「助けてください」









「ジャッカル! 明日は丸一日俺様の手足になれぃ!」
 丸井の宣言はいつだって清々しい。嘘がない。傍観者の赤也は端的にそう思った。
 四月十九日のクラブハウス。朝練にやってきたジャッカルを捕まえて、既に着替えを済ませていた彼はそう高らかに命令した。
「………いや、ブン太。意味わかんねえし」
「はぁ!? なんで?」
 丸井の方は、そのまま意味が分からないという至極当然のジャッカルの対応をそれこそが意味が分からないという返事で答えた。
「丸井、丸井。ちゃんと言ってやらないとわからないだろう。去年ジャッカルはお前の誕生日なんて知らなかったろう」
「あ、そうだっけ? 俺ジャッカルは相方だから知ってんのが自然のセツリだと」
「どんだけ世界の中心が自分っスか丸井先輩」
 赤也の丸井を端的に表したツッコミは無視された。容赦ねえ、という呟きは仁王に拾われた。
「まあ、ブン太は自分の邪魔する奴に容赦ないぜよ。その部分だけアレは氷帝のキングと一緒じゃ」
「えー俺丸井先輩は跡部よかもっと日本語のウツクシサを知ってると思います」
「まあ丸井くんは日本語にうるさいですから…」
 柳生が言った時、丸井がタックルかという勢いで赤也に抱きついた。
「赤也! お前優しい後輩だな! 俺の日本語が美しいってわかってくれてるんだな!」
「はぁ…まぁ…だって先輩が一番うるさいじゃないですか。日本語。
 真田副部長より」
「ほら、飴やる! 俺が今日はお前を祝ってやる!」
「いや俺は誕生日九月ですから」
 丸井に抱きつかれながらも一定のツッコミテンションの後輩は、今日はどこか淡々としている。いつもは丸井と一緒に騒ぐのに。
「あ、ああ、ブン太明日誕生日なのか」
 ようやく理解したジャッカルが、冒頭の言葉を反芻した。
「……待て。俺いつもお前の手足じゃねえか?」
「その倍がんばれ!」
「いやあの倍やったら普通に死ねるぞおい」
「なんだよ可愛い相方を祝ってやろうって思いやりがねえのかジャッカル」
「俺としてはお前のどこがいつ可愛かったか知りたいがな…。てゆーか、昼飯オゴるとかじゃイヤなのか?」
「…………………オゴってくれんの?」
「昼飯と帰りケーキ買ってやるくらい出来るぞ」
「やりぃ! ジャッカル………愛してるぜ」
「いや止めろお前こういう時だけその声活用して甘声出すの」
 えろいから。とジャッカル。
「確かに、普段のテンションで見過ごしがちですけど、丸井先輩の声って意識して聞くと男前ですよね」
「外見とギャップありすぎじゃ。…赤也、俺は違うんか?」
「いや仁王先輩は真っ当に男前です」
「そーかそーか有り難うのう」
「でも一番の男前は幸村部長です。総合的に」
「…それは否定せん」
 声だけなら女みたいなんじゃがと仁王が呟いた。





「誕生日おめでとう。丸井」
 次の日の朝、登校した傍から柳が言った。
「おうサンキュ」
「…………誕生日なのか」
「うわ真田ひでえ」
 一緒に登校してきた真田の台詞に、丸井はあからさまに顔をしかめた。
「いいじゃないか、丸井。お前笑顔で弦一郎に「おめでとう丸井くん」と、言われたいか?この晴れの日にそんな拷問を」
「……ぜってぇイヤ」
「おい……」
 想像しただけで極寒らしい丸井は両腕をさすって、今日はケーキバイキングと笑った。
「ジャッカルがオゴってくれることになっていたな」
「いや、あいつは普通のケーキ。その後家族でホテルのバイキング行くんだぜ」
「…………」
 柳がわかりやすく沈黙した。ならジャッカルにたかるのは昼飯だけにしてやれ、と言いたいのだろうが一応誕生日の人間に言うのはどうかと遠慮がある。
「で、ジャッカルのケーキ持って幸村くんとこ行くの。幸村くんに半分食べてもらう」
「そうか」
 そういうことならいい、と柳は無表情を元に戻した。
「精市もなにも用意出来なくても祝いくらい言いたいだろうから、行ってやるといい」
「おう」
 俺幸村くんに優しくされんの好き。と丸井。
「部長に優しくされんのがイヤな人も少ないでしょーね…」
「赤也、いたのか」
「どうせ俺は丸井先輩の影ですよ」
「こいつ校門とこから隣いたぜ」
 丸井が指さして笑う。
「とか言いながらお前さ、一年時幸村くんに撫でられて怯えてたじゃん」
「あれは…いろいろやらかした後だったからで…。俺も初々しかったんです」
「えー? お前最初っから図々しかったと思うぜ?」
「そんなぁ…柳さんフォローしてくださいよ。俺初々しい後輩でしたよね!?」
「初々しいというか………、仁王に手伝わされて弦一郎のバッグにカエルを詰めていたが…あれが初々しさだと言うならフォローするが」
「それ確実にトドメです! てか真田副部長の前で言わないでくださいよ!」
「…ほう、あれは仁王の単独犯ではなかったのか」
「ほら骨ボキボキ鳴らしてる! 鳴らしてますよ!」
「赤也、歯を食いしばれ」
「待て待て真田。過ぎたことはいいだろい。てか神聖な俺の生まれた日に暴力を見せるんじゃねえよ」
「丸井先輩…!」
「しかしだな…」
「まあ弦一郎。赤也も悪気はなかったんだ。許せ。一年生では二年に逆らえなかろう?」
「柳さん…そういうフォローは嬉しいですけど元を正せばバラしたの柳さんじゃないですか…」
「だから責任をとっている」
「柳さぁ…そういう一度いじめて一度助けるみたいな可愛がり方すんな? だから赤也がひねくれんだろぃ」
「なにを言う。貞治は喜んでくれていたぞ」
「それはその当時乾がガキ過ぎただけか乾がただのマゾだったかのどっちかなだけだ」
「というか俺は誕生日プレゼントはいらないな。貞治と晴れて再戦出来ればそれでいい」
「誰も二ヶ月先のお前の誕生日なんか聞いてねえよ」
 丸井は毒を吐くように言って赤也を昇降口まで引っ張っていった。
 納得しきらない真田と気にした風もない柳は放置らしかった。
「てゆーか、丸井先輩っていちいち携帯にでもチェックいれてんですか? 各人の誕生日」
「あー、一応」
「そっスよね。去年俺の誕生日祝ってくれましたし」
「そうそう。お前はなにしてくれんの?」
「俺? …………月末は小遣いないんで……じゃあ、帰りコンビニでアイス一個」
「よし。美しい先輩をちゃんと祝えよ」
「はい」
 鸚鵡返しに赤也は頷いた。途中から返答を放棄している。赤也の中では誕生日の人が一番偉い日にその人に逆らうつもりはない了解がある。それでも偉さのピラミッドで頂点にいるのは赤也の中では幸村・真田・柳の順番だが。
「おはようございます、おめでとうございます丸井くん」
 下駄箱で会った柳生が挨拶と一緒に祝った。
「おう。ヒロシ愛してるぜ」
「ブン太…それ以上俺の比呂士にその声使うたらアイアンクローじゃ。覚えとけ」
 逆に仁王は全く祝わないで廊下に消えた。なんなのあいつ、と丸井。
「でも、丸井先輩昼飯なにたかるつもりなんですか?」
「あー、……ファミレス行きてえな。ステーキがいい」
「取り敢えず千円はたかるつもりなんですね」
「一応」
「ホールケーキだって高いんですから遠慮してあげてください。ジャッカル先輩が大変っス」
「だから、ケーキは半分は幸村くんの!」
「知ってます」
「いいんだよ。あいつの誕生日は俺が一番祝ってやんだから」
「……愛情ですね。相方の」
「愛情だ。相方のな」
 だからジャッカルは今日なにより俺を優先する義務がある。と丸井。
 じゃあ俺はそろそろこの人の傍離れていいだろうか、朝通学路で見つかってから逃げられないし困っている。
 と、廊下の向こうから褐色肌の先輩が現れて、おはようと挨拶。
「おうジャッカル」
「おめでとうブン太。取り敢えずお祝いは昼まで待てよな」
「わかってらい。そこまでがっつかねえよ」
「そっか。ああおはよう赤也………赤也は?」
 さっき見た時一緒にいたよな? とジャッカル。
 丸井が振り向くと今朝は定位置のように自分の一歩後ろにいた後輩の姿が影形もない。





「あれ、切原。お前今日早いじゃん。いつもギリギリに教室くんのに」
 同級生に迎えられた教室で、赤也はバッグを机に乱暴に置いて、逃れたとため息。
「あ」
 携帯が鳴っている。まさかあの先輩ではあるまい。
「はい」

『ああ、赤也』

「あ、柳さん。なんですか」

『いや、今俺のクラスの前を丸井が鬼の形相で走っていってな。向かう方向からおそらく二年の教室だろうと思うんだが、…なにかやったのか?』

 あんなに仲良く登校していたのに。と携帯越しの柳。
 だらだらたれ始めた冷たい汗と遙か彼方から地の底から響くような自分の名前を呼ぶ声は決めればやたら男前なあの声で。
 赤也は携帯を握りしめて必死に言った。


「助けてください」








==========================================================================================

 単作。丸井BD小説のつもり。幸村を出したかったけれど(幸村BD小説の流れ的に)出すと高校の話になって
 赤也が出てこなくなると止めた。というか四月生まれって忘れててあわてて書いた。でも20日だったね誕生日…。
 取り敢えず比嘉・立海・四天宝寺の奴はこのサイトでは全員祝うつもり。
 でもオールになるのは比嘉と立海で、四天宝寺は確実にカップリングに走る。
 お題は四天宝寺の五題の言い回しを変えただけ。
 取り敢えずネオロマンスの遙かシリーズ(主に3の所為)の朱雀と声優が一緒なので(丸井が)彼の声は美声だというイメージ。
 愛してるぜジャッカルは遙か3のヒノエの声を思い出してください。
 というか正直遙かプレイ後に学園祭やドキサバをやると丸井を真っ向からみれません。ヒノエがちらついてしょうがない。