ホテルで拗ねていたら(拗ねていたつもりは全くない)白石にうざいとホテル周り一週を命じられた。 もう引退だというのに手厳しい部長である。 しかし誰もフォローしないあたり、自分は矢張り拗ねていたのか。 (そげんつもりはなかけどなぁ…) 部長命令だが、走ってこい、とは言われていない。 暢気にホテルの塀伝い、歩き出すと見知った顔があ、と笑った。 「あ、なに千歳。こんな時間にホテル周りに」 「幸村こそどぎゃんしてこんなとこおると」 時刻は夕方。 決勝は明日だ。 「俺は検診の帰りです。試合あるだろうから、一応念のため」 「…それはすまんこと聞いた」 「いいよ。気にしない」 「“気にしてない”じゃなかね?」 「うん」 矢張り独創的な人柄をしている。果て、白石とどちらが上かと考えてしまうのはもう性格か。 「千歳は?」 「俺はなんばしらん。拗ねてたらしいから外行ってこいって言われたけん、拗ねてたつもりなかね」 「ふうん。なんかあったの?」 「拗ねるようなこと?」 「うん」 「…………なかよ?」 「本当に」 「…………………手塚に負けたこと」 は、もう次へと消化しているつもりだ。 「…は違うけん。なんばいね」 「ホームシックか」 幸村に結論を出された。 ああ、そうか。 昨日一足先に妹が九州へ帰った。千歳も一度、引退後に帰ることが決まっている。 久方ぶりに可愛い妹を見て、気でもゆるんだのか。 「……多分、当たりたい」 「あ、やっぱり。俺こういう直感は早いんだ」 「幸村はおもしろか言葉使うけんね」 「千歳の言葉も面白い。沖縄も面白いよね。直接当たってないのが残念だ」 「…いや、言語やのうて言葉回し」 「あ、そうなの?」 「…わかっちょってボケとる?」 「さあ、自覚ない。仁王には“笑い上戸の相手は大変やの”って柳が言われてるけど?」 「……自覚あるんじゃなかか」 「うん。一応。もう十五年付き合ってる性格ならね」 「………」 笑い上戸、まあずっと終始笑っている。確かに。 「幸村、誰かと待ち合わせじゃなか?」 「あ、わかる。向こうで真田とやなぎが」 「こない時刻、部長さんを出歩かせる部員もおらんね」 「男子テニス部の部長を捕まえて危ないもへったくれもないよね」 「幸村、…言外に拗ねてなか?」 反語。と返したら幸村がバレたと笑った。 「もう大丈夫なのにさ、みんな甘い。俺に甘い。 そういうみんなに、俺も甘い」 「…幸村は構われるの嫌か?」 「イヤじゃないから困る」 「難儀しちょる」 軽快に笑うと益々拗ねたように、首を縮こまらせる。 「千歳も難儀な性格してる」 「………白石ほどじゃなか」 少し考えて答えた。うん、多分そうだ。 「まあ、白石はね」 二年から部長だった白石とは矢張り面識があったらしい。納得された。 ふと幸村の懐が振動した。 「あ、真田だ」 「出てあげれ」 「はい」 促すとあっさり出た。電話を待っていた節がある。 向こう、どこにいるという旨の怒鳴り声。 「すぐそこ。はいはい帰るよ」 「もうちょい真剣に答えてあげなか?」 「え?」 「だけん…」 なに言った?と聞き耳を立てる姿に、だからと言いかけて身をかがめる。 「もうちょい真剣に…」 ひょいとその瞬間に首を捉えられて引き寄せられてシャッター音。 電話は既に切れている。 「……謀られた」 ぽへ、と呟くとぶはっと笑われた。 「謀ってないない。あとで真田に見せてやろう」 「幸村、…いい加減真田に優しくしてあげなあかんと」 「してるけど」 「泣かすな言うとると」 「……」 泣かしてない、と帰ると思った。 幸村は案外寂しそうに笑って携帯をしまうだけだった。 「……」 よか。とその頭を撫でた。 「え?」 「添付してよか。せいぜい泣かしちゃれば?」 「いいの?」 「理由しらんね。けど真田が悪か気するけん」 「……キミのそれは大概厄介だねえ」 言って、今度こそ幸村はいなくなった。 気になって見送ったままいると、今度は自分の携帯が振動した。 送信者は謙也。 “はよ帰ってこい” 自分も一緒になって追い出したくせに。 「勝手な奴たいね」 まあ、悪くなかけどと笑って。 自分に甘い彼ら。彼らに甘い自分。 悪いことではないけれど、負けてはいけない一線もある。 わからなくはなかよ、といない幸村に告げてホテルの入り口に戻った。 ========================================================================================== 某サイト様で「千歳でやるなら千歳×幸村」とあって、思い至って書いてみた。 どこまでも千歳は攻めらしい。略すとなに、と友達に振ったら「ちとゆきでいいんじゃ?」うん、まあそうだな。 てゆうかここはなにサイトでしょう?(どこまで千歳を広げるつもりだ) ちとくら…だよな。 |