ただ、願う。






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キミを愛そう/望む者−星が泣く日にキミと番外
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 浮かんだ疑問。まさか、そう思った。
 試合を見ただけだ。でも、でも。
「部長……」
 コートの上で崩れ落ちた相手を見つめる瞳は哀しく、愛(かな)しく瞬いていて。
 彼は彼を想っている。そう、俺に伝えた―――――――――――。





「部長って、好きなの?」
 比嘉との対戦が終わり、次の試合までのインターバル。
 あとは帰るだけだったけれど。
「なにがだ? 主語がないとわからないんだが」
 東屋で問われた言葉に、手塚はいつもの顔で越前を振り返った。
「沖縄の、部長」
 見透かすような瞳で言われて、正直息が詰まった。
 あまりに焦がれて、叶った対戦はあまりに苦かった。
 彼は、昔の彼ではなかった。
「…よくわかったな」
「やっぱり。向ける視線が、違ったもん。他の、相手と」
「そうだな」
「好きなの? ……叶わないっスよ、多分」
「何故お前にそう言える?」
「見た時、ああ多分部長はこういう人に恋するんだって思った。
 あの沖縄の部長のテニス、…部長のテニスに似てる」
 似ている?
「確かに、やり方は汚かったけど。なんていうんだろ。種類が似てる。
 勝たなきゃ意味がない、だから勝つっていう、勝つ為の、それだけのテニス。
 そういう、芯みたいなのが部長に似てた」
「……勝ちたい、そう思ってテニスをするのはあいつだけではない。
 立海の、幸村や真田。跡部だってそうだろう」
「そうだけど、あの人達は三連覇とかそのため。勝ち続けるためのテニスだと思う。
 今勝たなきゃ意味がないっていう、沖縄の部長のテニスとは、刹那さが違う。
 沖縄の部長は、そういうテニスだった。今勝たなきゃ、未来に繋げなきゃっていう。
 一心に一人で責任を背負ったテニス。…部長が、関東の氷帝の跡部さんと戦った時のような」
「……」
 呆れるほど、愛していた。
 望んでいた願い。キミは、もう、いないのに。
「……」
 手塚は俯いて、遠くを見遣った。
 夕日が、沈む。
「……それマジ?」
 声がかかった。
 気付けばまだ帰っていなかったのだ。比嘉中の甲斐裕次郎がいた。
「……木手が好き? マジで?」
 真っ直ぐな声。どいつもこいつも、同じ目で、俺を見る。
「……ああ」
「…無理だな。かなわん」
「…何故、言い切れる」
「…木手は、―――――――――――――――木手を、やーはどう思った?
 汚いって思ったんだろ?
 わん、そんな奴が木手を好きになって、いいわけないと思う」
「……」
 知らない。
 俺が彼にかけた想いを。
 この、五年の想いを。
「……昔の知り合いだかしらねえさ。昔の面影求めて、今のあいつ否定すんなら、そんなん叶うかよ。
 お前は、…面影に恋してるだけだ」
 声が、出ない。
 反論したかった。
 出来なかった。
 俺は、今のあいつを好きだと言えるのか?
「…わかったなら二度と言うな。いいな」
 甲斐はそう言い置いて、踵を返した。
「……面影に、恋をしている…か」
 そうかもしれない。
 それでも、今でも思う。
 彼を、思う。
 ただ、恋しいんだ。
 どうやったら、手に入る?
 俺の、運命の人。





「甲斐クン、遅いですよ。バスが出るところだったでしょう」
 ホテルに向かうバスを止めていた木手が、最後にやってきた甲斐に文句を言った。
「すまんすまん」
「あなた一応副部長なんですから、後輩心配させないでくださいね」
「一応…ってなんだよ馬鹿えいしろー」
「そのままの意味です」
 素っ気なく言って、彼はバスに乗り込む。
 タラップを踏んで後を追った。
 その額に、血の滲んだガーゼが貼ってある。
 …汚い、か。
「……木手」
 隣の座席に座って、ただ呟いた。
「なんですか?」
「…………………少なくとも」
 あの目が、どんなに強くこいつを責めたって。
「…少なくとも、俺は、望むよ」
 俺は、決して責めたりしない。

『そんなお前の一勝を、部員たちは望んでいるのか?』

「…甲斐クン」
「望むよ……」
 泣きそうに呟いた、語尾が滲んだ。
 木手が笑って、髪を撫でてくれた。
 バスが動き出す。
 もう、会わなければいい。
 遠ざかる手塚を思って、そう願った。



 戻りたいなんて言わないよ。ただキミに、もう一度だけ会いたい。






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