CROSS LOVE

ACT:2 不二VS白石



 昼過ぎから始まった合同練習。
「白石ぃー! コシマエと打ってええー!?」とタックルと同じ勢いで飛びついてきた遠山を受け止めて、白石が「コシマエくんがええって言ったらな?」と笑う。
「コシマエー! 打とー!」
「越前だっつの…」
 そう言いつつも断る気はないのか、越前は遠山に付き合ってコートに向かう。
「金ちゃん! 周りのコートに被害出すんやないで!」
「はーい!」
「……凄い注意だな」
 白石の傍にいた乾の言葉に、「全国大会見てたらわかるやろ」と白石が返した。事実なのでそれ以上は言わない。
「でも、遠山は素直だよね」
「そぉか?」
「うーん…駄々をこねだしたら大変だってのはわかるよ。
 ただ、普段はすごい素直だよね。あと、可愛い」
「あ、それはわかる。素直なええ子やで。可愛いしな」
「うちの越前もあれくらい笑ってもいいのにね。と思うよ。
 手塚も思わない?」
 先ほどまで白石と話していた手塚に振ると、「ああ」と素っ気なく同意してきた。
「…嫌味か乾?」
「え? なんで?」
「俺も一年の時、笑わなかったからな」
「…今も笑わないじゃない。それに俺が言える話じゃないよ。俺もそんなに笑う方じゃないしね」
 軽く口の端をあげただけで言った乾に、手塚も頷く。
「不二くんはよう笑っとるやん?」
「不二はね。でも、一学年に二人もにこにこしてるやつがいれば他はいいと思うよ実際。
 全員にこやかなのもどうかと思うしね。あ、六角に対する嫌味じゃないよ。あそこはうちも気に入ってる」
「わかっとるて。
 もう一人は、菊丸くん?」
「そう。あと、タカさんもかな。大石も笑うけど、ムードメーカーとは違うな」
 白石がうちは謙也や、と微笑んだ。向こうでその謙也のくしゃみが響く。
「あとは、金ちゃんかなぁ。小春とユウジもそうやけど…、ユウジは…」
「うん。…金色以外への態度、大分違うよね」
 そういう乾は先ほど、小春に構われた海堂が一氏に怒鳴られていたのを見ている。
「千歳は?」
「あれは笑っとるっちゅーよりは長閑なだけや」
「ああ…」
「せやけど、乾くん、割とカッコエエよな? 学校でそこそこモテるやろ」
「いきなりだね。まあ、否定しないよ。一番は不二と手塚だけど」
「いや、前から美形やとは思っとったんよ。てか、美形多いやん青学」
「一番多いのは氷帝じゃないかな…」
 つい突っ込んで、から乾は散っている自分のところのメンバーを見渡す。
「まあ、越前とかも整ってるしね。顔。桃城も試合の時はカッコイイかな」
「ひどい言い方やな…」
「…。」
「手塚くん?」
 無言のまま、ひたり、と白石を見た手塚に不思議顔で白石が訊く。
 その、疑問を表している、常なら間抜けにさえなる顔ですら、整っているとしか言いようがない。
「…白石は、綺麗だな」
「……。…あ、ああ…? おおきに?」
 いきなり直球で賛辞を寄越され、白石も戸惑いながらそう答えた。
「俺は白石みたいな顔がカッコイイというものだと思うが。俺は普通だ」
「…なに言ってん? そんだけの男前が」
「てか、なにをいきなり主張しだしたんだ? 手塚?」
 突っ込んだ乾に、手塚は真顔でなお、「白石はカッコイイ」と繰り返す。
「喋っても崩れない男前が、本当の男前だと俺は思う」
「…手塚も崩れないよ? だって、手塚は黙ってても喋っても大差ないからね」
 間接的に「手塚は喋っても一言で終わるから」と言った乾に、白石が吹き出す。
 そういう顔も整って見えるから、カッコイイんだ、と手塚が言い張った。
「本当の『カッコイイ』は白石たちだと思う」
「だからなにが言いたいんだ手塚」
「常日頃、俺をカッコイイと群がる女子が不思議だったんだ乾。
 俺には跡部や白石のような花はないと思う」
「…うーん、つまり、年中女子に追いかけられるのがご不満で、どうにか誰かに転嫁したいのか?」
 無難な想像をしてみる乾に、手塚は微かにショックを受けたように言った。
「………俺が他人を褒めるのは、おかしいのか?」
 手塚としては真っ当に跡部や幸村、白石がそう見えるので褒めてみただけらしい。
 発端はなんだ、と大石に聴いたら「なんか口べたって言えば済むと思ってんじゃねーぞって跡部に言われたらしいよ」だそうだ。






 がんっ、という大きな音に試合を中断してもらった越前が辺りを見渡して、ベンチに腰掛ける先輩に気付いた。不二。
「…不二先輩? どうしたんすか?」
「……越前、」
「はい?」
「ボクって、カッコよくない?」
「………………………」
 すごく困った越前は、胸中で「カッコイイかって言われたら、違うって答えるけど」と思った。しかし、そんなことを素直に言ったら殺されそうだ。
「確かに白石はカッコイイよ。美形だし、綺麗だよね。男前だしさ」
 続けられた言葉に、後から来た乾がさっきのが聞こえてたのか、と軽い口調で言う。すぐ睨まれた。
「うーん…でも、総合的には不二が勝ってると思うよ? 俺は」
「嘘つかないで。どう見たって白石の方がカッコイイし綺麗だよ」
 確かに、自分自身、綺麗というか、顔が整っている自信はあったが。白石のような美形と比べられて勝っているとも思えない。
「それはまあ、『かっこよさ』と『綺麗』なら白石が勝つよね」
「…なにが言いたいの乾」
「でも、『可愛さ』と『愛らしさ』なら不二が圧倒的に勝つだろ?」
「ああ、確かに。白石さんはどう見たって男前だし男にしか見えないしカッコイイし、身長高いし。
 不二先輩の方が好みっすよ部長は。だって、手塚部長、不二先輩の『女顔』が一番好みなんですから、白石さんみたいなタイプは眼中にない――――――――――――」
 というところで、越前の言葉は途切れた。脳天に見舞われたカカト落としに、言葉もなく呻く後輩を見遣って、乾は既に歩き出している不二を視線で追う。
「どうせボクは女顔だよ! 白石みたいに『男』って顔じゃないよ! フォローにならないならしないでよね」
「………フォローだったのか、今の越前は…」
 俺には止めに聞こえたんだが、と乾。

 不二が不機嫌だ。
 とは思っていた。
 理由を乾に聞いて、菊丸はなるほどと思う。
 手塚が他人を褒めたのが、恋人としては気に入らない、というところだ。
 あと、白石には負けているから、それもプラスかな?
 ひょいひょいひょい、とボレーボレーの練習を終えた千歳に近づくと、すぐ気付いたのか「なんね?」と笑われた。
「ねえねえ千歳。不二ってどう思う?」
「…? 不二? なんねいきなり」
 千歳の反応は当然だ。確かにいきなりだ、と遠くの乾。
「いや、だから、…不二ってさ、綺麗だよね?」
「……? まあ、ちっちゃいけん、可愛いとは思っとうよ?」
「それ、『ちっちゃいから可愛い』って意味だよね?
 顔は? 顔」
「……整っとうとはわかっとうよ?」
(なにか、ズレてるというか、理解されてない?)
 めげずに訊くと、千歳は首を傾げて。
「まあ、綺麗かどうかって訊かれたら綺麗かね?
 ばってん」
「…なに?」
 若干期待して見上げた菊丸に視線を合わせて、千歳はきっぱり言った。

あれは思いっきり、俺のタイプじゃなかばい

「…………そう」
「やけん、テニス以外では興味なかね」
 そう言い残していなくなった千歳に、菊丸は友人を助けるどころか火に油では、と汗が背中に滲むのを感じた。
「…正確には、手塚部長が言わなさすぎで、千歳さんがはっきりし過ぎなだけなんじゃないんスか?」
「あ、越前」
「俺、あの人…どうも、正直過ぎる印象があるんスよ。
 退部届けあそこで出しちゃうとことか。なんでも考えずに言っちゃうだけじゃないっスか? 正直に。俺、千歳さんは褒め言葉も多いけど余計な発言も多くて、白石さんとかいろんな人の地雷踏み抜くタイプって思ってますよ」
「……そうかもしんないね」
 越前の割りにそれっぽいこと言ってるな、と褒める意味合いで頭を撫でたらうざったがられた。後輩の可愛さとしては、やはり遠山の方がいいな、とちょっとだけ思った。









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