それは不可能の代名詞

決して咲かない青いバラ








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36.7度の波打ち際
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 ただ波打ち際で雨に打たれている細い背に駆け寄って名を呼んだ。
 足音や気配で、彼ならわかっている筈なのに、木手は無反応で振り返ることもない。
「…永四郎」
 呼ぶ。けれど、彼は全てに絶望したように泣き続ける天を仰ぐままだ。
「…永四郎!」
 強く叫ぶように呼んだ。
 それでも、目の前の背中は振り返らない。
 それが、痛かった。
 彼の心は、どれだけずたぼろに傷ついているのか。
「永四郎!」
 これ以上は身体に障る。第一、もう何時間も前からいたのではないかと焦って、無理矢理腕を掴んだ。びくりと一瞬だけ震えた肌は、恐ろしいほど冷たかった。
「…永四郎…!」
 その死人のような冷たさに、青ざめた。
 早く暖めてやらないといけないと帰ろうと言った。
 だが木手はようやく反応して、弱く首を横に振った。
「帰ろう…永四郎。風邪引く…」
「………」
「永四郎…頼む…」
「…それは、」
 掠れた、凍えた小さな声が耳を打つ。
 聞き逃すまいと耳を寄せた。
「…それは、…今日のことの罪悪感からの慰めですか」
 彼だとは信じられない程、弱い言葉だった。
「違う!」
「俺を傷付けたと思って、だから面倒にも文句を言わないで優しくしてるんじゃないんですか」
「違う! そんなんじゃない!」
「……」
 木手は捕まれた腕をふりほどこうとせず、ただもう一度空を見上げる。
「……ごめんなさい」
「なんでお前が謝るんだ…」
「……テニスも、…続けられなくて。全国も一緒に目指せない…。
 キミを怒らせてばかりで…」
 その理由もわからないとか細い声が紡いだ。
「…ごめんなさい」
 違うと叫んだ。お前は悪くない。わからなくって当たり前だ。
 お前は一個も悪くないんだからと。
「…だって、キミは決して理不尽なことで怒ったりしない」
「永四郎は俺を買いかぶり過ぎてる。俺だって理不尽なことで怒鳴る!
 あれは、お前は悪くないんだ!」
「…………」
「俺は、その姿を誰にも見せたくなかった!
 そんな姿を他の奴が見たら、絶対お前を好きになるから。
 俺はいつだって、お前に触るなって…他の奴に笑うなって…他の奴に優しくするなって思ってるような心の狭い人間だ…そういう汚い奴なんだ…!
 俺はただ、お前を独占したかっただけなんだ!」
 頼むからと、伝わってくれと。
 必死に願って叫んだ言葉に、木手はようやく顔を知念に向けた。
 それでも、信じられないように知念を見上げて、その瞳は迷子の子供のように揺れる。
 平古場に感じた感情とは比べ物にならない義務感に、これこそが違いだったと思い知る。
 平古場には、親さえ見つかれば手を離していいという感情だった。
 親元にとどければ自分の役目は終わりだという義務感。
 だが木手へのそれはそんな優しいものではなかった。
 決して離してはいけない。離さない。
 親が現れたって、離すものか。渡すものか。誰にもこの子を渡すものかと。
 そう願う感情は最早義務感などという感情ではない。
「……嘘」
「嘘じゃない!」
「だって、…平古場クンとキスしていた」
 嘆く声に、胸を掴まれた。
 見ていたのだ。だからこそ、彼は。
「…違う。確かに避けなかった。けど、俺は平古場を友人以上に思ってない。
 友人より、仲間より家族より、大事なのはお前だけだ永四郎…!」
 その冷えた両肩を掴んで必死に訴えた。
「……ほんとうに………?」
「本当だ。本当に俺は…」
 迷子のように嘆く彼を救えるなら。
 救えるなら、怖くない。
 失恋への悲しみも告げることの恐怖も、醜さを知られる恐ろしさも。
 耐えられる。

「俺は、お前が好きだ…」

「永四郎が…好きなんだ…」
 その冷え切った頬をそっと撫でて、自分より小さな身体を腕の中にそっと抱き込んだ。
 その薄い背中を何度も撫でる。
「………………知念クンが…おれを……?」
「そうだ」
「………嘘」
「嘘じゃない! 俺はお前さえいればいい…!
 好きだ。好きなんだ…!」
 届いて欲しい。受け入れてくれなんて贅沢は言わない。
 ただ理解って欲しい。お前を狂おしい程思う奴が一人でもいると。
 お前は、決して一人じゃないんだと。
 何度繰り返しただろう。その冷えた身体が、腕の中で小さく泣いた。
 雨に打たれて、それでも瞳から零れる涙は鮮明だ。
「……知念、クン…」
 すがるように、腕が伸ばされた。その頼りない腕を掴んで引き寄せ、もう一度強く抱き締めた。
「……知念クン……っ。
 俺……、」
「帰ろう…。永四郎…」
 優しく頬に、瞳に、額に口づけを落として背中を撫でると、身を震わせてなおすがりつく身体が徐々に弛緩した。
「永四郎…」
 ただ腕の中で身を震わせる身体をかき抱いて呼ぶ。
「…好きだ…………」
 たまらない愛しさを込めて伝えると、腕の中の身体がおずおずと手を伸ばしてくれる。
 その子供のような仕草がなにより可愛い。
「平古場クンより………?」
 不安げに見上げる瞳が訊いた言葉に、その頬を撫でて答える。
「当たり前だ。俺には、お前より愛しい存在なんていない」
 はっきりと言うと木手は俯くように頷いて、顔を知念の広い胸に埋めると縋り付いてきた。
 その身体をより強く抱き締める。
「帰ろう。永四郎…。一緒に……」
 一緒にいようと伝える。
 すると、彼はそっと背中に回した手に力を込めて。
「…じゃあ、続き…してください」
 そう言った。
「続き?」
「更衣室の、続き…」
 風が、波音を強くする。
 その中で、それでもはっきりと届いた。




 そっと、その頬に触れる。木手は少しだけ怯えて、少しだけ嬉しそうに知念を見上げた。
 知念の部屋のベッドの上に座って、その降りた髪を撫でる。
「いいのか…本当に」
 問うと、こくりと頷かれる。風呂で暖めた身体は頼りなく、薄い服を一枚まとっているだけで。
 ここで、衝動のままに押し倒すことは簡単だ。
 だが出来ない。
 もう二度と、傷付けたくなどないんだ。
 だから、確かめるように訊いた。
「痛いぞ?」
「はい…」
「辛いし、明日、ひどくしんどい」
「…平気です」
 その髪にそっと口付けて、瞳を合わせる。
「…とても、怖いぞ」
 いいのか?と。
「俺は、…きっと一度お前に触れたら、もう止めてやれない。
 お前が泣いても、怯えても、きっともう止められない。
 きっととても怖い。…いいのか?」
 もう二度と、怖い思いなどさせたくないと願って伝える。
 木手は頬を撫でる知念の腕に手を伸ばして、そっと掴むと小さく、子供のように笑んだ。
「キミに怒鳴られる以上に…俺に怖いことなんてないです…」
 だから耐えられる、怖くないと答えた木手を、力一杯抱き締めた。
 愛しかった。堪らなく愛しかった。
「好きだ…永四郎。好きだ……」
 誰より、世界より愛しい身体。
 もう。
「…離さない。もう…絶対に」
 有りっ丈の思いで紡いで、唇を寄せると決して拒まないその身体を、ゆっくりと押し倒した。


「永四郎、永四郎…、力抜いて…。脱がせない」
「…すいません」
 真剣な顔で言われて、木手は自分が身体を強ばらせている所為で上着は腕から抜けないし、下肢からも服をとれないと気付く。
 出来るだけ脱がしやすいよう力を抜いた…つもりだったが、知念の苦笑が上から降った。全く抜けていないらしい。
「…すいません」
 これからの行為より無性に恥ずかしくなって、視線を逸らしてぼそりと言うと、逸らしたために上に覆い被さった知念に向けられた形になった頬に軽く口付けられた。
「いや、永四郎はそれでいい」
「…何故…? しにくいんでしょう?」
「永四郎は、こんなコト、馴れてなくていい。…いつも試合や組み手ですら緊張しないのが、強ばるのは馴れてないってことだから…逆に俺は嬉しい。
 逆に、永四郎がこんなコト馴れてたら俺は傷つくし、立ち直れない」
「……」
 怒るところかとも思ったが、知念があまりに真剣に言うので、なんだか嬉しかった。
 下手だと言われたようなものなのに、嬉しかった。
 はっきりとではないけれど。

(俺だけのものでいてくれと、…言われたみたいで)

 そう考えた一瞬、間が抜けていたらしい。簡単に下肢から布を全て取られて、びくりと身が震えた。
 怖いわけじゃなかった。ただ、なにもかも初めてというものが、初めてだったから純粋に心臓が早く跳ねて、うるさい。
「永四郎…」
 名を呼んだ知念が、シャツのボタンをはずすと胸元に顔を埋めて、軽くキスを繰り返す。
 くすぐったくて、やめて欲しいと伸ばした手が知念の髪に絡まる。
 すると知念は顔を起こして、真剣に問いかけてくる。
「跡…、残していいか?」
「…………」
 そんなこと、聞かなくていいのに。
「………………知念クンなら、…いい、です」
 思わず零れた笑みを浮かべたまま答えると、知念は酷く嬉しそうに安堵して、髪を優しく撫でた。
(不思議…)
 胸にチリという痛みが何度も散って、それを為した唇がそっと木手の唇に重なった。
 そのまま、深く重ねられる。
(……あの時と、されていることは同じなのに)
 その手が、唇が、優しいということだけで、

(全然…怖くない)

 耳朶を緩く噛まれて、電流が走ったような感覚に小さく掠れた声が漏れた。
「…っ……ん」
「声、我慢するな…」
「……そ…な…しようと、…思っても出来ない…っ…ん…っ」
 緩く大きな手で露わにされていた性器を掴まれる。
 そのまま緩く触れられて身体から刺激からの震えが抜けない。
 自然漏れてしまう声を、堪える余裕なんてある筈がなくて。
「……いいか?」
 耳元で低く訊かれて、訳も分からないまま頷いた。
 直後、下肢のそこにひたりと触れた指が一本挿ってきて、全身が緊張した。
「…っ…ぁ…や……!」
「…流石に、狭いな」
「…っ…ちね……ッ」
「大丈夫…」
 そのまま額に口付けられる。
「ゆっくりするから…力、抜いて…」
「……っ……」
 自然、涙が浮かんだ。
「……怖いか……………?」
 すぐ気付いて、手が止められる。

(嘘つき…)

 ただ案じて見下ろしてくる瞳には、ただただ優しさしかない。
 それを怖がる筈、ない。
「…嘘、つき」
「…ごめ」
「…止められないって、言ったじゃないですか…」
 予想と反した言葉が木手から漏れて、知念は瞳を瞬かせた。
 見下ろす彼は、ただ荒い呼吸の中で穏やかに笑んでいる。
「…一度始まったら、止められないって…俺が怖がっても無理だって…言ったくせに…。
 止めてる……」
「……だって、…お前を大事にしないで、誰を大事にしたらいいんだ」
「…いい、から」
「永四郎…?」
「辛くていい…、俺だけだって言ってくれるなら…怖くなんかないです…から。
 早く…してください…」
 紡いだ声に、知念が葛藤するように辛そうに眉を寄せた。
「…頼む、俺を煽らないでくれ…甘やかさないでくれ…。
 本当に、…止められなくなる」
「…いい、です。痛くて、いいから…早く」
「…永四郎…?」
「…知念クン」
 うまく力の入らない手を、必死にその首に伸ばした。
 力一杯で掴まるようにすがる。
「……早く…キミが欲しいんです……」
「…っ」
 そう強請ると、一瞬酷く辛そうに歪められた顔が、近づいて深く口付けてきた。
 そのまま受け入れていると、喉元で知念が低く「ごめん」と言った気がした。

「…っ」

 直後、圧倒的な質量がそこを押し開く痛みに、自然涙が溢れて零れる筈だった悲鳴は重ねた唇に飲み込まれた。
「…ごめん」
 もう一度謝った声が降って、すぐ出し入れを繰り返された。
 謝らないで欲しいと言いたくてもあがる声は掠れた悲鳴ばかりで、以前に伝えたい思考もどんどん与えられるものに消えていく。
「…ね……ク……っぁ…あ…っ」
「永四郎…」
 強く、そこに塊を押し入れたまま身体を抱き締めてきた腕が頬と髪を撫でて、余裕のない顔が必死に耳元で紡いだ。

「好きだ……」

 その後は覚えていなかった。ただしがみつくだけで精一杯で、意識を失う間際まで繰り返し好きだと伝えられた回数すら、わからなかった。




 意識が戻ったのは、髪を撫でる優しい手の平と背中を抱き締める腕の温もりに気付いたからだった。
「……ん………、…?」
「永四郎」
 呼ぶ声に、意識が覚醒する。
 ベッドの中。シーツに包まれて抱き締められていると気付くまで時間がかかった。
「もう少し寝ててもいい。まだ早い」
「……知念、クン」
「…痛むか? 辛く、ないか? ごめん…無理、させた」
 言葉少ない声がそれでも真剣に案じているのがわかる。
「…大丈夫です。お願いですから、そんなに謝らないでください。俺が望んだのに…」
「…でも、急ぎすぎた気がする」
「俺が急かしたのに?」
「……永四郎、狡い」
 真顔で拗ねるように言われて、思わず軽く吹き出した。
「キミ…子供みたい」
「中学生は、子供」
 憮然と言われた、確かにそうだけど。
「………あ、もしかして平古場クンたちも探してくれてたんじゃ」
「もうとっくに大丈夫だって連絡した」
「そうですか」
「…でも、ああいうことの後に他の奴のこと気にしないで欲しい」
「…、他って…平古場クンたちですよ?」
「それでも、俺はイヤだ」
 あまりに真剣に拗ねられて、おかしくて堪らない。
「…キミは変なところで子供なんですねぇ」
「だから」
「はいはい、中学生は子供なんでしょう?」
「うん」
「…………」
 不思議だった。彼の顔が傍にあって、抱き締められているというだけで。
 ただ、暖かくテニスのことさえなんとかなるような、安心感があって。
「…永四郎」
「はい?」
「お前、テニスやっていいんだぞ」
 言われて、驚いた。
 すぐ迷うように、心が揺れる。
「監督は辞める気ないし、廃部にする気も全然ない」
「…そんなこと、」
「本人が言ったんだから」
「…え、でも」
「あれは、永四郎にテニスを一年休ませるための嘘だ」
 知念が自分の腕がこれ以上負担を続けると故障することを教えてくれる。
 早乙女の言い分は休ませるための嘘で、一年休めばなんの問題もないと。
「………本当に?」
「本当。これだけお前を大事にしてる俺が、嘘吐くと思うか?」
「…………なんだ」
 吐息が零れる。
 ただ、本当に安心した。部の心配もいらないし、テニスだってまたみんなで全国を目指せると知った。本当に安心したのに、今はただ抱き締める腕の方が、なにより暖かい。
 だから、不思議と涙は出なかった。
「だから、もう辛く思わなくていいし。一年だけでも辛いなら、遠慮なく俺に甘えればいいし泣いたっていい」
「……大丈夫です」
「永四郎?」
 その胸に顔を寄せる。
「キミがいるなら、俺は大丈夫です…」

「絶対離さないで、いてくれるんでしょう?」

「……」
 一瞬言葉を失った知念は、すぐ微笑むと強く抱き締めてきた。
「…当たり前だ」
「はい」
「……その、永四郎」
 抱き締める腕の力を緩めないまま、不意に知念が、どこか気まずそうに言う。
「はい?」
「…俺、訊いてない」
「…なにを?」
「…だから、その」

 永四郎の、気持ち。

 今更確認することじゃないと思ったが、確かに何度も知念は言ってくれたのに自分は一回も伝えていなかった。
「知念クン…」
 腕を伸ばして、その身体に縋り付くとすぐ抱き締めて髪を何度も撫でられる。
 その耳元に伸び上がって、囁くよう告げた。

「好き…」

 その瞬間、惚けたように瞬きをした知念の腕がすぐ骨が軋む程抱き締めてきて、苦しかったけれど、ただ幸せだった。
 昨日の大雨が、嘘のような朝だった。





「お、はよー」
 欠伸混じりの声に振り返ると、かみ殺した欠伸で歪んだ顔の甲斐がいた。
「ああ、おはようございます」
「うん。どう? もう大丈夫?」
「ええ、監督のこと訊きました。昨日すいません。ずっと探してもらって」
「いやいいよ。俺、昨日は凛ち泊まったんだけどあいつ寝相悪くって何度も蹴られてさぁ…だから眠いだけ」
 木手の所為じゃないから、と甲斐。
「平古場クンは?」
「凛は勝手に起きて勝手にとっくに学校行ったって」
「ああ…彼らしいですね」
「てゆーかあいつ一応風紀じゃん?今週当番だから早いのは仕方ないってか」
「なんでそこで一応、がつくんでしょうねぇ」
「だって凛だし。知念くんは?」
「一緒に来ましたよ? ただ、」
「ただ?」
「急に先に行ってしまって。多分そこが校門だから、平古場クンがらみじゃないかと」
 そう木手が言った矢先に平古場の怒声が向こうで響いた。
「何故蹴る…」
 知念の憮然とした声がする。覗き込むと、どうやら平古場が知念を蹴ったらしいが。
「お・ま・えあっさり永四郎に手ぇ出しやがって。むかつく。よくも永四郎を汚したな」
「…お前、俺が好きじゃなかったのか」
「永四郎の方が好きなんだよいつお前の方が好きだっつったよ」
「…言っておくと渡さないから」
「むるむかつく!」
 なにを言い合いっているのか、まだ早朝で人気がないからいいものの。
 呆れる木手を甲斐が叩いて。
「まあ、凛はあんなだから、知念くん盗られる心配いらないって。
 あいつ木手の方がずっと好きだもん」
「初めからしてません。むしろ平古場クンを知念クンに盗られるようでイヤなような…」
 いつもは一番に俺に気付いてくれたのに、と木手が零すと甲斐がお前誰が一番好きなんだよと笑いながらつっこんでくれた。
「さあ、誰でしょうねぇ」
「知念くん可哀相…」
「更に言うとキミが誰かに盗られる場合、もっとイヤです」
「…木手!」
「あ、甲斐、抱きつくな。俺のだ」
「誰がてめえのだよ」
「あれ、主将、髪また元の髪型にしたのか」
 後から来た田仁志の声に、甲斐が。
「だから慧くん、いい加減その呼び方はさあ…いやいいや」
 律儀につっこんで止めた。
 空は晴れていてまだ暑く、これから冬が訪れることが信じられない大気。

 確かにあった明日に、木手は初めて気付いたように顔を上げた。






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