ボクは、キミの側にいていいの?





逢魔が時
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アリアD.C/[慟哭−キミはボクのなんですか?]
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 がたんと揺れる、エレベーター。
 四角い箱。
「あ」
 何か言いたげに自分を指したのは、新しい隣人。
 示す物が自ずと判って、乾は“やあ”と口の端を上げた。

「おまっ…何ソレ! エセアーミー風!?」
「や、マジで怪我マジで。
 手首リスカ風に切っちゃって」
 子供のように(まだ子供の歳だが)慌てる向日を見ているのが何だか面白くなって、乾は服に隠れた首の部分も見せてやる。
「お前何処まで怪我してんだよ!」
「や、軽い切り傷含めたら足とか腕とか首とか色々」
「何やったんだよ!」
「俺は何もやってないよ。
 学校でさ、窓に寄りかかってたらいきなり硝子割れて破片やら雨やら吹き込んできて大変だった」
「嵐ん時は窓に近寄っちゃ駄目だって教わってないのかよっ」
「普通教わらないよ…」
「え? …俺幼稚園でそう」
「それは暴れるととか言う意味で注意されたんだよ…」
 物がぶつからない限り窓は割れないよ普通の場合。
 風が相当五月蠅く、マンションの内部まで響いてくるから普通の域でなくなっている事は判るが。
 それでもまだ、硝子は割れない域だと思っている。
 がたんと、もう一度揺らいで五階に停止したエレベーター。
 がこんという音で、開いたドアの向こう側に、見知った顔がもう一つ。
「あ、侑士入ってていいゆったじゃん」
「そーゆう場合は鍵渡して言いや」
「あ、悪い」
 氷帝学園の。
 ついと自分に向けられた視線が、また向日へと移った。
「こいつは?」
「え? ああお隣さん。
 ほら青学の」
「言われんでもそれくらい判るわ」
 言ってから忍足はやや沈黙し。
「青学の誰や?」
「判ったゆったじゃんお前」
「青学の奴やってのは制服でや。誰かまでわからん」
「ま、判らないでもないけどね」
 眼鏡じゃないし片目包帯だし。
「三年の乾だよ。関東初戦、ダブルス1。全国三回戦、ダブルス2の」
「あ――――………………………………………………………………………………えらく面変わりしてへん?」
「よく言われるよ」
 背後でエレベーターがまた下っていく。
 車庫に車を止めに行った先輩達が上がってきたのかもしれない。
「…にしても、自分えらい格好しとるな」
「ファッションではないから。念のため」
「制服でんなファッションする物好きいたら見たいわ是非」
「同感だね」
「眼鏡ないんじゃ見えなくねぇ?」
「片目コンタクト」
「ああ」
 見えにくくて仕方ないよ、と苦笑する。背後で聞き慣れた電子音が到着を告げた。
「あれ、貞お前なに突っ立ってんの?」
 傘を片手に通路に降りてきたのが見えた。二人からでは向日達が見えなかったらしい。
 軽く退いて見せると、納得してから鳴瀬に“友達?”と聞かれた。制服で、氷帝学園だという事は判っているはずだ。対戦した事は鳴瀬にもある。
「俺ん家の隣に越して来た人です」
「あー…日向とかなんとか」
「向日」
「ああ向日」
「こっち俺の逆隣の人」
「あぁ、ども」
「こちらこそどーも」
「治、先荷物置いてくるから」
「ああはい、すいません」
 はよ来いよー等と言いながら通り過ぎる二人を見遣りながら、“家族ぐるみの付き合い?”と聞かれれば“先輩”と答えた。
「二つとなりってぇと“ナルセ”とか」
「“ナラセ”だよ」
「どっちでもいーよ…。
 しっかし金髪の方なんか見覚えが……」
「会ってるはずだと思うよ。あの人うちのテニス部の前の部長だから」
「あ、前の大会で跡部がノした奴か」
「本人聞いたら拗ねるよ。怒らないけど」
「は?」
「こっちの話。じゃあね」
 通り過ぎ様向日の頭を小突いて、乾は後ろ手に手を振る。
 見送ってから、“あ、お前朝はよくも嘘付きやがって”と叫んだが同時に扉が閉まる音がしただけだった。
「あー…あいつか」
「うん。………無駄に疲れた。部屋行こうぜ」
「せやから先に鍵をな」
「判ってるよ」
 雨の音は強くなるだけだ。
 遙か後方で、誰かが呼んだエレベーターがまた下がっていった。





 怪我した首の包帯を黙って鏡越しに見つめている。
 我ながら派手にやったと思う。
 我ながら人に迷惑を掛けたと思う。
「…………うずくな」
 手首の傷が、じくじくと。
 乾の部屋は汚れて散らかっていて。
 それは面倒見のいい他人相手と違って、自分のことにはからっきしで。
 片づけようとも思わない。
 壁の無数のラクガキ。
 文字の列。
 何時書いたかは覚えている。
 物音は自分が立てない限り立たない。
 一人きりだからだ。
 親は滅多に帰ってこず、子供の自分を置き去りに。
 そういう人たちだ。
 もう慣れた。
 だが、子供の時はどうだっただろうか。
 寂しいと、口にも出せなかっただろう。
 そういう子供だ。
 自分は。
 かわいげが無くて、無表情で、そして押さえつけたような感情の欠落した声。
 それは今も変わらず、ただ今の環境を喜ぶ自分が居る。
「…………もうすぐ」
 もうすぐ別れてしまうのに。
 かたんと何処かで物音がした。
 ハッとして我に返り、乾は立ち上がってキッチンへと向かった。
 音の原因を確かめるためでなく、自分の夕食を作る為に。
 物音なんて気にしない。
 幽霊なんて怖くない。
 そういう、かわいげのない子供――――――――――――――――
「…………………………………本当に」
 本当にどうしようもない。
 キッチンに立って野菜をきざむ。
 包丁の音だけがリアルだ。
 右手がうずく。
 構わない振りをする。
 そんなことしなくてもいいのに。
 ひとりぼっちだからいいのに。
「……………………こんな俺、嫌だな」
 時折襲う孤独という恐怖。
 大抵は見て見ぬ振りをする。
 だって、泣いたって笑ったって怒ったって嘆いたって。
 来てくれる誰かはいない。
 病院でのあの気配が恋しいからこんな想いをするのだろうか。
 本当は、一人きりは怖いのだろうか。
 わからない。
 幼馴染みの手塚は、そんなことはしらなそうだった。
 あの凛として立つ姿。
 憧れた日もあった。
 嫌気が差して嫌気が差して避けた時もあった。
 今会えるなら平手の一発でもお見舞いしてやりたい。
 くん、とジーンズを引っ張った感触があった。
 ぱっと目をやると誰もいない。
(……本当に幽霊かな)
 本当なら出てきて。
 幽霊でもいい。この感情を消してくれるなら――――――――――――――――
 ぴんぽーん、と場違いなチャイムがその思考をかき消す。
(こんな雨の日に誰だ?)
 ちょっとムカッときて、エプロンをつけたまま玄関へ向かう。
「はいはい誰ですか――――――――――――――――」
 ちょっと声に感情が出ていたかも知れない。
 扉の向こうに立つ菊丸と大石がびびった顔をして突っ立っていた。
「……あ」
 やっちゃった、と。
 最初に思った。



「……悪いな。わざわざ雨の日に来てもらって」
「いいよ。それより元気そうで安心したよ」
 リビングでソファに身を沈め、出された紅茶を飲んでいる二人はどうやらお見舞いに来てくれたようだ。
 あんな声で出るんじゃなかったと胸中で思う。
「乾、怪我痛くない?」
「いや、平気だよ。
 ちょっとうずくけど」
「それが痛いっていうんじゃん」
「違うよ」
 来てくれたのがこの二人で良かった。
 遠くなる雨の音。
 それでも閉鎖された空間。
 つけた明かりは、人工くさくてちっとも綺麗じゃない。
「……違うよ。
 本当に」
 口元で笑って、そう言ってやると菊丸は安堵したように息を吐いた。
 大石もだ。
「………それにしても珍しいじゃないか。
 喧嘩してたんじゃなかったっけ?」
「してないよ。英二は一方的に怒ってただけで。
 でも流石乾。隠してたのによく判ったな」
「俺だから」
「むー、決まり文句みたいに言うー」
 怒ったフリの菊丸は顔が面白い。
 つい吹き出して、余計怒らせてしまった。
「でも部活は当分無理だろう?
 手塚もその辺は判ってるから無理せず休めよ」
「はいはい。判ってるよ。
 手塚の言うこともな。
 でもこれじゃあ治る前に引退しそうで怖いな」
「そういうなよ。
 自分の為だぞ」
「はいはい」
「乾三回目ー」
「ああ、そうだな」
 くすくすと笑う。
 本当に、仲が良いなと思って。
 自分は特別仲の良い友人がいない。強いてあげれば手塚と不二。同じクラスなら下宮、狩野、それから女子で特進科トップと次席の二人だ。
 あとは海堂。
(……や? …あれは仲いいっていうより)
 部活内では桃城と越前の次に先輩後輩らしい付き合いをしている相手。
 と言ったっところだった。
「でも部活には顔を出すよ。
 プレイしなければいいだろう?」
「…ああ。
 そうしてくれると正直助かる」
「誰かが欠けると寂しいもんにゃー。
 手塚といい」
 一度九州へ治療しにいったことを差しているらしい。
「…英二」
「いーのいーの。
 テニス馬鹿だから」
 それは自分もだろ、と内心付け足して。
「二人とも。そろそろ帰らないと直に暗くなるぞ」
「あ、いっけね。
 見たいTVあるんだった」
「英二……。
 でもそうだな。
 そろそろ帰らないとやばいか。
 乾も休みたいだろうし」
「いや俺は夕食の支度中だったし」
「じゃあ尚更邪魔して悪かった。
 お言葉に甘えてお暇するよ」
「そうしてくれ。
 ああ、風邪引かないようにな」
 乾もな、という声が返る。
 二人を見送って、ふうと知らず溜息が零れた。
 心配させたな。
 不味いな、と。
 思う。
 本来ソレは自分の役目なのに。
 世話好きな本心が顔を出しそうになる。
 それを押さえ込んで、途中で放りだしてきた夕食作りにキッチンへと向かった。
 ふ、と笑って。





 かりかりと書き込んでいた手が止まった。
 判らなくなったらしい。
 忍足にはそれが判って、にいーっと笑って言ってやる。
「なに? どしたん岳人?」
「……判ってる癖に。狡いぞゆーし!」
「へえへえ。判ってますとも。
 せやけどな岳人。
 こんな初歩的な問題に引っかかってたら本気で卒業やばいで?」
「……わ、判ってる!」
 といいながら手の動かない向日を見て、忍足は満足そうに笑う。
 向日が本気で苦戦しているのが本当に楽しいらしい。
「ほらほら、頑張り?
 その問題解けたら今日は勘弁してやってええで?」
「ほ、本当か!?」
「ほんまほんま。
 せやから頑張り」
「おう!」
 でも手は動かない。
 必死に思い出そうとしているらしい。
 そもそも忍足には何故暗記すればいいだけの社会にここまで苦戦できるのかが判らない。
 勿論自分は成績はいいからだ。
 うー、うーと唸っている向日を見るのは面白い。
 でも自力で解いてもらわなきゃ困る。
(………?)
「……くそーくそーナポレオンがなんだー!」
(あり? なんで困るん?)
 首を捻る忍足と頭を抱える向日。
 どっちも違うことで悩んでいる。
「………うーうーうー大化改新だったけか?」
 それも向日によって遮られる。
「ちゃうわちゃう。
 なんでナポレオンに大化改新が出てくるん?」
「わかんねー!」
「自分、ほんま社会馬鹿やなぁ。
 ふっつうそこまで出来ひんで?」
「五月蠅いゆーし」
「へえへえ黙ってますよって。
 ちゃっちゃと自分で解き」
「わぁかってる」
 とか言いながらまた唸る向日。
 こりゃ今日は無理かなと思い始めた忍足。
 どっちもどっちであった。





 翌日は快晴。
 昨日の雨が嘘のようだ。
 晴れ渡る青い空。白い雲と汚れた白の校舎。
 屋上の扉の更に上に登って、不二は膝を抱えている。
 その顔はなんだか泣きそうで笑い出しそうで判別が着かない。
(そりゃ僕が悪かったけどさ)
 あんな。



「――――――――――――――――なんの寝言を言っている」
 ざあざあと止まなかった雨。
 水の吸い込まれる排水溝。
 びしょぬれの君と僕。
「……………………………え?」
 思わず、笑い損ねた顔をして手塚を見上げる。
 それは、なんだかとても滑稽な玩具のようで。
「……………こんな往来で出来るか。
 基準で考えろ。
 第一――――――――――――――――」
 笑い顔が戻らない。
 心が叫んでいた。
 これ以上言わないで。
 傷つけないで。
 “突き放さないで!”
「なんでお前とキスをしなければならない。
 好きでもない奴と」
 血が溢れた。
 心の中から。
 大量に溢れだして、止まらない。
 泣いていたかも知れない。
 けれど判らない。この雨の中では。
 少なくとも、自分を突き放した彼には。
「俺はお前のおままごとに付き合ってやっているだけだ。
 それを忘れるな」
 それだけ言って、先に歩き出した手塚。
 その背中は相変わらず自分を要らないと言って。
 今度こそ、本当に涙が溢れた。
 好きだ。
 好きだ。
 好きなんだよ。
 どうしようもなく。
「――――――――――――――――!」
 胸が痛い。
 苦しくて苦しくて恋しくて。
 君が。
 僕の涙を見ても、きっと君の冷たさは変わらない。
 だって、僕はただ“彼”への当てつけに付き合ってくれただけの存在なんだ。
 それほどちっぽけな存在なんだ。
 雨の洪水の中で自分はずっと嘆いていた。
 振り返りもしない。遠くなっていく彼の背中を見つめながら。
 君の言葉が一つ一つ突き刺さる。
 本当は付き合ってもらっただけでも。それが偽善でもよかったはずなのに。
 あの日の笑顔はもう思い出せない。
 涙に変わる。全てが。
「……………てづか」
 お願いだから振り向いて。
 一度だけでもいい。
 こっちを見て。僕を見て。真っ直ぐなその瞳で。
「………………………僕を、」
 独りにしないで。





 お願いだから――――――――――――――――
 また涙が溢れてきた。
 そんな時に限って君は来るんだ。
 泣いた僕を、屋上の更に上の僕に気付いて。
「……なにを泣いている。
 みっともない」
 その、冷たい言葉で、僕を切り裂いて。
「………………………ごめんなさい」
「……なにがだ」
「ごめんなさい……!」
 もうキスしてなんて言わないから。
 好きだなんて言葉求めないから。
 この関係だけは、
「……お願い。
 ……別れないで――――――――――――――――!」
 顔を押さえて、彼の言葉通りみっともなく泣きじゃくる自分に、手塚は冷えた笑顔で。
 当たり前だと言った。
「……まだ当てつけは済んでいない。
 その限りはお前のままごとに付き合ってやると言っただろう」
 忘れたのか?
 告白した日のことを。
「………………………ありがとう」
 顔から手を離して、コンクリートに染み渡っていく涙を見ずに。
 君だけを見て。
 すぐに背を向けて突き放す彼を見て。
 言った。
 こんなの全然本心じゃない。
 こんなの全然欲しくない。
 綱渡りの恋を、どうしても長引かせたくて止めたくなくて。
 僕は涙を拭った。
「手塚。なにしに来たの」
「お前に言う必要はないだろう」
「そうだけど」
「だったら人の行動にとやかく言うな」
「……………うん」
 我が儘だよね。
 最初は勝ちたかっただけだったのに。
 こんな恋しい想いをするなんて。
 こんな勝ち目のない恋をするなんて。
「それはそうと。
 不二、早く降りてこい。
 授業が始まるぞ」
「あ、待って…! 手塚…っ!」
 立ち上がった瞬間に眩暈が来た。
 そのまま体はバランスを崩して、二メートルほどの高さから落下する。
「……不二!?」
 遠くなる意識の中で、彼が名前を呼んでくれることだけが喜びだった。
 なにもいらない。
 ただ、彼の言葉が欲しい。





 格子に囲まれた逃げ場のような屋上。
 その格子にぶら下がって足をばたつかせている向日を見つけて、忍足は呆れた。
 わざわざ昼休みを裂いて探しに来てやったのに。
(あー、昨日結局問題解けひんかったからなぁ)
 ふと、自分の靴音に気付いたように向日が振り返る。
 その顔が邪気のない笑顔に変わった。
「侑士!」
「……自分なにしてるん?
 休み時間終わってまうで」
「ぼーっとしてた!
 侑士は?」
「俺は自分探しに」
「来てくれたのか!?」
「あ、ああ……」
 途端ひゃっほうとでも叫び出しそうな向日を見て、忍足は質問をぶつけてみる。
「……前から思ってたんやけど。
 なんで自分そんな喜ぶん?」
「え?
 だって嬉しいじゃん!
 侑士が探しに来てくれるなんて」
「その思考回路が理解できひんのや。
 なんでや」
「だって好きだから!」
「何が?」
「侑士が!」
 指をびっと自分に向けて笑う向日に、忍足はふっと不快感を覚えた。
 何故かは判らない。今は。
 ただ喜んでいるこの子供を黙らせたくなった。
「………………そぉか。
 せやけど俺は好きやない」
「………………へ?」
「も一度言おか?
 俺は自分を好きやない」
 呆然とした向日の顔。
 じく、とその瞬間痛んだ自分の胸の中の棘。
 わけがわからない。
 何もかも。
 目の前で涙をこぼす向日も、痛む自分の胸も。
 無視して――――――――――――――――
「なんで俺が自分好きにならんとあかんの?
 ダブルス組んでるだけやん。それだけやん。
 なんでそんな自惚れるんや」
「………………ゆーし」
「ああ気持ち悪いわ。
 こんなもんつけるんやなかった」
 そう言って首から取り外したのはつい先月向日から貰った銀のクラウンの首飾り。
「倒錯の世界に興味があるんやったら他の奴とやれや。
 俺を巻き込むな。
 自分なんてダブルス除けば嫌いや嫌い」
「…………………侑士…!」
 放り投げようとしたそれを腕ごと向日が掴んで止めさせる。
 だが力の差は歴然としていた。
 のにも関わらず、腕は向日に押さえられていて。
(…なんや。なんでふりほどけんの)
「……お前ずっとそんな事思ってたのか?
 ずっとずっと思ってたのか!?
 参考書買ってくれたことも、ダブルス組んでくれたことも、優しくしてくれたことも。
 全部!」
 また胸が痛む。
(くそ……なんや、気持ちの悪い。こんなもん…)
「ああ! こんなもんいらへん!」
 振りほどかれた手。宙を舞った首飾り。
 ソレを取ろうとして屋上の手すりを飛び越えた向日。
 呆然と見送った忍足。
 向日の姿が、――――――――――――――――そのまま視界から消える。
「……岳人………、」
 口を吐いて出た言葉。名前。その人の全て。
 激痛が胸を走る。
「岳人!!!」










 








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