バイトの日は、白石と一緒に大学に行けない。 だが、先月分でやっと、白石へのプレゼント代も、教習所代も目処が立った。 週に三日のバイトを、一日減らした。 一日でも多く、白石と一緒にいる日が欲しい。 「おはよう」 いつもなら、もっと早く起きて、寝てる彼を置いて、出かける水曜日。 今日からは、のんびり起きて、白石と一緒にいられる。 いつもみたいに、名残惜しく眠る白石の顔にキスしたりしないでも、起きた彼が扉をくぐると、自分の傍に立って唇にキスをしてくれる。 白石の唇が離れてすぐ、千歳は抱き寄せて、自分からもキス。 「こら、甘えた…」 「もう一回…」 「ご飯やて」 そう言いながら、白石はくすくす笑ってキスをするために俺の首に手を回してくれた。 水曜日の朝に、白石と一緒にご飯を食べるのは、久しぶりだ。 火曜日だって、元からない日は食べているけれど、なんだか特別な気分だ。 朝の他愛ないニュースも新鮮に思えて、にこにこしていると、向かいに座った白石が、不意に悪戯っぽく笑った。 「蔵?」 「いや、…ちょお、千歳。足、」 「足?」 「足の向き、ちょお右にして」 白石にそうジェスチャーつきで促される。 右ということは、テーブルの柱の間に収まっている足を、テーブルの足の外に出せ、ということだ。 「こう?」 「うん」 おとなしく従った自分に、白石は満足そうに微笑み、急に立ち上がった。 「蔵?」 なにがなんだかわからない自分の前に歩いてきた白石は、すとん、と座った。 どこって、椅子に座った、俺の膝の上に。 「蔵っ!?」 真っ赤になって慌てる俺の顔の至近距離で、白石はにっこりと笑う。 やばい。可愛い。 朝から勃ちそうになるのを堪えると、白石はもっと深く俺に座って、ひょいとテーブルに置いてある皿を取った。 「千里」 「え…?」 間抜けな声が出た。だって、「千里」なんて、セックスの時しか呼んでくれないのに。 「はい、あーん?」 とびきり綺麗な笑顔で、白石はフォークに取った野菜を自分の口の前に差し出した。 「………」 「いらん?」 「…―――――――――――――〜〜〜〜」 こうなったら、もう、朝食とか、大学どころじゃない。 乱暴に白石の持つ皿とフォークを掴み、野菜が落ちるのも構わずその身体を横抱きに抱えると、白石は「大学は?」と聞く癖に俺の首に手を回した。 「休み!」 「ふうん…ま、ええけど」 どさり、とベッドに降ろされて首筋にキスされても、白石は楽しそうに笑った。 「もう黙ったい…」 「啼いて欲しない?」 「欲しい」 ちゅ、と唇にキスをすると、白石も観念したように瞳を閉じた。 観念は違う。元から、彼の思惑だったのだし。満足、だ。 「あ、でも、はよ馴れてな?」 「え?」 「水曜日は、いつもああして食べさしたるし♪」 「………」 「その度に盛られたら堪らんしなー。それとも、やめて欲しい?」 勝ち誇ったように笑う唇。俺が答える前からもう。ああわかった。負けた。 「毎日、して欲しか」 白石は上機嫌に、「正解」の一言。 これから、しばらく、いやずっと、……遅刻しそうだ、と思った。 THE END |