? 部屋ば、知っちょるけど」
「じゅんに? なら案内して………あ、永四郎を運んでくれた人か?」
「一応」
そう言うと、彼は“悪かった。わったーが離れるんじゃなかった。ありがとう”と人懐っこく笑っていった。
「あれ、なんかの病気か? テニスばやってる?」
「………病気っていえば、そうやんに……。テニスはやってる。そのうちわかるさ」
「凛ー! 病室どこさー!」
「病院で大声ださんけ裕次郎! 今聞く!」
「………やーも出してるさ凛くん」
人一倍体格のでかい少年が、そうつっこむ。
凛と呼ばれた金髪の少年は、千歳から場所を聞くと一度頭を下げて足早に去っていった。
しまった、名乗らなかったし、名前も聞かなかった。
しかし本域の友人が来た以上、居座るのもまずいだろうと、千歳は橘と仕方なく帰ることにした。
それから数日して、獅子楽に来客があった。
その少年だった。
今日は小さなバックのみで、ラケットが入っているらしきバックは見当たらなかった。
見る限り、顔色は大丈夫そうだった。
「すいませんでした。この間ご迷惑をかけてしまって」
少年は律儀に謝罪と礼を言うと、二人に小さいが高そうな洋菓子の小箱を手渡した。
「普段は注意してるんですけど、最近どうも。調子が狂っていて。
助かりました」
少年は再三に礼を言った。そこまでされるとむずがゆく、申し訳なくなって、二人は顔を見合わせるととりあえず部員のひけた部室に案内した。
部室の簡素なベンチに座るよう言うと、彼は多少遠慮しながら、大人しく座った。
遠慮する方が失礼だと思ったのだろう。
「いいんですか?」
改めて聞けば、その声は口調こそ標準語だが、明らかにアクセントが訛っている。
あの時は事態が事態で気付かなかった。
「なにか?」
「俺がテニスやってるってご存じでしょう? 部室になんかいれてしまって」
「…あー、よかよか。気にせんで。見られて困るものはなか」
千歳が言うと、少年は逆に“それは残念です”と呟いた。
意外と剛胆な性格なのだろうか。初対面が初対面だったから、丁寧語も相まっておとなしやかな少年に見えたが。
「そういえば、よく俺達ってわかったとね? お前の友達にも名乗っとらんかったよ?」
「ああ、気分が悪かったので、声に出して聴けなかっただけで、見た時点で橘クンと千歳クンだというのはわかってましたよ。九州地区でキミ達は有名です。
……なのに平古場クンたちは」
あの友人たちのことだろうか。おそらく、二人を獅子楽の“橘”と“千歳”と気付かなかったあの友人たちに対してだろう。ため息を吐く。
「キミは、テニス部か? なして九州におったと?」
「沖縄もブロック体会は九州でしょ? 九州のテニス学生の実力を見るのによく来るんです。ま、家の都合のついでで。ただ、最近どうも調子が悪いのを失念していたみたいで」
「やっぱり、沖縄の学校のテニス部員か」
「聞くんですね。キミ達は」
「…?」
木手は意味のわからないことを言った。
案の定、意味のわからない二人に、木手は笑って。
「九州の、それも全国常連の獅子楽にとって、沖縄勢などただの試合の手間の消化枠。
眼中にないと思ってましたよ。事実、通してくれた部員の方々は、“沖縄の学校の生徒なら入っても問題はない”という態度でしたよ? ま、口には出してませんでしたけど」
「あー、……失礼ばしたね。すまん」
「何故キミ達が謝るんですか」
「や、同輩が失礼したと。俺は別に沖縄だから弱かとは思わんとよ?」
「だな。事実、昨日監督が、沖縄のある一校には注意しておけって言っていたし」
「沖縄比嘉中」
なんだっけ学校名、と考え込んだ橘は、木手の呟くような言葉に、“ああそれ”と頷いて、はたとなった。
「…………知っとる学校か?」
「沖縄にはそもそも学校数自体少ないと思いますよ」
「あ、そうか。学校名くらい、近所なら知ってるか」
「俺、そこの生徒です」
木手は矢次に言った。
「……比嘉中?」
「ええ。そこのテニス部です。明日の始業式から二年になります」
強さを称えて言い切る瞳に、監督の言葉が蘇った。
あそこは監督も三年もだらだらしてるから、あまり敵にならない。ただ去年入った今年の新二年生の一人が新体制を作ろうと沖縄中から強い選手を集めて入部したらしい。その一年の指示で、体制や指導が格段にレベルアップしてるって話だ。今はまだ敵にならないだろうがあと一、二年もすれば台頭してくるだろう。確か、その一年がなんと言ったかな。
「………(監督の言っていた新体制を作ろうとしてる)」
「(新二年生…)」
「「(間違いなくこいつのことだ…!)」」
名前を監督は言っていなかったが、これは直感だった。テニスをやっているものの戦場での勘と言うか。目の前の少年は、じっと見れば普通の学生で済まないことが見て取れた。
木手は、獅子楽で強いのは、キミ達だけ? と聞いた。
「………」
素直に答えるのも、なにか嫌だが、事実今の獅子楽の強さは自分と橘の強さで引っ張っているようなものだ。
自分たちの在学中に実際に比嘉中が、彼が、その集めた強い選手を引き連れて台頭してきたら、自分たちはともかく、他の部員が負けるかもしれない。ひいては二人では二勝しかあがらない。もし比嘉の選手の方が他の部員より強かったら間違いなく九州地区のピラミッドがひっくり返る。
そう思えてしまったのは、目の前の少年が限りなく、本気の目をしていたからだった。
それから、よく木手は九州に来た。そのたびに会って、千歳は彼とテニスをした。
彼は親族の都合だと言った。彼はどこかの道場の本家跡取りで、九州にもその分家が多いのだと言う。橘は都合があったりあわなかったりで、来たり来なかったりだ。
あの時期が特に、親族の期待が強く、元々持っていた拒食の症状が酷かったのだ。彼はそう言った。
「テニスをやっているのも咎められて、子供ですからね。自分が悪だと思いこんだらもう真っ逆様になっちゃって。それでしばらく、点滴しに病院行ってはろくに食事もしないでいましたけど」
待ち合わせにやってきた木手はそんな風に言った。
「俺達のとこに礼に来た時は顔色よかったとよ?」
「あれはまた気持ち悪くなっては迷惑の賭け通しで意味がないと思って、なにも食べないで行ったんです」
「……今、ちゃんと食べられてるか?」
「食べてますよ。夏の大会でも成績を残せそうだから、安心材料が増えると食欲もわくんです。精神性ですからね」
「木手ー! わんさき打ってていー!?」
「いいですよ! その代わり、ダブルスね。あまりコート数多くないんだから」
茶髪の甲斐という仲間に、木手は叫ぶように返事をした。
あれから、あの金髪頭やその仲間たちもたまに打ちに九州に着いてくる。
自分と橘の勘は的中だ。彼らは間違いなくあと一年もすれば全国レベルになるだろうと予測がついた。その中でも、木手は間違いなく全国区だった。
「千歳クン?」
しかし自分が彼に覚えたのは、支配欲と性欲だった。
その仕草が女性的なのがいけなかったのか、最初の印象が弱々しかったのがいけなかったのか、それともその精神的病と正反対の強さか。
唇を重ねてやると、木手が自分にしかわからない程度に頬を染めて、“今日も?”と小声で聞いた。
事実、千歳は木手に会うたび、木手を抱いていた。
自分に恋愛感情を抱いた風ではない木手が、何故大人しく抱かれるのかまではわからなかったが、自分のそれはただの支配欲で、木手という男を所有したモノになりたいだけで、恋心ではないと思っている。
それを知って、それでも木手は拒む様子はなかった。
「待って。甲斐クンたちに、打ってていいと言って来ます」
木手はそう言って一度千歳から離れた。
誰も使用しない休憩室に、木手の声が漏れている。
外に仲間がいることを意識してか、いつもより過敏になっていて、より声を殺そうとしている様が欲情をくすぐった。
「……永四郎。入れてよか?」
「…い…つも聞かないのに、どうして」
「そうやったか?」
「…ッ……あ…あ…」
体内に入ってくる塊に、木手は椅子に上半身を任せた姿勢で深く喘いだ。
何度抱いても木手の体内はきつく狭い。
慣れないのか、それとも武術をやっているからか。
「……ッ………や………待っ……動かな…ッ…」
とぎれとぎれの声は制止を意味したが、千歳はそれを聞いた試しがない。
この時は、木手を思う存分鳴かせるのが快感だったからだ。
制止を聞かず強く動けば、荒い呼吸についで意味をなさない喘ぎが幾度も零れた。
しかしその身体が急に緊張したように強ばった。
何故だろうと思って、休憩室に近づく足音に千歳も遅れて気付いた。
今の状態はまずい。先程見た限り、木手の仲間と橘以外に人はコートやこの付近にいなかったが。
橘ならいい。この関係を知っている。
女関係を半年前ほどから全くしなくなった千歳をいぶかしんで聞いた橘に聞かれて、言ってしまったからだ。木手がいるから、と。橘はふーん、と言っただけであまり気にした様子はなかった。
ただ、木手の仲間ならまずい。木手もそれを思っているのだろう。顔色が悪くなった。
「千歳。いるとや?」
声がかかって、安堵した。橘だ。
「いるけど、一人か? 甲斐たちは?」
「テニスに夢中」
「そうか」
扉越しに言葉を交わす。橘は鈍くないのだから、もうわかっただろう。
それで去っていくと思ったが急に扉が開いて、その身体は勝手知ったるように入り込むと素早く扉を閉める。木手が小さく息を呑んで、視線を逸らすように俯いた。
橘は後ろ手に鍵を閉め直すと、千歳の“お前、鍵どしたと?”という言葉にピンを見せた。
どこで学んできたのやら。
「なんか? 今桔平の相手できんとよ?」
相手、とはテニスのことだ。橘と関係を持ったことはないし、持つ気もない。
橘は笑うと、おもむろに緊張して身体を固くしたままの木手のおとがいを掴んだ。
「ッ…!」
「……髪ば崩れて、そういう顔してると綺麗たいね」
これを独占してるなんて、千歳は意地悪かと言う。
「……や……な、なに………」
木手は基本、男に抱かれることにあまり抵抗がない様子だった。
ただ、それは二人きりの場合であって。この橘の侵入は違うことを意味していて、それを察したのか、顔が恐怖に引きつった。
千歳が木手に恋愛感情があればなんとしても阻止しただろうが、生憎そうでないことは木手も知っている。木手に対する相応の独占欲はあれど、それが他の相手なら自分のモノを荒らすものと判断して排除しただろうが、橘である場合、そうは限らない。
そして、事実その通りだった。
「……あ……ッ……あ…あ、あ、あ、あ、あ…ッ…や…いっ……!」
漏れる声は激しくなって、木手がより切羽詰まっていることを教えた。
体内に無理矢理入り込んだ二つの塊に、木手はもう痛みしか感じていないのか、その頬の赤みはすっかり青に変わってしまっている。
「……い…ッ……む…無理……も…ッ」
木手の本気の制止もあまり聞かず、無理に貫くと、橘も同時に達したのか、息を吐いて木手の中から引き抜いた。
自分と向き合う形で交わっていた木手は、体内から全てのものが引き抜かれると、そのまま千歳の大きな身体に倒れ込んで来た。
見ると顔は真っ青で、意識もなかった。
「………」
無理をさせすぎた。そういえば、二人で一人の相手を抱いたことがなかったから、ついそれを行うことばかりに気がいって、抱かれる人間の負担を考えていなかった気がする。
見れば木手の足には真新しい血が伝っていた。
そこで千歳も、青くなった。
自分はまだ中学生で、お互いスポーツをする人間だ。
責任のとれないくらい、木手が身体を悪くしたらどうしようと焦った。
今度は木手のことを思っての焦りだった。
とりあえず血を拭いて、服を着せると負ぶって休憩室を出た。
甲斐たちはまた拒食の症状が出たと思ってくれるだろうが、千歳は身が重かった。
木手は多分、もう九州には来ないだろう。
改めて酷いことをしてしまったと後悔した。木手と打てなくなる、会えなくなると思うと胸は痛んだ。
愛ではなくても、恋心のかけらくらいは、多分自分は木手に持っていたのだ。
だから、同じように木手も自分を想っていて、なにをされても許してくれると自惚れた。
そんな筈はないのに。
木手が初恋だったように思った。
それがこれで終わる。
まるで親の死に目を見てきたような顔の千歳の顔に、橘は悪かったと謝ったが、千歳には聞こえていなかった。
あれから数ヶ月が経った。
橘は自分が獅子楽を去るまで、何度も気遣って自分が謝ってくると言った。
橘も酷いことをするつもりはなかったのだろう。ただ、自分と同じように欲情してしまったのだ。木手には、そんなところは全くなかったが、ただあの瞬間、なにかが噛み合ってしまったのだと思う。
四天宝寺に転入して、程なく部長の白石を愛するようになって、本当に思い返して酷いことをしたと思った。
白石に自分は溺れている。傷付けたくない。誰にも笑って欲しくない。自分だけに笑って欲しい。そんな独占欲を抱えていても、弾けることを許されるのは白石と二人きりの時だけだ。
白石のためを思えば、他の人間の前で“これは俺のものだ”と白石を抱くことなど出来ない。
やってやりたいが、そうすれば白石が傷付くと思うから、大事で出来ない。
今の自分は白石が全てで、彼が可愛くて仕方なかった。
「阿呆」
その頃のことを、白石にある日、自殺する覚悟で漏らすと白石は半眼になってそう斬り捨てた。
告げたのは、白石に隠し事をしたくなかったからだ。
白石は幾分嫉妬もしたようだが、それ以上に木手が可哀想に思ったのか、千歳を蹴って(白石は外面はいいが足癖が割と悪い)木手くんに抽選会で会ったらどない顔したらええねんとぼやいた。
情事の後だったので、蹴られる形でベッドから追い出された千歳は、全裸で寒いと隣のベッドからシーツを引っ張った。
「あーあ、木手くんも可哀想に。こんなタラシにひっかかってしもて」
「……蔵ノ…」
「今名前で呼ぶな。気分悪い」
一刀両断されて、ああ、これはしばらく抱かせてもらえないなと思った。
「全く、木手くんに嫉妬したいのやまやまやけど、可哀想が先たって思えへんやないか」
「………白石、そこで“今は俺だけやって言ってくれへんの?”とか言わんばいね……」
ぼやいたら辞書を投げられた。地雷だったらしい。
「言うか阿呆。木手くんが千歳許すまで、俺は自分から千歳にキスしてやらん」
「………それ一生してもらえんとよ!?(許してもらえない自覚がある)」
「千歳、今の事態をなんちゅーか知ってるか? 全国共通語やで」
言いながら白石は簡単に着替えると、鞄を肩に引っかける。
帰るつもりだ。まずい、ここでなにも言わず帰したら本当に一生白石からはなにもしてもらえなくなる。
それどころか多分大会終わるまでこういうことも出来ないだろう。
咄嗟に抱きしめようとしたら、思い切り下着をつけただけの股間を蹴られた。
あまりの激痛にうずくまる。白石と付き合うようになって、本当によく蹴られる。
彼は見た目に反して毒舌家ではないが、その分足が出るのが早いので、気をつけないといけない。
彼の蹴りを食らう心配がないのは、彼のお気に入りの遠山と謙也くらいだ。
財前もよく余計なことを言って蹴り飛ばされている。
この間銀まで蹴られていたのには、白石を尊敬したくなった程である。
(それでも白石が信頼されるのは、決して理不尽なことで蹴ったりはしないからということ。蹴っても数分痛む程度に加減するからということだ)
おそらく理不尽な理由でも、理由なくとも蹴られるのは自分だけだろう、千歳はともすれば気絶しそうな痛みの中でそう思った。
白石は玄関に立つと、綺麗な顔に阿修羅のような色をまとわせて言った。
「“因果応報”―――――――――――ちゅーんや。ほな、当分ひっつくな。ほなな」
そう断罪を下した白石は振り向かず帰って行く。
玄関の閉まる音がして、千歳はうずくまった。
橘が昔謝ってくれた時は、本当にもういいと思ったが、今度会ったら恨み言の一つは聞いてもらおう、そう思った。
後書き
最後千歳×白石で終わる木手受けって。そもそも千歳+橘×木手って。
…どんだけ茨だよおいお前(セルフジャッジ)
てゆーか千歳白石サイトで千歳木手を書くな―――――――――――!千歳白石の方に申し訳ないだろ!(セルフジャッジ2)
というか、ここまで性的描写(それも3P)を書いたのは実際初めてです。これ以上はもー書けません。
もー無理。もー限界。やおい書いてる作家さんや管理人さんを心底すげーと思います。
書けないよ…。無理。なのでもしキリリクくださる方、これ以上は求めないでください。
いやマジで。
平古場たちにもっとやんちゃさせるつもりだったのに。
木手の特技が確か洋裁だったと思って書き終わったあと、40.5を見て間違いと気付く。「服飾デザイン」だっつの。
まあいいかと思ってしまう。
ていうか書き終わった瞬間、あれ? …って思った。
意外な組み合わせを書くつもりがどう間違ってやおいになった、みたいな。
多分、そのうち書く続きで橘と千歳はあっさり木手に許されてますよ。この未来が「星の向こうで〜」ですから。
許されて無くても千歳は助けるでしょうが、そのあと普通に会話できないから。大会前には会って許してもらってると思う。
多分、木手は途中で気絶しちゃったことを悔しくおもえど、それ以上はあまり思ってなさそーな…。
だから罰が悪いよーな感じの、変なコンプレックスを持ってそうな人だなぁ、と。
二人がかりとかは別に、って感じの。いざとなったら本気で嫌なら投げ飛ばしてるし。みたいな。そんなヤツ。(どんなだ)
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