白石蔵ノ介は結構、内向的だ。


 そういう話を以前同じ学校だった忍足謙也にしたら、あれのどこがと言われた。
 しかし俺はそう思う。
 どちらかといえば(主に試合中)感情型だと見える口振りが多かったり表情の変化に富んでいる割に、試合でなくなったり場をまとめる雰囲気になると一転、表情の変化に乏しくなり(というか変化なく一貫して同じ表情のままになる)、口調も冷静なものから感情的な口調に変化することは滅多にない。
 部長職を二年務めただけあって切り替えがうまいだけかと思っていたが、彼は割合そういう感情的な部分を、かなり親しい部類の人たちの前で以外、押し殺すところがあると最近気付いた。だから内向的。
 試合中はそういうストッパーがなくなっているだけだと思う。
 あと彼は単純に、感情型なのに感情より理性をとれる人なので、余計。
 だから、忍足たちと一緒の時、一緒に彼らにツッコミをいれている白石を見ると、なんだか安心する。
 なんでお前が安心するんだ、とは跡部の談。

「でもさ、そう思わない?」
 図書館でそう話を振ると、唐突だったにも関わらず同じ当番だった木手永四郎はああ、と返事をしてくれた。
「確かにね、そういうとこはありますよ」
「だよね! よかったー。みんな違うっていうから、俺間違えてるのかと思った。
 賛同してくれたの木手だけだよ」
「というより、同じ部長をやった経験がないと、わからないだけじゃないですか?」
「ああ、そうかも。白石が一番年季入ってるよね。二年から」
「俺も二年の時にはS1固定でしたけど、流石に部長はやってませんでしたからね。
 幸村クンもそうでしょう」
「うん、俺もS1固定だったけど、部長は先輩がやってた」
 普通に答えると、木手はやっぱりと頷く。
 彼は案外我道に見えて、気配り屋だ。
 本来のままの性質で生きているから、マイペースに違いないのだけど、なんというか他人に合わせることも知ってるマイペース。
 極端にマイペースな平古場と一緒にいるから、違いがよく目立つ。
 木手の方こそ内向的だ、という見方をされているらしいが、俺は木手の方が感情型だと思う。
 口調こそ丁寧で冷静だが、彼が平古場たちに『試合の時は好きなだけ威嚇して構わない』ということを言っていて、それが限りなく本音であることと彼らがかなり刺激的な威嚇をしても試合なら絶対止めない上煽ること。それから中学時代の全国大会、部長なのに越前の胸ぐらを掴みあげた田仁志を全く止めなかった経緯から、俺は全くもって内向的じゃないと考えた。
 むしろ、彼は好戦的でおとなしい性質の大石たちは傍にいるだけでどきどきすると言っていたし。
 そんな大石たちは、逆に白石と一緒にいると迷子になったとしても安心すると言っているから、やっぱり白石は内向的なのだろう。
 内気ではないけど、感情を他人に影響させない処世術をわかっている人間だ、と思う。
 むしろ誰より感情的だから、より気遣って感情より理性を取っているんじゃないだろうか。
「……………幸村クンは」
「ん?」
「幸村クンは…内向的とか当てはめるまでもなく感情型ですよね。感情型でも激情型じゃなく穏やかな性質だから、わかりにくいかもしれませんけど」
 俺と違って。と木手は言い足した。やっぱり、彼は自分の感情型な部分をわかっている。
「あー、うん。俺は多分白石ほど理性を取ってない」
「でしょうね。キミは本当、マイペース過ぎるし」
「あはは、やんちゃなだけだって」
「…この間、うちの教室の扉に黒板消し挟んだでしょ。物理の先生が頭に喰らってました。
 真っ先に平古場クンが文句言われてたので、やるなら自分のクラスにしてください」
「よく俺の仕業ってわかったね」
「高校生にもなってそんなやんちゃをするのはキミか仁王クンくらいですが、その中でもよりあんな子供じみたいたずらはキミです」
「そっかぁ」
 否定しない。事実だし。
 単純に俺は自分のクラスだと、真田がいるから先生があける前に真田が扉を開けて台無しにしそうだったので他人のクラスでやっただけで、罪をなすりつけようとかそんなつもりは全くない。
 というか、その時確か白石もいたが、彼は全く止めなかった。
 そんな彼を指して内向的だと言ったから忍足は否定したのかもしれないな、と気付いた。



「千歳先輩は」
 その棚の後ろ。
 本を気まぐれに読んでいた後輩が、急に言ったから、一氏ユウジは驚いた。
 この後輩は、時々突拍子がない。
 おまけに、この場に千歳千里はいない。
「…光?」
「怖ないんですかね」
 どうやら、財前は自分に言っているらしい。千歳は怖くないのだろうか、と。
 なにかを指して。
「……目?」
 可能性の一つをユウジは言った。
 彼は首を横に振る。
「あの人は、俺らがいっくら怖くないんかって言っても、傍観者でしょ。
 目のことは。別に、ってそんだけ」
 不動峰の部長がいるから、多少わかるようなってますけど、と言う。
「……ああ」
 曖昧に相づちを打った。この後輩は、なにを言いたいのだろう。
「大きな人って、小さいもん、扱う時怖ないんかなって。
 千歳先輩、大きいし」
「……………ああ」
 先月、新入生が入ってきた。
 ユウジたちは三年生になった。
 しかし、中学の一年ならまだしも、高校の一年は、小さくないと思う。
「新入生やのうて」
 財前も、ユウジのその戸惑い未満の疑問に気付いて訂正する。
「ほなら、なに?」
「わからんですか」
「…わからんなぁ」
「……怖く、あらへんのかなぁ…って」
 また彼は言う。ユウジはその主語がわからないのに。
 会話する気が、ないのだろうか。
「隣で話してるから、ついそう思いました」
 となり、と言った。
 隣から聞こえて(今も)いるのは、幸村と木手の声。
「……白石?」
 呟くように言う。後輩は、やっとわかったんですかという顔もせず、はい、と一言。
「……いくら千歳が大きいかて、白石は潰されへんと思うけどなぁ」
「そうやのうて…。まあ、………抱き壊さへんか、怖いのは事実やけど」
 この後輩は、はっきり物をいう。
 二人が肉体関係まであることを堂々指して、それが怖いと。
「…怖くないんやろーか………」
 ふと、窓の外を見て、彼はなお言った。
「……光?」
 ユウジには、彼がそこまで怖がる理由が、わからない。
 白石に対して、薄情ではないつもりなのに。
「…俺やったら、怖い」
「…」
「俺やったら、心ごと、抱き壊してまいそうで…怖い」
 彼は間接的に、白石が好きだ、と言った。
 ユウジはコメントしなかった。
 頭を撫でることもしなかった。
 知っていたし。
「………やって、幸村さんの言うとおりやもん」
「……白石が?」
「あの人、感情が表に、顔にでんってか、内向的なんは、事実でしょ。
 やから、…抱かれてる時、痛くても顔、出えへんのやないかって。
 千歳先輩は、もしかしたらわかるかもしれへんけど。
 俺は怖い。…俺は、あの人が苦しいんわからなそうで…抱き壊しそうやから」
「加減なんか、出来へんと思う」、と。
 遠い目で、窓の外を見る後輩が酷く幼かった。
 彼も、もう高校二年なのに。
 元から大人びていたけれど、こういう時、小さい。
 ぽん、と今度は頭を撫でてやった。
 多分、そんな日はあの千歳が許さないだろうけれど、仮定なら簡単だから。
「……大丈夫や」
 撫でられるままの後輩は、そうっスかねぇと遠くで呟く。
 光は、白石を抱き壊したりせぇへんよ、と伝えた。
 矢張り、後輩はそうですかね、と自信なく呟いた。


 白石の、弱さは器用になりきれない部分だと思う。
 感情を出さない顔。不器用じゃないのに、器用にもなれない、あの。

(内向的っちゅーけど)

 ユウジは思う。

(俺は、あいつが全身で世界を怖がってるようにしか見えない)



 そんな怯えに、千歳はとっくに気付いているのだろうけれど。






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 なんかのテニプリ完全読本を参考にしているようないないような。
 白石が内向的だとあったので、ああなるほどなぁと。
 初めてまともにユウジを書いた。楽しかったです。