「ああ、白石、今日千歳たち来るわ」
謙也がそう言ったので、白石は全員だろうか、と考えた。
実際、来たのは千歳と財前だけだったが。
今も謙也の家に世話になっている白石は、厄介になっている自覚もあって、だから家事も率先して手伝う。
「あ」
居間で待たせている千歳たちの分も作っていた昼食。
不意に声を上げた謙也に、白石はどうしたのかと覗き込んだ。
「ああ、指切ったん」
「ああ。失敗した」
「そんくらいなら舐めとけば?」
「…ああ、…舐めとけば、…な」
その時謙也がぽつり、と言った声のトーンに偶々飲み物を催促に来た千歳は気付いて、足を止める。
「白石」
「ん?」
隣でかき回していた鍋の火を止めた白石がなにかと振り返って、眼前にさらされた謙也の指と至近距離の謙也の顔に、驚いて壁に後ずさった。
「な、なに?」
「…なめればええんやろ? 白石が舐めて?」
「な、なんでやねん!」
「…嫌?」
片手を押さえられて、壁と腕の中に囲い込まれた白石の唇に、微かに血が出た指が押し当てられる。
「…けん…」
「ほら、…口、開けぇ?」
「……、…っ」
耳まで真っ赤になりながら、白石がおずおずと開けた唇に当てられた指を、チロリと出た舌が拙く舐める。
「…ん……」
「…はい、よう出来ました」
「…っ」
指を退かすや否やすぐ唇でそれを塞いだ謙也の腕に咄嗟にしがみついてしまった白石を抱きしめて、充分その甘い唇を味わうと謙也は腕からその身体を解放した。
「……」
「どないしたん?」
真っ赤になったままテーブルに頭を押しつけている白石を見る謙也は涼しいモノだが白石はそうもいかない。
「……謙也のエロ魔人」
「…そないなこと言うてええん?」
「…っ」
途端身を竦ませた白石の視線を受け止めるのはもちろん笑ったままの謙也で。
「…謙也……あの、…ひどいんはナシ…っ」
「…そやなぁ。お前、昨日はあの体勢強要しただけで泣いたもんな。
素直にやってくれたけど」
「謙也!」
「……今日は立ったままシよか? その方がイイって聞くし」
「…ッッッッ……」
可哀相な程真っ赤になった白石を、背後から伸びた手が庇うように抱え込んだ。
「…え、あ! ちと…」
聞いていたのか、と更に真っ赤になった白石を腕の中に囲って、千歳はやや呆れたように言う。
「謙也、可愛いんはわかるけん、あんまり苛めたらいかんよ?」
「苛めてんのか? あれ。昔やってあれくらいやったやん」
「白石の方は七年間ヤってなかったんだろ? そら恥ずかしか」
「俺かてヤってへん」
「そういう問題じゃなかよ」
「どういう問題」
「…謙也。なんか二人の関係が逆転しとらん? 昔は誘うんも主導権も白石が握っとったよな?」
「うん。けど今の白石はなんちゅーか、初心やし。可愛えんやこれが。
再会して初めてヤった日なんか普通にヤったんにえらい可愛かったで。
指一本の時点で痛いやの口でされれば泣くわ…」
「謙也!!」
「……真っ赤やな、白石」
「誰の所為や…」
今にも泣きそうな程真っ赤になっている白石を宥めて、千歳は財前のいる部屋の方に行かせると、こそりと謙也に囁く。
「お前、可愛いとかもあるけん、ただ一緒におるんがよくて、歯止め効かんだけと?」
「それもある」
「他は」
「お前やからや。俺は忘れてへんでお前のあの物騒発言。牽制しとかんとな」
お前やなかったら性生活のことまで口にせんわ。
「………やけん、あれは冗談たい」
「どーだかな」
「………謙也、…あんま苛めたらいかんよ?」
乱入当初の言葉を繰り返した千歳に、謙也は肩をすくめて笑う。
「無理や。やっぱ、可愛えから」
「…好きやから?」
「まあ」
「大好きやからな」
戸惑うキミを泣かせても、俺を好きだと言わせたい
このくらいのご褒美は、もらってええと思うんや