痛い光 目が眩む朝日を
塗りつぶして黒に変えたら
醜ささえ闇に溶けるだろう
聖書なんて必要いらない

tha DIRTY butterfli influences all.
ツバサ広げた

この世が嘘だと信じ 全てを欺いてきた
今更もう戻れない
未来ゆめも踏みにじる

そして

永遠に上映うつされる絶望キネマ
褪せたリールは今日も廻る
笑いもせず 涙も見せず
枯れ果てた僕が映っている
いつからか閉ざされた心の空
強く叫ぶこともできず
広い闇で何も聞こえず
独り怯えてるのだろう

届かない過去への祈り

弱さが悪だと信じ 全てを傷つけてきた
笑い隠しながら 全てを欺いてきた
今更もう戻れない
未来ゆめも踏みにじる

そして

永遠に上映うつされる絶望キネマ
褪せたリールは今日も廻る
笑いもせず 涙も見せず
枯れ果てた僕が映っている
いつからか閉ざされた心の空
強く叫ぶこともできず
広い闇で何も聞こえず
独り怯えてるのだろう

永遠に繰り返す絶望キネマ
褪せたリールは今日も廻る

壊れた玩具のように








Ark−悪徳なんか怖くない−



 ――――――――――19世紀。ロンドン。

 俺は貴族家の跡継ぎだった。不自由ない暮らし。
 だがその身分が、キミに会った時、憎くなった。
 愛しい俺の天使、ローディンセシア。
 下働きだったキミを愛し、キミも俺を愛してくれた。
「オリエンテ様。そんな顔をなさらないでください。セシアは大丈夫」
 オリエンテ=フロンティア。それが俺の名前。
 キミはいつもけなげに微笑んで俺を愛した。
 儚げで誰より美しく、優しかった俺のセシア。
 俺の身分がもっと低いなら、キミを苦しめずにすんだ、と何度呪っただろう。
 貴族と下働きの娘の婚姻が認められるはずはなく、キミは家の使用人からすらも“身分ほしさに取り入った愛人”と蔑まれ、傷ついて。
 それでもキミは俺に笑う。
 私は幸せです、と。
 白金の髪、美しい翡翠の瞳の、俺の天使。
 キミを傷付けることしか出来ない俺は、それでもキミを手放せない。
 キミのいない世界で、俺は生きていけないほどキミを愛している。
「セシアは待っています。オリエンテ様を。
 セシアは幸せなんです。疑わないで。セシアは、あなたと一緒にいられるだけで、幸せです」
「待っていてくれ。所詮ただのパーティ。すぐに終わる。
 すぐ、キミの元へ帰ってくる」
「はい、待っています。いつまでも。セシアは、ずっとあなただけのために」

 そう微笑んで俺を送り出した笑顔のキミに、俺は二度と会えなかった。
 親が決めた俺の正妻が、愛情がセシア一人に向けられることに狂って、キミの飲み物に毒を盛った。
 俺が帰った時、セシアを既に死神の鎌がさらっていた。
 息絶えたセシアを抱いて、俺は誓った。

「生まれ変わって再び出会えたなら、俺はキミを離さない。
 二人で今度こそ、幸せになろう―――――――――――――」






 そして21世紀、日本。
「桔平ぇ―――――――――――――」
 日本に生まれ変わった俺は、アパートの一室で携帯を片手に親友を呼ぶ。
 親友は携帯の向こう、酔ってるのか?と苦笑気味だ。
「桔平、……寂しか。どげんしてお前はそげん遠くおると」
『…酔ってるだろ』
 普段千歳から触れることの滅多にない話題に、橘は気分を害さず矢張り苦笑だ。
『ホームシックか? 大阪に行ってまだ十日だろう?』
「桔平がおらんたい。寂しか。それにホームシックじゃなか。桔平シックたい」
『気持ち悪いこと言うな! …電話で聞いてやってるだろ?』
「…だけん、会って話がしたか。……俺の前世の話、真面目に聞いてくれちょったは桔平だけたい」
『というかお前、俺以外に話さなかっただろそもそも』
「だけん、馬鹿にされんのわかっとう」
『だな』
「けど、桔平は絶対馬鹿にせんって信じたからうち明けたと。桔平は、ほんなこつ馬鹿にせんで聞いてくれちょった。俺はまだセシアにも、前世の誰にも会えてなか。
 桔平だけが…支えやったとに」
『…愛されたなぁ。でも俺は笑いながら聞いてたと思うぞ?』
「馬鹿にした笑い方は一度もせんかったと」
『そうか。……まあ、そう嘆くな。もしかしたら会えるかもしれないじゃないか。
 前世の誰かに。会えばわかるんだろ? お前は』
「……うん。俺には絶対わかるたい。…そうやと、よかけんね」
『そうだ! 俺たちはお互いこれから新しいテニスをするんだ。
 そう落ち込んでもいられないさ』
「……うん。ありがと桔平ぇ。少し楽んなったと」
『それはよかった。じゃあ、今日はそろそろ学校を見に行く時間だろ?』
「あ、そうやったと。じゃ、また電話すっと。またな桔平」
『ああ、頑張れよ』
「桔平もな」

 ピ、と電話が切れる。
 忘れられない前世の記憶。
 愛しい前世の妻、セシア。
 お前は、どこにいるのだろう。
 会いたいよ。

 千歳は遠く、窓の外を見つめた。





 寺院も並ぶ道を抜けると、四天宝寺中等学校、という看板が見えた。
(ここたいね…)
 途中すれ違った制服の学生にちらりと見られる。
 注目されるのは転校生の宿命だから、別に気にしない。
 そこまで、千歳は他人の感情に敏感ではないし。

 パコーン … パコーン …

 インパクト音が響いて、傾けた視線の先、テニスコートの周囲に散る満開の桜。
 近寄ると、一人の部員が気付いて、面倒そうに駆け寄った。
「なんか、用事?」
「……あ、今日来るって言っちょったと思うと。…九州の」
「ああ、あんたが」
 すぐ納得した黒髪の少年の耳に、虐めるような沢山のピアスを見つけて千歳は軽く驚く。
 自分もしているが、目の前の少年の数はちょっと、と。
「部長!」
 その少年がコートに向かって叫ぶ。
「ほら、あの九州の獅子楽来ましたよ!」
「…名前、あるけんど」
 学校名で呼ばれて、千歳は苦笑してぼそりと言った。
 コートの群から振り返った姿が小走りに駆けてきた。
 遠目にも、心臓が締め付けられたのがわかった。
 揺れる白金の髪。千歳の視線に気付いたように向けられた瞳はあのころと違わぬ翡翠で。
「ありがとな財前。…えっと、千歳、くん?」
 九州の、と呼ぶ声も耳に入らない。
 魅入られて、目が離せない。
 瞳も、髪も、なにより、―――――――――――――その瞳の持つ魂の色。
 間違える筈がない。
 間違える筈がなかった。
 愛しい、愛しい記憶で、誰より愛した彼女。

「…セシア」

「え? いや、俺は白石―――――――――」
 蔵ノ介や、と告げようとした唇が硬直する。
 セシア!と叫んで千歳の腕の中に閉じこめられるように抱き締められた所為で。
 驚いた身体がすぐ文句を発しようとして不可能になった。
 唇が深くそれで塞がれる。

 キス、されている。

 理解して、その重なった唇の歯列を割って舌が入り込んだ時白石のなかでなにかが切れた。
 その喉の奥で低い悲鳴が漏れた瞬間、白石は抜け出して真っ赤になって叫んだ。
「なにすんねん!!!」
 一方の千歳は、その白石に遠慮なく鳩尾を蹴られた所為で声が出ない。
 周囲の部員がざわざわと集まってきた。
 当たり前だ。自然部長を目で追ったら、いきなりその部長がその大男に抱き締められておまけにキスされたのだ。集まらない部員の方がおかしい。
「…部長、大丈夫ですか?」
「…あんまり大丈夫やないわ。信じられへん…なにこいつ…っ」
「おいどないしてん白石…。大丈夫か?」
 新手の告白か?と謙也が駆け寄ってきた。
「…しらん」
 そう一言返して、白石は拳を握りしめる。
「ちゅーか…センセもなに考えてん…。こんな…こんないきなり男襲うやつ部員にするやなんて…なにがいいヤツや、や!」
「俺がなんやねん…」
「あ、オサムちゃん…」
「なんやこの騒ぎ」
「…今、その獅子楽のが部長を白昼堂々襲ったんですけど、なんですかこの獅子楽。
 ホモ?」
「…は?」
 渡邊がそこで初めて素っ頓狂な声をあげた。
「…千歳が? 白石を?」
「そうですよ。やから部長が蹴り一発いれたんですわ。まあ正当防衛ですよね」
 財前はさらっと言って千歳に同情する影もない。まあこの状況で千歳に同情する部員は皆無だったが。
「……」
 思わず言葉を失った渡邊の傍、ようやく痛みから立ち直った千歳が顔をあげて、白石を凝視した。
「…セシア…まさか、…なかと?」
「…誰がセシア、や。俺は…」
「…記憶、なかとね!? 記憶なかと!? 俺ば覚えてなかとか!?」
 渾身の力で両肩を鷲掴まれて揺さぶられる。
「し、しらん…! いっ…痛…っ」
「ちょ、あんた部長になにす…!」
 財前が文句を最後まで言う前に、千歳は手を白石から離した。
「…記憶、なかと…俺のこと…わからんと…折角、会えたとに……」
 そう零して項垂れた千歳が、心底絶望していて、白石も財前も、意味が分からないながらそれ以上責められず顔を見合わせた。




「つまり、お前には前世の記憶がある。で、前世はロンドンの貴族で、死に別れた妻がいてセシアって名前でその生まれ変わりが―――――――――――――」
「…白石、部長さんたい」
 翌日の学校。
 昨日はそれどころではなかった千歳を迎えて、話を聞いてやっている謙也の横で白石は無言で昼飯を食べている。
 見張りのようにあの財前という二年も一緒だ。
「…折角会えたと喜んだとに…記憶、なかなんて」
「……それがほんまかおいといて、とりあえず白石にはそんな覚えはない。
 とにかく、普通に接してやれや?」
「ほんなこつ! ほんなこつに本当たい! 白石はセシアで…セシアで…………」
 語尾が滲んでいく。
「どげんして忘れてしもたとセシア…! ほんなこつ今でも愛しとうに――――――!!」
「っわ! 抱きつくな! 離れえ!」
 白石に抱きついた千歳をひっぺがそうと財前が首を引っ張るも、千歳の力は強く離れない。
「好いとう…好いとうよ…! お前は俺の妻たい! 俺のもんたいよ!」
「ちょ…ええ加減にせんとどたまッ…!!」
 白石の声が途切れた。再びその肉厚の唇に塞がれてしまったからだ。
「…っ…ん、…んっ」
 引き離そうにも力は強く、骨が折れんばかりに抱き締められている。
 口内を好きに蹂躙され翻弄されて戸惑ううちに、千歳の舌が唇をなぞって切ない声が掠れる。
「…っぁ」
「…セ」
 千歳の声が途切れた。
 今度は謙也と財前、二人に左右から腹を蹴られたからだ。
「…千歳、お前ええ加減にせえな?」
 白石を自分の腕の中に囲い込んで庇いながら謙也が言う。
 背中を撫でて、大丈夫か?と優しく問う。白石が、うん、と荒い呼吸で答えた。
「…ほんま、あんた別の余所行ってくださいよ」
 財前が心底うんざりと呟いた。

 ファーストコンタクトもセカンドコンタクトも最悪。
 それでも、白石は部活に熱心な部長だった。
 千歳を放置出来ないと、迫る千歳に言い聞かせ、せめて大会が終わるまでおとなしくしてくれ、終わったら思い出す努力はする、と説得した。
 その甲斐あって、千歳も新学期が始まってからはだいぶおとなしくなった。
 それでもところ構わず白石を妻扱いするので、白石の気苦労は実際、減ったようで減ってないものだったが。



「これ?」
 呼び出された空き教室で、財前に渡された薬を謙也は指で弾いた。
 そのまま一気に飲み干す。
「ちょっとは躊躇いましょうよ謙也くん」
「ええ。これで多少は激しいシてやれるんやろ? それであいつが楽んなるならええわ」
「……謙也クンは部長ほんま好きですね」
「お前もな」
「…ええ。やから、俺は謙也クンなら許せる」
 靴音が近づく。熱くなっていく身体の衝動に任せて、扉を開けた肢体を思い切り引き寄せた。
 財前が背後で扉の施錠をする音を、遠く聞いた。


 呼び出されて、開口一番の言葉もなく安い机に押し倒された。
 驚くことでは、少なくとも白石にはなかったので、そのまま貪るような口づけを受ける。
「…ん…っ…ふ」
 謙也はじれるように空いた手で白石のベルトをはずし、おもむろに性器を掴む。
 息をのんで身を震わせた白石に構わず数回梳くとその眼前にしゃがみ込んで躊躇いなくくわえ込んだ。
「…ぁ…っ…ふ…っ」
 堪えられないあえぎを漏らす白石の口に手を突っ込んで唾液を絡ませるとそのまま下肢の受け入れるそこに指を遠慮なく一気に三本押し込んだ。
「…っあ…! ぁあ…っ」
「白石…っ」
「…なに…は…ぁ…あ、けん…なに、飲まされたん…っ…」
「しらんけど…ええやろ。お前がめっちゃほしいんは変わらんわ」
「…んぁ…っ」
 ずるりと下肢から指を引き抜くと机に再度押し倒して足に引っかかっていたズボンを完全に抜き取る。そのまま大きく開かせて、身体を割り込ませるとそこに熱塊を宛った。
「…ぁ…あ…!」
 一気に貫かれる感触に白石は堪えきれず嬌声のように悲鳴をあげた。
「…あ…っ…ぁ…や、あっ」
「白石…」

「部長」

 一人蚊帳の外だった財前が近寄って、机の上で喘がされるままの白石の顎を掴んだ。
 そのまま仰け反らせた首筋に口付けると、そのまま遠慮なく唇を塞いで蹂躙した。
「…ん…っ…んん…っ…ふ」
 喉の奥で喘ぐ白石のとがった胸の飾りをいじって、何度も口付ける。
 瞬間謙也が白石の中に放って、白石も遅れて達した。
「……お前、せんの?」
 効果が収まって落ち着いたのか謙也が財前を伺った。
「ええです。さっきの眺めだけで充分そそりましたし…。今のだけで勃ってしまったんは事実ですけど。今謙也くん、かなり遠慮なく犯したし、これ以上は部長がしんどいはずなんで」
 事実、白石は身支度を整える余裕もなく身を震わせて机の上で絶頂の余韻に堪えている。
「…そやな。白石、大丈夫か?」
「…ん……平気…。あんがと。気持ちヨかったし」
「…なら、ええけど」
「部長、荒れてたでしょ。あの獅子楽の所為ですか?
 足りひんなら、俺も遠慮せんと、抱いたりますけど」
 財前の申し出に、白石は気怠く重い身体を起こすと、下肢になにもまとわない姿で足を開いて笑う。
「…うん、もう一回。財前も俺んことヤって? 滅茶苦茶にしたってや」
「そんなら」
 もとより財前には白石に強請られてはあっさり理性など切れてしまう。
 そもそも謙也に抱かれている姿だけでも興奮したのに。
 乱暴に床に押し倒し、濡れたそこに前触れなく自分の性器を押し入れる。
「…は…っ…あ…!」
 抵抗せず受け入れながらも微かな喘ぎを零す白石の寄せられた眉に鼓動が鳴って、もっと余裕ない顔させたい、と興奮した。




「謙也さん、俺、部長んこと壊したいんです。やから、滅茶苦茶に犯すし、乱暴にもする」
「…好きやからやろ」
 一年の冬、告白した財前に謙也はそう零した。
「…好きです。言い表せへんくらい、やから、壊したいんです。
 壊して、俺だけのもんにしたい。壊して、俺がおらな生きていけんようにしたい」
「……叶うんか。それ」
「……多分、無理っスわ。あの人……優しすぎんねんもん」

 犯したって、無理させたって、どんだけ銜えろとか強要したってあの人笑って許すやないか。いっそ部員全員で犯したったら壊れるかもしれんけど、俺はイヤやもん。
 俺か謙也くん以外があの人犯すん。
 謙也くんやってほんまはイヤです。
 やから、壊れてくれへんあの人きっと。
「壊れたらんで」って言われた。けど、あの人俺の気持ちにも謙也クンの気持ちにも気付いてへん。
 だから、犯すしかないんです。
 許すからやのうて、あの人壊したい。
 俺に抱かれな、生きてけんようなったらええ。

「……不器用過ぎや。お前。…白石は壊れへんわ。例え、誰に犯されても、例え輪姦されたかて、あいつ壊れへんわ。…そないなこと誰かしやがったら殺すけどな」
「俺もそう思います、やから…あの人犯すん、やめられん」

 犯す、という言葉を態と使う。
 白石が許す以上和姦で、抱いている、が正しいのに。
 そこに白石の恋心はないから、どうしたってそう言ってしまう。


「ん…ん…ぅん…っ」
 背後から財前に犯されながら、口で必死に謙也の性器を銜えて愛撫する白石の背中に舌を這わす。
 それすら感じるように締め付けられて、中に吐き出す。
 謙也のものと混ざって、白石のそこからとろりと零れた。
 何度も代わるように犯されて、ぐったりとした白石の身支度を整えて、謙也が肩を貸すとおとなしく掴まった。
「…大丈夫か?」
「…ん、平気。…普通に、ヨかったし、安心したし」
 白石は怠い身体になんとか力を込めて歩きながら笑う。
「大会近いから、俺んこと放置かなって思っとったし。やから、ヨかったからありがとな」
「うん。また二人で可愛がったるから、安心せぇ」
「…うん」
 白石の、快楽だけを拾う姿は安心と哀しみを与える。
 許されているという安心と依存。
 それから、謙也と財前が白石に抱く恋心に気付いてもいないという悲しさ。
 それでも、すがることをやめられない。
 足を引きずるように部屋を出た白石を抱えるように支えて、謙也は顎を捉えて一度口付けた。
 財前が、狡い、と文句を零した。




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