おめでとう。有り難う。キミに感謝してるんだ。






---------------------------------------------------------------
幸せの意味を考えるなら、あなたは
---------------------------------------------------------------











 幸村くん、と呼ぶ。

 そう呼ぶのは、少なくとも仲間内では自分と柳生だけだった。
 柳生は全員に満遍なく「くん」をつけるやつなので、別に幸村くんだけが特別なわけじゃない。
 しかし、俺は幸村くんにだけ「くん」をつけて呼んでいる。
 一度、幸村くんが“どうしてブン太は俺だけ?”と聞いたので、俺は困って「だって幸村くんは幸村くんなんだもん」と答えにならないことを答えた。
 幸村くんは「俺は特別って意味で、愛されてる方に取ればいいんだよね?」とだけ言ってそれ以降全く追求しなくなった。
 俺はそのとき、「うん」とだけ答えた。嫌う意味で「くん」付けしてるわけじゃないとだけわかっていてもらえれば十分だった。
 そんな風に、俺と幸村くんには暗黙の了解。
 仲間は誰もつっこまない。赤也すら。
 それは多分、みんな俺の幸村くんへの気持ちとか、そういうのわかってくれてるからだ。
 俺は幸村くんを呼び捨てることに躊躇ってるわけじゃない。遠慮してるわけじゃない。
 幸村くんが「じゃあ名前で呼んでよ」と言ったらあっさり柳のように呼ぶだろう。
 ただ、「くん」付けは足りなさの延長。

 幸村くんは、一年の時から絶対だった。
 そういう雰囲気を持っていて、特に真田にとって絶対だった。
 威圧、というとなにか違う。それだけでは、幸村くんの愉快犯みたいな子供っぽさとか、独創的過ぎる感性とか、たまに見る子供らしい甘えだとか、部活に対する部長としてのイメージ以外が全く表現されないから。
 だから、威圧とは俺は言わない。
 かといって、他にふさわしい言葉を知らない。
 足りない言葉で、彼を表したくなくて、その代わりに俺は「幸村くん」と呼び続ける。
 そんな風に、彼は特別なんだぞ、と周囲にアピールしている。
 それを直接幸村くんに言うのは恥ずかしいから言わない。みんなは多分知ってる。
 幸村くんも、…本当は多分知ってる。
 聞かないでいてくれるのは、多分幸村くんの気遣いというより、単純に馴れ。
 今更、俺に呼び捨てにされるのが馴れないだけだろう。





「おはよー幸村くん!」
 教室に予鈴前に飛び込んできた丸井に、幸村は「おはよう」と笑った。
「あれ、仁王は一緒じゃないんだ?」
 幸村は基本、自分のところに誰かが来ることの理由を考えない人ではない。
 今日、朝一番に丸井が来たのは自分への誕生日祝いのためだとすぐわかった。そういう場合、同じクラスの仁王も一緒だと思ったので、そう言った。
 祝福を要求しているわけではない。単純に、性格だ。
「あ、仁王は昼休み祝うって。誘ったら“お前みたく一番に祝いたいわけじゃないぜよ”だってさ」
「仁王らしいね。じゃ、ブン太は一番に祝ってあげたかったの?」
「もち! あ、流石にプレゼントは放課後ね。朝あげると幸村くんがかわいそう」
「? なんで?」
「だって幸村くん女子にプレゼント責めされるもん。柳もそうだったけど。
 だから、プレゼント増やすのは悪い」
「俺はただのクラスメイトに一番にもらうより、ブン太に一番にもらった方が嬉しいけどね」
「…………幸村くん、それはどうせなら昨日のうちに言って」
 そう言われるとすぐあげたくなる。とあさってを向いて照れた丸井に、幸村はごめんねと言いながら笑った。
「あれ、でも放課後くれるなら、結局荷物の量に変化はないよね?」
「あ、今日は俺幸村くん家に遊びに行くの。そこで渡すの」
「そっか。それは楽しみだな」
 完全に事後承諾だが、幸村は喜んだ。
 こういう日の突発願いは、嫌いじゃない。
「でもさ、今日は真田と柳は幸村くんち行くだろ?」
「ああ、うん。昨日来ていいかって聞かれた」
「やっぱり」
「ああ、赤也もだ。赤也も来るよ」
「ふうん」
 あいつもマメだ、と呟いた時に予鈴が鳴って、丸井は教室を後にしかけて、慌てて振り返る。挨拶に流されて、肝心を言ってない。
「幸村くん、おめでとう!」
 その声に、幸村は有り難う、と綺麗に微笑んだ。





「おーブン太。幸村に祝いは言えたんか?」
 教室に戻ると携帯を弄りながらの仁王に迎えられた。
「言った。お前も来ればよかったんだ」
「俺は比呂士と一緒に祝う。あいつ朝忙しいけえの」
「ふうん?」
「あ、お前今日幸村ん家行くじゃろ。自転車貸しんしゃい」
「なんで?」
「お前はジャッカルのケツに乗せてもらえ。俺は比呂士乗っけて行く」
「………ジャッカルと仁王とヒロシも来んの?」
「当たり前」
「…………」
 で、赤也と真田と柳も来る。…大騒ぎの予感。
「なんでそんな準備いいんだよ。前は別に学校で祝って終わりだったろぃ?」
 言って、しまってから気付いた。仁王はその丸井の遅れの気付きをわかっていたが、あえて阿呆と言った。
 前。去年。去年は、幸村くんの誕生日を家で祝っていない。
 幸村くんは入院していた。ケーキを渡して祝うことは出来たけど、幸村くんは笑顔の中に複雑な色を残していた。家で、学校で祝われたかった、という寂しさ。

 出来れば、部員全員からのレシーブとか、そういう祝福が嬉しかったかも。

 まだ退院の目処もなかった時だった。
 最後に残った柳に、そう幸村くんが遠慮のように零した我が儘とすら言えない小さな要求。それを後から(幸村くんが退院してから)柳に聞かされた。
 忘れたわけじゃなかったのに。
 他の誰にも零さず、柳に零したのは、柳ならあからさまな憐憫を浮かべないことやそれが仕方ない漏れた言葉だと整理して引きずらないでいてくれることや他の誰にも言わないだろうことを信じたからだろう。事実、柳は幸村くんが退院するまでそれを守ったし、そのことに関してなんのコメントもしなかった。
 人一倍幸村くんに愛情はあるけど、そこのところをわかっているのが柳という奴だ。

「……ごめん。幸村くんと真田には言わないで」
「わかった」
 仁王は引き替え条件を要求しない。口止め料とか。
 こういう時のこいつはとても誠実で、要求していい状況といけない状況、ネタの種類をわかっている。たいていの失言は後々弄られる弱みリストに載っける奴だが、このことは多分載っけないのだろう。そういう奴だ。
「サンキュ。仁王はもちプレゼント用意してんだろ? ギャグプレじゃねーだろうな」
「企業秘密。けど、ギャグではないぜよ?」
「そっか」
 それならいい。仁王の気遣い未満の優しさも手伝って、会話は気まずさを残さない。
 すぐ本鈴が鳴って、席についた。
 去年の今日。幸村くんは学校にいなかった。
 その、昔と呼ぶには近い過去への寂しさの去来。
 みんな、同じことを考えながら今日を喜ぶのだろうか。
 それは嬉しいことであり、寂しいことだ。
 単純に、生まれた日だけを祝えばいいのに。その前に去年はいなかったからという寂しさ故の喜びが加算される。
 簡単にそれを指して可哀想などと言いたくない。そんな酷い言葉を、友人に使いたくはなかった。
 なにより、そんな言葉じゃやっぱり足りない。足りない言葉は嫌いだ。
 純粋におめでとうが言いたい。さっきのおめでとうに、寂しさが混ざっていなかったか、俺は必死に考えた。





「おじゃましまーす!」
 放課後、赤也の部活が終わる時間まで待って幸村くんの家を訪れた俺たちに、幸村くんの母親はいらっしゃい、と笑った。
 本当は赤也抜きで初めてよかったのだが、祝・幸村くん部員からのレシーブという柳考案の前哨祝いに部活が変わり、引退したのになぁと言いながら幸村くんは嬉しそうにサーブを返していた。
 柳は去年の幸村くんの我が儘を実行した。引退しても参謀権限は健在だ。
 居間に通されると、既に幸村くんの母親が用意したケーキがホールで一つあった。
 皿もご丁寧に人数分。幸村くんが連絡しておいたのか、それとも母親が察したのか。
 後者だったら嬉しい。
「これも置いていいですか? 多分この人数なら足りると思うので」
 柳が買って来たホールケーキを母親に見せた。母親はにこりと笑って了承した。
 二つのホールケーキを並べて、一斉にプレゼントを渡す。
 やっぱり、ギャグは誰もいなかった。テニス用品だったり、日用品だったりみんな被らないよう考えたのか。柳はリストバンドの他に花の苗を用意していた。
「有り難う。みんな」
 幸村くんはお礼を言って、一つ一つ丁寧にしまいなおした。
 きっと柳のリストバンドは高等部で沢山活用されるんだろう。そう予感がした。
「幸村が主役なのだから、ケーキの等分は幸村を優先しろ。丸井、お前は今日に限り腹八分目だ」
「あのさ真田…。俺だってそのくらい弁えるんだけど」
 どんだけ日頃食に汚いと思われてんの? と零すとジャッカルに笑われた。
 ムカついたので軽く蹴っておく。
「そうっスよね。丸井先輩だってそのくらいの礼儀はありますよ副部長」
「赤也、いい加減真田を副部長と呼ぶんじゃなか。今の部長はお前さん」
「…馴れねっスよ」
 誕生祝いを忘れない程度に、赤也を部長らしくしようというからかいの話題に花が咲く。
 混ざったり混ざらなかったりで笑っている幸村くんに、近寄って俺はタイミングを伺った。
「ねえ幸村くん」
「ん? なんだい?」
「………………幸村くんには悪いけどさ、俺が幸せかも、今」
「…悪くないよ」
 幸村くんは笑った。とても綺麗に。
「みんな幸せでいて欲しいよ。みんな、待っていてくれたんだもの」
「………そんな損得勘定じゃないって。単純に幸村くんの誕生日が嬉しいの!」
「そう」
 じゃあ、ブン太の誕生日は俺も嬉しいって思わなきゃね。そう笑う幸村くんは本気で嬉しいと思ってくれるだろう。
 決して、去年幸村くんがこの日にいなかったから今日が嬉しいんじゃないんだ。
 単純に、今笑っていられるここが幸せ。幸村くんが病気になってなくても、同じうれしさで俺はここにいたはずだ。
「………幸村くん。」
「なに?」
「あのさ、すごい、こういうの馴れないけど、言うけど。
 幸村くんに「くん」付けする理由、幸村くんは本当は知ってるよね?」
「…推測でいいならね」
「最初はそうなんだし、今もきっとそう。だからこれからも「幸村くん」は「幸村くん」だけど、一回、言わせて」

「生まれてくれて、同じとこにいてくれて、有り難う。“幸村”」

 病気とかの損得じゃなく、ただひたすらにそう思うよ。そう感謝するよ。
 キミと出会えてよかった。ここで出会えてよかった。
 ただひたすらにそれに感謝してる。感謝の数なら一億万回。
 いや、もっと多いかな?
 幸村くんは一瞬、目をぱちぱちとして、そして笑った。
 とても綺麗に、それでいてくすぐったそうに。
「馴れないね」
 とだけ言って、そっと触れてきた。
 床に置かれた俺の手をそっと握ってきた幸村くんの手。
 とても暖かくて、俺は照れながら握り返した。
 せめて周りが気付くまで、このままでいたい。

 有り難う。
 有り難う。
 おめでとう。
 とても感謝してる。

 俺と会ってくれて有り難う。

 キミがとても大好きです。

 おめでとう。

 これからも、きっと。

 手を伸ばせば、握り会える距離で。

















後書き
あくまで友情の幸村と丸井。さなゆきにはならなかった。
幸村と平古場のどっちかを雪ネタにするつもりで、書いたら幸村は雪ネタにならなかったので平古場に決定。
(平古場も三月生まれ)
バックミュージックは学校違うのに200タイトル記念の手塚と不二の「ここで僕らは出会ってしまった」
この歌反則なまでにカップリング。けどこの話の丸井と幸村にぴったりなのでBGMに。
赤也は最後まで部長、副部長って呼んでんだろうな。
3月5日はぎりぎりまだ学校あるよね、とこうなった。
謙也もそのノリで書いて、自分の誕生日を思い返したら確実に学校は終わっていたことに気付いて書き直した。
(管理人は謙也と誕生日同じ)
しまったALLっていうより丸井と幸村、だ。だって柳生なんか喋ってないし。
とにかくおめでとう幸村!最終回の笑顔の握手にすごい泣けた!おめでとう!







戻る