CROSS LOVE

ACT:3 恋人自慢?@



 夕食は当番で、四天宝寺の非レギュラーが担当する。
 だがそこで野菜を主将その人が切っていたので、不二が行った道を戻って覗き込んだ。
「白石? どうしたの?」
「ああ不二くん」
 当番が指切った、と白石。「代わりが来るまでの間、放置ってわけにいかんやろ」と。
「……部長としては、若干違うかな」
「なにがや?」
「いや、手塚は…やることはやるし、でも後輩のフォローしてるかなぁっていうとしてないなって」
 昼間のことは千歳の意見を聞いてどうでもよくなった不二だ。普通に傍に立っていうと、白石は不思議顔。
「手塚くん、面倒見ようないん?」
「いや、普通じゃない? ただね、うちは副部長の大石がよすぎるんだ。青学の母って呼ばれてるしね。
 だから、手塚がなにかする前に大石が手を出しちゃうから…結果、今では手塚は『大石に任せれば大丈夫』っていう亭主関白気分?」
「あははっ…母なん? 大石くん」
 切る手を止めて爆笑した白石に、背後から二年部員が、
「大丈夫です白石部長!」
「は…ぇ? なにが?」
「白石部長の方がずっと
おかんですよ!」
「……う…ん、ありがと?」
 その場にいる下級生全員に「うんうん」と力説されて、元から自負していたとはいえ白石は若干気圧される。
「…おかんなんだ、キミ」
 まあ、確かに顔に似合わず世話焼きだけど。
「キミ、黙ってれば跡部系列なのにね」
「跡部系列?」
「まあ、『黙って俺についてきな!』的な…俺様? …実際、アットホーム型かなキミは」
「…中学生の称号かそれは…」
 厨房を覗き込んだ小石川が「そんな可愛いもんか」と突っ込んだ。
「違うの?」
「やってこいつ、人ん家来て最初になにする思う?」
「………、……挨拶?」
「の後、人の家の洗濯。頼んでない」
「…なんで?」
「いや、やりたならん?」
 苦笑する白石に、ならないと首を振る不二。二年部員はやっぱり「ほら、おかんです!」と力説。
「…あ、そか。小石川…が、副部長なんだよね?」
「あ、一応な」
「じゃあ、下級生の世話は…小石川が?」
「…しとるにはしとるけど…」
「歯切れ悪いね」
「大抵全部白石がやってまうしな。俺はそれのフォローっちゅーか。
 俺が注意したり声かける前に白石がしとるし。おかげでうちの部員、全員部長離れ出来るか心配や」
「……跡部も大分手塚と違うなって思ってたけど…こっちも大分違うね」
 それでも小石川に腐った様子がないのは、それを信頼しているからか。大石も手塚もそういうところがある。あの二人はむしろ親友だし。
「あ、ねえ小石川」
「ん?」
「あのさ」
 千歳ってキミに妬くことある―――――――――――――?と訊こうとしたがその前にいつの間にかそこにいた巨躯が包丁を持ったままの白石に抱きついた。背後から。
「うおっ……千歳。お前、危ないやろ…」
「よかね…白石の料理姿」
「…そうか? てか離れえ」
「うん。…愛妻ばい」
「…お前、一回死ね」
 腕を振りほどいて包丁を突きつける白石にも、千歳はへらへら笑っている。
「……なんでもない」
 それを見て不二はそう言い直す。こんなマイペースが、気にするわけないか、と思った。





(ボクはたまに大石に妬くからなぁ…)
 大石は敏腕だし、親友だし、仕方ないんだけど。と思いながら廊下を歩く。
 途中、反対に向かう年下の相手部員に出くわした。
「財前。こんばんは」
「ども」
 愛想ないけど、越前と同じくらいかな?と思う。あの後輩も同じくらい笑わない。
「…あのさ」
「はい?」
 訊くのはやめたが、矢張り気になる。それにあの千歳だ。独占欲が並はずれてるのは不二にもわかる。
「小石川いるじゃない」
「はい。副部長」
「千歳ってさ、彼に妬く?」
「…嫉妬するかどうかってことすか?」
「うん」
 財前はなんでそんなこと不二さんが訊くのかわからないという顔はしたが、考えた後答えてくれた。
 多分、千歳がこの数日の間に独占欲で迷惑をかける相手には言った方がいいと判断したのだろう。
「しますよ。ものっそう」
「そんなに?」
「しますね。特に、部長は小石川先輩を信頼してはりますし。
 それに、千歳さんはうちに今年から来たんです。去年のこととか話題に出るとあの人わからないし話入れないし。やから、特に部長の傍におった小石川先輩は要注意らしっすわ」
「…そうなんだ。まあ、そうだよね」
 自分も、去年の手塚を知らなかったら、余計大石に妬くかも、と同意すると財前に舌打ちされた。
「え?」
「あんたの嫉妬レベルな可愛いもんじゃないっすわ」
「……そう、なの?」
「ええ。ま、言うと
R18指定のセクハラになるんで言いませんけど」

 
それってどんな…!?

 という不二の背後のモノローグが見えたのか、財前は小さく笑うと本人に訊いたらどうです?と言った。




「不二くーん」
 夜、寝所になる部屋には布団が所狭しと引かれている。その廊下に面した縁側に出ていると、白石が背後から来た。
「ん? なに?」
「なに…て、不二くんが用あったんやない?」
「え?」
「財前が不二くんが呼んどるて」
 言いながら隣に腰掛けた白石に、不二は手を回されたのか、気を訊かされたのかどっちだろうと考えた。
「あ、うん。…あのさ」
「ん?」
「……」
 あれから、ちょっと不二なりにいろいろ考えた。
 手塚も嫉妬すると、それは強引なこともするし。
 でも、白石はこの体格だ。いくら千歳の方が遥かに体格がよくとも、白石が見た目の腕の細さ以上の力があるのは戦ってわかった。
「…千歳が嫉妬してキミにしたらしいR18なことってなに?」
 直球に訊いたら気管になにか入ったのか、白石が派手にせき込んだ。
「あ、ごめん」
「…いや……財前か」
「うん」
「………あー……」
 白石も歯切れ悪く視線を泳がせる。
 答えたくないような、ことか。そこまでわかればもういいか、という気になってくる。
 人のカップル間に首を突っ込むのも趣味ではないし。
 不二がやっぱりいい、と言って立ち上がろうとした時、背後から、
「ああ、クスリとか鎖とか?」
 という暢気な声と裏腹の内容の言葉が聞こえて、びっくりした不二が振り返ると、千歳がいた。
「…お前、ちょっと面貸せ」
 即立ち上がって千歳の胸ぐらをひっつかんで部屋を横断していく白石を見送って、不二は内容を反芻する。
「……………」
 鎖、と、クスリ?
 …大体、なんのクスリかわかるけど。
「不二?」
「……手塚はしないからなー…そもそも入手経路がないよ、手塚は」
「…なんの話だ」
 自分の顔を見ながらそう言った不二に、手塚は説明しろ、という視線を向けた。







⇔NEXT