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4/4のホワイトディ
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「白石っ!」
自分を迎えに来た謙也が、ひどく上機嫌だったので、白石は一瞬反応が遅れてしまった。
今日は3/14で、謙也の家に遊びに来た。
玄関で出迎えた謙也はひどく上機嫌だ。
「おはよ」
言って笑う。
「はよあがれや! まずは昼飯やな」
「作ってくれたん? 謙也のお母さん」
謙也の両親は今日は留守だ。
「や、俺が作る。今仕上げしとったとこやねん」
「へえ…」
こういう関係になって結構経つが、謙也が料理が得意とは知らなかった。
僅かに驚いた白石に構わず、謙也は手を引っ張って家の中へ連れ込んだ。
「…………ん」
もぞ、と布団が動いた。
部屋の中に戻ってきた千歳がそれを見て、笑むとベッドに近寄って傍にしゃがむ。
布団からはみ出た黒髪を撫でて、もぞりと動く後輩の漏れる声に笑った。
「……ん………?」
「おはよ。光。起きたと?」
財前は目をしぱしぱさせて、しばらくぼやーっとしていたが、ようやく覚醒してきたのか、暢気な声で。
「おはよーございます」
と言った。
「おはよ。もう昼たい。なんか食わんね」
「……あー…もうそんな時間っスかぁ」
寝過ぎた、と呟いて財前は千歳のベッドから這い出た。
途端、ズボンがずるりと滑り落ちてシャツ一枚の姿で太股があらわになる。
「げ」
「光。ちっちゃかねー。俺の服ぶかぶかたい」
「あんたがでかすぎんや……」
顔を赤くしながら、財前はズボンを引き上げた。
昨日から千歳のアパートに泊まったが、そのままシてしまったので服を仕方なく千歳から借りたも、いかんせんサイズが違いすぎた。
財前が小さいというより、千歳がでかすぎるのだ。
「ゴムでそれやと他はあかんねぇ……。まだ光の服洗っとらんし」
「まだなんすか…。今昼でしょ?」
「朝洗濯しよう思っとったけど、洗濯機が壊れたたい……臨終したったい」
まるで飼い猫が死んだような顔でしゅんとなる千歳は座ったままで、立っている財前が流石に見下ろす形になる。
(……こういう顔してっと、この人も可愛いんやけどなぁ)
そう思って、財前は千歳の頭を腕に抱いた。
「光?」
「予算ってあります? あるんやったら今日見に行きましょか。洗濯機」
「…付き合うてくれると?」
「まあ、一応」
選ぶくらいやったら、と言いながら、少し感動した。
この姿勢だと、千歳のつむじが見える。
普段高すぎて見えなかったつむじが可愛くて、財前は思わずそこに口付けていた。
「……ひ、光?」
少し髪が口に入った気がしてぺっとなったけど、腕の中でらしくなくどもった千歳に、財前は更に感動した。
(千歳先輩って…こない動揺することあるんやなぁ……)
なんやいつもへらへらしとる思っとったけど、意外と…って。
「どこさわってん!?」
結局落ちたままのズボン。あらわになったままの太股に這わされた手に、財前は声を上げた。
「…」
千歳が腕の中でくすくすと笑った。
まさぐる手が、軽く尻を揉んで財前は小さく声を鳴らしてしまう。
なおも笑う千歳が、腕の中から顔を出して、真っ赤になった財前を見上げると伸び上がってキス。
「光、かわいかね。誘っとう?」
「ち、ちがっ……」
「…光、」
「ちょ…それはなし…っ」
どさりと床に押し倒される。
いつものように見下ろされる。その顔はとても意地悪に笑っている。
「…冗談いらんです…っ。二日連続あんたとシたら使いもんならへん…!」
「…じゃあ、なんであんなことしよーと?
俺が光には我慢きかんってわかっとう筈たい」
言いながら千歳の舌が、大きく開いたシャツから覗く乳首を舐めた。
かり、と噛まれてびくりと背が仰け反った。
「…ちょ、マジ……あかんですから……っ」
「……どうしても、や?」
「……や」
そう聞かれると、困る。
正直、どんなにこの人が意地悪かろうが、好きだし、抱かれるのだって好きだ。
ただ、明日は部活で練習試合。
身体が使い物にならなくなるのは、勘弁だ。
「……ヤ、やないです」
「…だけん」
「けど、…試合、負けたないです。…やから、……」
少し、困った顔。それに、顔が熱くなって顔を逸らすと、ぽつりと呟くように言った。
「……試合、終わったあと、……ヤったってください」
真っ赤になって、視線を逸らして言う財前のおねだりともとれる声に、千歳はその小さな身体を抱き締めて笑う。
「ちょ…重い! 重いです! つぶれてまう!」
「光…ほんなこつかわいか!」
「つぶれる…っ死ぬ…っ…!」
「だけん今抱きたかけど我慢すったい! 明日は加減できんと覚悟すったいね!」
「わかりました! わかったから上から退いてください! くるし…死ぬ! マジ死ぬ!」
その後ようやく千歳と床とのプレスから解放された財前は、シてる時あんな目に遭わないんは加減しとってくれたからなんやろか…と荒い息で考えながら、二度とあの体勢で彼を喜ばせるまいと誓った。
「ごちそうさま」
「はいお粗末さまでしたっ。どないやった?」
一方謙也宅。食事を終えた二人は、テーブルに座っている。
「まあまあいけるわ。謙也料理うまかったんやな。しらんかった」
「あー、俺はまだまだや。侑士にはかなわん」
「あー、侑士うまかったよな。料理」
今も困ってへんのやろなぁ。と呟いた白石の前から皿を取って、謙也はキッチンへ運んでいく。
「運ぶくらい俺でけるで?」
「今日は白石は客や。甘えてええで」
「……」
やっぱり、上機嫌だ。
でも、あんなに嬉しそうな謙也を見られるなら、悪くない。
「……ほな」
椅子から立ち上がる。
「白石?」
キッチンへ足を踏み入れて、食器で手のふさがった謙也の横に立つと、その顎に手を這わせた。
「甘えさせてや」
「…ちょ、ちょお今は…」
「あかんの……?」
すうっと首をなぞった白い指が、シャツを開いて胸を辿る。
そのまま謙也の身体にしなだれかかった白石は、謙也の手についた泡をすくってぬめる指先でその耳を探った。
謙也がびくりと震えて、食器がシンクに落ちる。
もちろんなにも割れていない。プラスチックの皿を洗っているとわかっていたからやったのだし。
「…白石…」
「……なんやぁ。こないな甘え方はあかんの?」
「…そやない。俺の我慢が効かなくなる」
ため息を一つついて謙也は水を止めると洗剤がついたままの手で白石の腰を引き寄せ、顎を掴みあげた。
「…………」
その無理のある姿勢に、少し驚く。
「謙也…怒った?」
「…怒っとらん。…今、お前を目一杯鳴かせたくてしゃあないだけや」
目を細めて見下ろしてくる顔に、ぞくりと背中が粟立った。
「……謙也」
顎を掴まれたまま、その手に触れる。
「……………鳴かせてぇや」
細い声で強請る。
謙也はごくりと喉を鳴らすと、白石の身体を横に抱き上げた。
運ばれて、ソファに降ろされる。
スプリングが軋んだ。謙也が覆い被さってくる。
「そない言われたら、…もう加減してやれんわ。……せいぜい、可愛く鳴きや…白石」
口角をあげて言われて、背筋をそれだけで快感が走った。
なにをされるかを思うと、それだけで身体中が期待して震える。
「…謙也」
早くそうして欲しくて、白石は自分の服のジッパーを降ろした。
「……」
その降ろされてあらわになった白い胸の肌に、謙也は更に目を細めた。
「白石はほんま…おねだりすんのうまいわぁ。…どないしたろ」
「……謙、也……はよ、…触れて……っ」
焦れていう白石に、急ぐなやと言って、その胸に手を這わせた。
洗剤でぬるりとした手は緩慢に肌を撫でて、覗く赤い飾りをつまむ。
ぬめりで滑って、きつくはつまめない。
その刺激がじれったくて、白石は更に強請った。
「もっと…もっと…激ししてや…」
「ええやんか…時間いっくらでもあるで……?」
笑った謙也は、更にじらすように脇腹を撫でる。
感じるのに、どうしようもなく先の刺激が欲しくて仕方ない。
「…謙也…っ」
もっと強くして欲しいのに。意地悪だ。
「……謙也……っ……もっとしてぇや……お願い………」
耐えきれなくなって懇願した。
覆い被さったまま、下肢には触れようとしない謙也は、白石を見下ろしてなおも意地悪く笑う。
「鳴かせてくれる言うたやんか……っ…はよして…っ」
目尻に涙が浮かぶ。
「……しゃあないなぁ」
謙也はその白石を満足そうに見て、口の端をあげると一気に下肢から布を取り去った。
「かわええわ白石…一杯、鳴いてな……?」
落とされる声に、負ける。
いつだって、行為の時、誘うのは自分なのに。
始まったらじらすだけじらして、自分が泣いて懇願するまで触れてくれない意地悪な奴。
「…けんや…………」
もっと深くを望んで、白石はその首を引き寄せた。
乱暴に下肢から抜かれた布が床に投げ捨てられた。
こういう時、謙也はひどく冷たい目で白石を見下ろす。
スイッチの入ってしまった彼は、白石のどんな懇願も聞き入れない。
「ほら、…白石」
指を白石の眼前に持ってきて、その唇をなぞる。
「舐めぇ…」
「……っ」
逆らえる筈がない。
その先が欲しいのに。
「…っ…ふ……ん」
謙也の指を口に含んで、精一杯唾液を絡ませる。
「いい眺めやなぁ…白石」
「…ん…っ」
「もう、ええわ」
「…っ」
強引に口から指を抜かれてのどが鳴った。
ぐいと乱暴に足を開かされる。
濡れた指がそこを這った。
「…ぁ」
「白石…挿れて欲しいか…? 指」
くいと指でくすぐる。
「ココに…」
「……ぁ…っ…」
「な、白石…。答え?」
「……ほ、欲し……挿れて…謙也」
「ええ返事や…」
「…っ……あぁ…っ…ん…」
指が強引にそこに一気に三本押し入った。
強引な内部の暴かれ方に白石は顔を青ざめさせてソファに頬を押しつけ、指は床に伸びて落ちていた布を掴む。
「……ん…っ…ぁ…! あ、あ…や…謙也…っ……うぁ…あ…っ」
「かわええなぁ…白石」
「ひぁ…っ……」
感じる箇所をえぐられて、声とともに背中がはねる。
「…ぁ…っ」
瞬間白石の性器は精液を吐き出していた。
腹を汚す液体に、謙也は口の端をあげる。
「あかんわ…白石」
「っ…ぁあ…!?」
深く指を回され、四本目の指がひたりと当てられる。
「あ、あかん…っ謙也…無理……っ…」
「白石があかんのやろ? 俺の許しなしにイってしもて…」
「謙也…っ…ごめ……やからやめ…っぁああ…っ!」
ナらされたそこは四本目を裂けることなく受け入れた。
大きな質量に、悲鳴をあげる白石の頬を快楽と痛みの双方がもたらした涙が伝った。
「…ぁ……あ………っ」
「どや? 四本目の味…」
「ぅ…ぁ…っ……あ……」
「…白石?」
「あぁ…っ!」
答えない白石に、かりと指が内部を鋭く抉って背がはねた。
「……ぁ……ぁ…っ」
「……なんやぁ…。もう」
謙也の空いた方の指が白石の青ざめた頬を撫でて、その首を辿る。
「もう、鳴くことしかでけへんやんなぁ…白石…」
「…。……ん……や…っ」
「かわええ…どないしよ…」
「…………挿…て……っ」
「イれてるやん?」
「…ん…やの…っ!」
「……俺の…? 俺のナニ?」
「……っぁ……や……の………もん……っ俺んナカ挿れて………っ」
「……よう言えたわ白石……ぐちゃぐちゃにしたるよ…ご褒美や」
「…ぁ」
指がぐいと引き抜かれる。
足を更に開かされて、その間に謙也の身体が割って入った。
「……謙……也………っ」
「ほら、腰あげぇ」
「……っ……ん……っ」
貫いてもらいやすいよう、腕で身体を支えて言われたとおり腰を浮かせる。
ぐちゅ、と先端がほぐれたそこに触れて、緩く刺さる。
「…っ」
「イくで?」
「…っ…あぁ…あっ……うぁ……あ…っ!」
挿入の瞬間は何度行為を重ねても馴れない。
その圧迫に呼吸さえ失って白石は緩慢に喉を鳴らす。
「…あついな…ナカ……」
「……っ……ぁ」
「ほら、動くで?」
「…っ…ぁ…あ!」
ぐいと腰を乱暴に掴まれ、最初から早く挿入を繰り返される。
「や…謙也…っこな……すぐ…イってまう……っ」
「イってええ…何度でも鳴かせたるさかい……」
「あ…ぁ…っ……」
再び白石は達したが、すぐ繰り返される抜き差しに、声は休むことなくあがり、性器もまた熱をおびる。
「ぁ…あ…っ! あ…謙……謙也……っ…も、あかん……も……っ」
「まだや…」
深く差し込んでその震える耳元で囁く。
「まだ、鳴きたりひん…」
「…謙……也」
「もっと……もっと俺だけのために」
ぐいといきなり引き抜かれ、床に押し倒される。
うつぶせにさせられ腰を高くあげさせられた。
「…鳴いてや…? 白石」
瞬間熱塊が中を強く貫いて、白石は三度目の絶頂を迎えた。
「で、どれがいいんですか?」
電気屋にやってきた千歳と財前は洗濯機コーナーで、手頃な値段のものを探す。
この人絶対全自動やないとあかんよな、面倒くさい人やしと探す財前の服は、千歳が家を出る前にアパートから歩いて五分のユニクロで手頃なものを調達してきた。
それでも見誤ったのか、少し大きな黒の服の袖を折って着ている財前がかわいらしくて、千歳は笑った。
「千歳先輩?」
「ああ、すまん。…そうやねえ。これが値段的によかかな」
「そうっすね。全自動やし」
「ならこれにすったい。頼めば届けてくれるとね」
「それが普通でしょ。洗濯機が運べる普通自動車ってどんだけ非常識なんですか」
「それもそうたいね…」
財前の投げやりなたとえに想像したらしい千歳は、小さくぷっと吹き出した。
「…それは、おかしかねえ…。俺でもちっちゃくなるたいね」
「…いや、あんたはジャストサイズな気が…」
「なぁんか好き勝手いいよっとねぇ?」
千歳は財前の頭を両手の拳で挟んだ。
「わ…ちょ、痛い痛い! すんません…っ!」
「わかったならよか」
ぱっと手を離して一見人畜無害に笑う千歳が、冗談の範囲なら結構手が出るということを財前はこの関係になって思い知っている。
中でもアイアンクローはかなり効いた。
あれは九州の友人だった橘直伝らしく、“桔平のアイアンクローはもっと痛かよー?”と一度笑顔で力をこめられて、死ぬと思った。
(金太郎さんは完全騙されとるわぁ……)
千歳によく懐く金太郎はそんな千歳の側面など知らない。だからこそ言ってやりたくなって内心で毒づいた。
「光? レジ行くたいよー? 置いてかれたか?」
「あ、すいません。行きます」
ほな行くたい、と笑う背中を見遣って、でもそんな側面を知るということは、この人の特別になるということだから、やっぱり金太郎は一生知らなくていいわ、と思いながら後を追った。
「他寄るとこあります?」
電気屋を出て、聞くとなにも考えていないらしい。
千歳は悩む素振りをすると、そのとき携帯が鳴った。
「先輩、鳴ってますよ」
「ああ、電話とね。…出てもよか?」
「いいっスよ」
「すまんね。あ、桔平からたい」
着信相手は東京の橘らしかった。
電子音とともに通信が繋がる。
「もしもし桔平ぇ。なんばい?」
『なんだ? 声がえらく上機嫌だな。どうした?』
「あ、わかったと? ちょっとよかことがあったたい」
『ふうん? それはよかったな。お前、ところで今年はどうだった?』
向こうの橘はすっかり標準語で話すのが癖らしかった。
一回、俺とくらい普通に話せと言ったら、お前と東京弁で話すのが一番面白いんだ、とあんまりな返事。橘は、はっきり言ってそういう奴だ。
「今年?」
『バレンタイン。今日ホワイトデーだろう』
「あー…そこそことよ?」
『本当か?』
沢山もらっていた千歳を知っている橘が疑うように言う。
「ほんなこつ。うちは白石っていうたいぎゃモテる美人がいるたい。
大抵の女の子はそっち行くとよ」
『ああ、白石か、確かにえらく綺麗だからな。ああ!』
電話の向こうで橘が急にわかった、と声を上げた。
「なんね?」
『お前の恋人って白石だろう?』
妙に自信たっぷりにはっきりきっぱり断言されて千歳は転びそうになった。
「それはたいぎゃ的外れたい!!! それは絶対あり得なかよっ!!」
店の前なのにいきなり焦って全否定する千歳の態度が、逆に肯定に思えたらしい。
橘は電話口で大声で笑って照れるなと言う。
「いやほんなこつ違…っ! 俺が好いとうは他ん奴たい!」
『じゃ誰だ?』
あっけらかんと聞いてくれる。本当に、こういう奴が橘なのだ。
「い、いやそれは…」
千歳は隣でいぶかしむ財前を見遣る。他人に口にして、喜ぶタイプではない。光は。
すると。
『じゃあやっぱり白石なんじゃないか。ヤってものにしたんだろうな』
「桔平!」
『なんだ? 千歳、お前昔からああいう綺麗目が好きだったよなぁ』
違う。本当に違う。どっちかというと好きなのは、この可愛い…。
『今度紹介しれくれ』
きっぱり言われて、なにかが切れた。
「違か! 俺が好きばは光たいっ!!!!」
『……………』
電話の向こうが沈黙した。
隣の後輩も、沈黙した。
(…しまった…………!)
だらだらとイヤな汗を感じ始めた千歳の耳元で、橘は。
『あー、あの二年か。お前、相変わらず好きだなぁ。ああいうちっちゃい奴が』
とお見通しだったとネタばらし。
だったら言わないでくれ。試すな。頼むから。
これからしばらく口きいてもらえない。
せっかくのホワイトデーなのに。
「……桔平、……この大仏なまはげ」
思い切り低く呻いて、橘が文句を言う前にぶつっと切ってやった。
しばらく橘の番号は着信拒否だ。
そう決意した千歳が、おそるおそる見た先。
後輩は俯いて無言だ。
ああ、やっぱり怒らせた。
「…ひ、光。今んは……」
声をかけると財前は顔を背けた。
本格的に橘が憎くなる。
その小さな身体が震えている。
「…ひ、光…………?」
怖くなってもう一度呼んだ。すると、財前はもう耐えきれない、という勢いで吹き出した。
「…っ……は……! はははははははは!」
「光………?」
はっきり言って、四天宝寺に来て早一年。付き合って早半年。
こんなに爆笑する彼を見たことはない。
「ち、千歳せんぱ…おかし…っ……なんやめっちゃ必死っぷりが動揺を暴いてはるわー……」
「…怒っとらんと?」
「…なんでですか? …ああ、俺がそういうの嫌いそうって思ったって?
別に嫌いちゃいますよ? 単に四天宝寺部内で言うのは謙也くんとかが五月蠅いからイヤなだけで、東京もんに言われるんやったら別に」
財前は本当に気にしてない、とけろっと言った。
「…そ、それはよかったたい」
寿命縮んだ気がした千歳は胸をなで下ろす。
「先輩、ちょっとかがんでください。髪にゴミ」
「あ、ああすまんね…」
ひょいと安心も手伝ってかがんだ千歳の顔を両手で挟んで、彼は唇に一瞬のキス。
「……」
言葉を失った千歳に笑顔を向けて、財前は両手をポケットにつっこんだ。
「嬉しかったんで、ご褒美ですわ」
そういって先を歩き出す後輩を見て、慌てて追う。
すぐ、手を引っ張り出して、繋いでやりたくなった。
布団に出来た丸まりに、謙也は持ってきたコーヒーをテーブルに置いて、ベッド脇に座った。
「なぁ、いい加減機嫌直せや白石ィ。俺のセックスがアレなんは今更やろが」
一見ヘタレに見えて、いざ行為が始まるとスイッチの入るところがある謙也は自覚もあって、行為のあと決まって拗ねる白石を宥める言葉にも慣れている。
自分から毎回強請っておいて、毎回拗ねている白石は自分が情けない。
ただ、あまりに執拗にされるため、必ず泣かされるのだ。
拗ねたくもなる。
「…謙也のアホ………。声痛いし、腰痛いし……。
鳴かせ過ぎや……」
「…すまんなぁ、あんまり可愛いから」
「反省しろや」
「や、直せへんしアレは」
「直せ」
「お前が相手な限り無理。お前、かわええから。理性あったもんやないもん。
なにか? 女の子なら優しゅうやれるけど、それは理性が残ってるってこっちゃで。
全然本気やないってことや。お前、俺に優しゅうヤられたい?」
狡い。そう言われて、うなずけるか。アホ謙也。
「…ええ」
「ん?」
「……鳴いた方がええ」
「もちろんや。今更鞍替えでけへんしな。する気も一生ないから安心しぃや」
満足そうに笑った謙也に、結局自分は負けている。
ああ、本当に。
「…お前、…………つくづく相手俺でよかったな…」
「なんで?」
「他の奴やったら、とっくにアレさに嫌気さされてるわ」
「…」
吐き捨てるように言うと、逆ににやりと笑われた。
「ふうん? ってことは、白石はいくらアレなことヤられても嫌気さす気配ないんや?」
やられた。
墓穴、掘った。
「……やって、お前に鳴かされんの、…俺好きやもん」
触れられると期待して、それだけで感じるんやもん、と呟いた。
「白石はほんまかわええなぁ」
謙也がますます満足そうに笑う。
そこで携帯が鳴った。謙也のだ。
「あ、侑士や」
「…侑士? 出てみいや」
「…侑士?」
『おー謙也ー。どうやホワイトデーは?』
「お前ほど苦労せんわ」
『謙也は俺よりモテへんしな』
「馬鹿にしとる?」
『いんや、その方がええ。跡部センセなんかもろうたチョコ施設に配るんや。
お前どこの慈善家やねんっちゅー話しや』
「…イヤやな。そんな中学生」
『目の前に現物がおる俺はどないしたらええんや…。毎回あいつへの橋渡しがイヤやねん…』
「…橋渡しか」
謙也は橋渡し自体は経験があった。白石に対するもの以外(白石へのものは即断っている)。
跡部スケールの橋渡しは大変だろうなぁ、と遠い地の従兄弟に同情。
『そや、蔵ノ介おるやろ? 出しぃや』
上機嫌になって請求した従兄弟に、謙也は笑った。にやりと。白石に向かって。
イヤな予感。
「ああ、白石な。おるけど…今散々鳴かせてしもた後やから無理やわぁ」
意地悪く言った謙也に、白石はまた泣きたくなる。
枕を顔に投げつけて叫ぶ。
「謙也のあほ―――――――――――――――!」
それでも上機嫌を保ったままの理由がわかったのは翌日。
白石の母親と交友のある侑士の母親が持っている白石の幼少の写真の詰まったアルバムを、侑士からもらった。ということがあの日の朝にあったらしい。
侑士に怒りたくても、あんなことを言われてしまった翌日に電話出来なくて、白石は頭を抱えた。
後書き
…なんで白石相手だとそうじゃないのに光相手だとエロいんだ千歳は……。(最初の感想)
そして謙也はサドすぎだ。白石は千歳に対する時と違って素直すぎだ。
財前は謙也相手の時と違って可愛すぎだ。
…ということばかり目立つ話になってしまった。
またこの組み合わせを書くか書かないかは不明。
でも楽しかった。
でも私の一番のカップリングは不動のちとくらです。
ちなみに千歳の橘への最後の文句、最初は「阿呆」だったのですが、変えました。
いやこっちの方がいいよな、と。時になまはげの生産地はどこだ?
そして昨日誕生日でした!おめでとう私!お祝いメルフォくれた方ありがとう!
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