雷が鳴る。雷鳴が、鳴いた。
「…サンダーウィッチ?」
家人の呼び声に、雷の魔女は振り返らず呟いた。
「……来る」
閃光。雷鳴に似たそれが、その世界を一筋走った。
―――――――――――異世界、ドライラの南方国家の街、アシュリーシャ。
がらがらと崩れた瓦礫は、元は家だったものだ。
アシュリーシャの街の人々が顔を覗かせ、集まってくる。
「…なんだ?」
「サンダーウイッチ様じゃないかねえ…? このあたりにサンダーウイッチ様の御館があるし…」
「五大魔女は民に干渉しない掟だろ? サンダーウイッチ様が家の一個壊してなんの得がある」
「そうだけど…あんな雷起こせるのなんか」
街人の声を遮ったのは、瓦礫の中で動いた人影だった。
「……ってて……。転んだのかな俺…。だったらすげえな…センパイ巻き込んで階段落下?」
アシュリーシャの珍客は、幾筋も波打った黒い髪。黒い目をしていて、年の頃14歳かという少年だった。
足下に、アシュリーシャの人々には見慣れぬ、少年には見慣れた乗り物。
「あでっ!」
「貴様赤也…。あれほど前方の注意を怠るなと言っておろう!」
「すんません副部長っ!」
「そもそもお前が二人乗りなどしておるから…」
「まあ、弦一郎。文句はその辺にしておけ」
少年を殴った、些か年が上に見える精悍な黒髪の青年の傍には、瞳を伏せた艶やかな黒髪の青年が、同じ服で冷静な言葉を発している。
「何故だ蓮二」
「その二人乗りのもう一人がいない」
「……? ………ぬあ?」
精悍な青年の方が、ようやく周囲に気付いて若干間抜けな声をあげた。
傍にある自転車という乗り物。鞄。いつも通りの学校のジャージ。
いつも通りの後輩に、親友に。
二人乗りを強行した、赤髪の同級生がいない上に、此処はどう見てもヨーロッパの街に酷似した見知らぬ街中。
自分たちはさっきまでごく普通の、神奈川のあの町並みの中を家に向かって帰って居るところだったはずだ。
それがどうしてこんな場所に。
「まあ、…とりあえず、事情を聞くのが一番だが、問題は言葉が通じるかだな…」
何処までも冷静な青年の言葉が、なんだか今はうらめしかった。
歪ん だ 北 極 星 −デビル・ポーラスター
第一章−【歪輝貝−サンダーウイッチの章−】
「…ああ、じゃああんたたちもデビル・ポーラスターに連れて来られたクチだね」
冷静な青年の方―――――柳蓮二が危惧した言葉はあっさりと通じて、驚く程冷静に話を聞いてくれた街人は、一通り聞き終わるとそう言った。
「…で、でびる…ポーラスタ…?」
「直訳で悪魔の北極星だな」
「最近この世界〈ドライラ〉でよく降る歪んだ恒星のことをそう呼ぶんだよ。
その恒星は、さっきみたいにあんたたちのような異世の客人を連れてきちまうんだ」
「…召還術」
ぽつり、とゲームに詳しい一番幼い少年―――――切原赤也が呟くと、柳がそれを否定した。
「いや、召還者がいるなら召還術となるのだろうが、召還者がいない」
「あんたは賢いね」
「有り難う御座います」
「つまり…どうゆうことっすか?」
「つまりだな、この街の方がおっしゃるに、この現象は多発しているからだ。
普通、漫画で見る召還術というのは、何らかの用途、意図を持って公使される。
意図があるなら、手当たり次第、魔力と大抵の漫画で呼ばれるものを消費してまで召還し続ける馬鹿がいるか?」
「あー…」
「そうなんだよ。この世界にも召還術はあるけどね。呼べて精々、上位のウィザード様が一人呼べるくらいさ。こんなに沢山呼べるウィザード様がいるなら、そんなことに命を削らずおひとりでそのお力でなんらかの問題をなんとかなされた方がどれだけ効率がいいかってのはあたしたち庶民でもわかるからね。まして魔術を極めたウィザード様やウィッチ様が気付かない筈ないし。国のお抱えなら、もっと」
言いかけて、柳達を泊めることにしてくれたアシュリーシャの街の宿の女将は、からかうように三人を見て笑う。
「…なにか?」
「いや、失礼だけど、あんたたちはいかにも戦いごとを知らない風にしか見えないからね。
つまり、国のお抱え魔術師様がもし国王陛下のご命令で国の兵士として誰かを呼ぶのなら、もっと戦いの多い世界の人を呼ぶはずだからね」
「…まあ、確かに」
「地球って、戦争今でもあるっすよ…」
「だが、魔法や剣に頼った戦いなどもうどこにもないだろう?」
「…そうっすけど」
「つまり、世界を覗ける力があるなら、重火器や戦闘機、核兵器に頼らなければ戦えない我々の世界の兵士を呼ぶのは、この世界で戦わせるにはあまりに効率が悪いという話だ」
「まあ、筋が通ってはいる…が」
「…なんだ弦一郎」
「蓮二、お前何故そこまでこの世界に詳しい?」
「いやな、先程お前達が食にいそしんでいる間にこの世界の書物を読ませて頂いたんだ。
読む限り、この世界に地球のような武器は存在しない」
「…成る程。…というか読めたのか?」
「何故か読めた」
多分赤也でも読めるぞ。
「えーでも難しいんならパスー…。てか、じゃあ基準はないんすか?
一緒にいた丸井センパイなんか多分あっちの世界っすよ?」
「基準はわからない。だから、」
「過ちの恒星、って呼んでるんだよ」
女将が柳の言葉を引き継いだ。
「とりあえず、今日はもう遅い。上で休みな。一文無しから金取る程困ってないからね」
「重ね重ね有り難う御座います」
「…本当に冷静だな…蓮二」
「そうでもない」
時計の音が、それしか聞こえない。
寝台の上。横になった天井はランプの灯りだけの暗闇。
「…起きているか、蓮二」
「…ああ。眠れないのか?」
「まあな」
赤也はもうすっかり夢の中だというのに。
「…これからどうしたものだろうな。大会は、一応終わってはいたが」
「…まあ、闇雲に、元の世界に戻れるわけではないが…手がない、とも言えないな」
「あるのか?」
「この世界には、ウィッチという魔女がいる」
「ああ…話していたな」
「この近所に、サンダーウイッチと呼ばれる五大魔女の一人の御館があるらしい」
「サンダーウイッチ?」
「五大魔女とは、世界から資質を持ったモノの中から選ばれる最強の魔女の称号だ。
それぞれ、風霊のサンダーウイッチ。火霊のフレイムウィッチ。地霊のノームウィッチ。
水霊のフリーズウィッチ。光と闇のウィルウィッチ。
それぞれ、魔女の中からその属性を最強レベルまで極めたものが、世襲制とは関係なく選ばれ、名を継ぐそうだ」
「…その魔女に会いに行く…?」
「ああ。会わないよりは可能性があるはずだ」
「…そうか。なら、そうしよう」
「…弦一郎」
「…?」
「精市も、丸井ももしかしたらこの世界にいるかもしれない」
「……」
「探そう。ウィッチの力を借りて。…絶対に」
「…ああ」
瞳を閉じる。帰ろう。全てが始まった場所へ。
目覚めると、いい匂いが鼻をくすぐった。
焼きたてのパンとシチューの匂いだ。
「柳センパイ! 真田副部長! 早く下行きましょ!」
「……おはよう赤也。珍しいな、お前が俺達より早く起きるとは」
「あ、ひどい」
「構うな蓮二。どうせ食い物の匂いで起きただけだ」
「…更にひどい」
「しかし事実だろう赤也?」
「…そうっす」
だって俺夜はご飯のヒトなんすよご飯食べて寝ないとお腹空いちゃうんすよなどと言っている赤也を余所に、貸してくれた寝間着から制服に二人は着替える。
「そう語るな。それではまるでどこぞの食欲魔人みたいだぞ赤也」
「…うわ。ちょっと丸井センパイと一緒にされんのは勘弁」
丸井の立海内での呼称を出されて、切原はぴたりと語るのを止めた。
どうやら切原は格別仁王と丸井が苦手らしいのだ。懐いてはいるのだが、仁王はよく後輩と言わず同輩までも騙すし、丸井はすぐ手が出る。どっちも、あまりいい先輩ではないのが事実だ。
逆に優しく頭のいい柳生はいい仁王のストッパーだ(しかし柳生もよく仁王に騙されているが)。一匹狼的な仁王を懐柔出来、かつダブルスを組めるのは柳生か、猛獣使いの気のある柳くらい。ジャッカルはヒトが良すぎるためよくパシリにされるも、なんだかんだで頼られ好かれている。柳は立海になくてはならぬ参謀だし、真田は厳しいがやはり必要不可欠。幸村は一番恐ろしいと言われるが、彼が欠けた時は誰もが身を案じ、一刻も早い回復を願った程必要とされている立海の長だ。
それらの個性強い先輩に囲まれて、あれだけ生意気でいられる切原も、将来そんな先輩になるのだろうことが簡単に予想できた。
階下に降りると宿の主人が、パンとシチューの皿を三人の前に置いた。
「はいよ」
「ありがとうございます」
「お心遣い痛み入ります」
「いただきまーす!」
言うなり食べ始めた切原を余所に、柳は着替え中に気付いたことを問うてみた。
「あの、先程二階にいた時、人がこの宿から出ていくのが見えましたが」
宿はこんなに早く開けるのですか?
「いや、今のは宿の主人仲間さ」
「ああ、経営のことでなにか?」
「いやね……そうだね。どこから話そうか」
「…?」
「ポーラスターに連れて来られた客人には全員に話していることだからね…。
この世界に魔法があるのは知ってるね?」
「はい」
「それを極めた…」
「五大魔女のことですか?」
「ああ、知ってたのか。なら早い。そのお一人、サンダーウィッチ様がこの近くに館を構えていらっしゃるんだけどね。
ここ数年、ウィッチ様が代替わりなさってからというもの、北方国家〈ジール〉の国王陛下が何度もこの国に来るんだ」
「…ジール?」
「北にある国のことさ。ちなみにこの国は南方国家〈パール〉。南にある国だよ」
「…異国の国王が? 何故」
「それがねえ…北方国家〈ジール〉の陛下は、何年か前に御位につかれたお若い陛下なんだが、大層知略に長けた方でね。名君の呼び声が高いんだ。
その陛下が、毎回供も連れずにいらっしゃるんだよ。いや、近くまでは供もいるらしいんだが」
「……サンダーウィッチの名が先に出たということは、その国王はサンダーウィッチに会いに来ていると?」
「そうなんだ」
「て、ことはなにすか? 戦争でも始めるんすか?」
最高峰の魔女に会いに来る理由など、他に浮かばない。
「…だったら話が早くていいんだ」
「……?」
主人は、ため息を零す。
「そもそも、五大魔女様は国ごとに関わっちゃいけない掟があるんだよ。
五大魔女様はそれは素晴らしいお力をお持ちでね、この世界の水害も、竜巻も、干ばつも全てそのお力で防いで、民が苦しむのを助けてくださる。
五大魔女様は世界を守る使いであって、国の戦力じゃない。
だから、国に仕えることを選んでしまった魔女様は、五大魔女の称号を剥奪されてしまうんだ」
「……じゃ、ダメじゃないっすか」
「称号だけなら、力狙いとも考えられるのでは?」
「いや、五大魔女様のお力はこの世界の精霊たちに遣わされたものだ。
世界の理を乱すこと…つまり戦争を起こすようなことに荷担すれば、力さえなくしてしまう。そんなことをあの賢い陛下が知らない筈がない」
「……じゃあ、一体」
「みんなそう思ってね、西の国の陛下がある日、北方国家〈ジール〉の陛下に聞いてみたんだ。“何故そこまでサンダーウィッチに執着する?”って」
「……答えは?」
「……陛下は、こう言ったそうだ。
“あれは希に美しい。私はあれが欲しいだけ”……」
「………ええと、つまり」
切原が言葉に詰まる。なんとなくわかった。わかったが。
「……そう、北方国家〈ジール〉の陛下はどうやら、魔女としてのサンダーウィッチ様ではなく、人としてのサンダーウィッチ様を欲している…。つまり、サンダーウィッチ様に恋心…いやあれはもう愛情だね…。とにかく、懸想なさってるともう四大国家で評判さ」
「……で、そのサンダーウィッチは?」
「“何度も”って時点でわかるだろ? サンダーウィッチ様は全部ばっさりお断りなされているんだ。それでも諦められない程想いが深いんだろうねえ…。
そこまでサンダーウィッチ様に惚れ込んじまったのか…今朝早くに、その陛下がまたこの国にいらしたと、さっき隣の宿の主人から聞いたのさ」
「…ああ」
「…案じていらっしゃるのですか?」
「そうさね。次代のサンダーウィッチ様なんかすぐに見つかりっこない。
五大魔女の中でもサンダーウィッチ様は水と風を操り、干ばつや竜巻を沈めてくださる要。この国から去られて、北方国家〈ジール〉にいっちまったら、この国はどうなるのか。いやこの世界自体、まずいだろうさ。だから他の三国の陛下が国境会議の度に北方国家〈ジール〉の陛下を説得してるらしいんだが…」
「……それでも、と」
「そうなんだ。あんたたち、サンダーウィッチ様に会いに行かれるんだろう?」
「…わかりますか」
「この国に落ちた客人はみな真っ先にサンダーウィッチ様に会いに行ったからね。
この国に五大魔女はサンダーウィッチ様しかいない。すぐわかるよ。
北方国家〈ジール〉の陛下に会わないよう気をつけな。あれほど惚れ込んでるサンダーウィッチ様に男が近寄ったと見たら、ただじゃ済まないよ」
三人は無言で顔を見合わせた。
街を出るのに、宿の主人がコートと安いがしっかりした剣を三人にくれた。
剣もなく旅をするのは危ないということだ。
振れるかは別として(真田は別として)、いただくことにした三人は、宿の主人の計らいで、サンダーウィッチの館の近くまで行くという行商人の馬車に三人を乗せてくれるよう頼んでくれた。
「ここまでしていただくとは、有り難いとしか言えないな」
「…帰る前に、礼が出来るといいが」
そこで馬車が止まる。
ふと見上げると、切り立った崖の上に、一軒の洋館がぽつんと見えた。
「俺らが連れて来れるのはここまでだ」
「有り難う御座います」
「いやついでだからいい。サンダーウィッチ様はお側に何人ものウィッチを置いているそうだが、むやみな殺生はなさらぬ方だ。安心して事情を話せばいいさ」
「はい。道中、お気をつけて」
ああ、と手を振ると、行商人のリーダーの男は馬車に戻る。やがて馬車は列になってまた走り出した。
それを見送ってから、三人は上れそうな道を探して、館を目指した。
「…ふー。…合宿に比べたら、楽なもんでしたね。登るの」
「だな。まあ、余分に体力を使わず済んで助かった」
真田が館の扉をノックする。
「すまない。異界から来たものだが、サンダーウィッチにお目通り願いたい」
しんと、する扉。
「もう一度言うか?」
柳がそう言った時だ。
内側から扉が開いた。
「異界の客人か。最近も似たのが来たな」
「俺達は別口だ。サンダーウィッチ……殿はいるか?」
「いるけど、会ってどうする」
「…それは」
「意地悪するな。通してやれば?」
別の声がそう言った。
「そうだな」
悪い、と付け足した最初の男が扉を大きく開くと、その男の姿が見えて、切原が首を傾げた。
「どっかで…会ったことないすか?」
「は? なんだそりゃ」
独特のイントネーションに、明るい髪の色。
「……比嘉中の、甲斐…裕次郎……?」
「あい? なんでお前、俺の名前知ってんの?」
そこにいたのは、紛れもなくあの沖縄の左手のプレイヤー甲斐裕次郎だ。
柳が言うのだ。間違いない。
「…あ、甲斐…さん? も、この世界に来ちゃったんすか?」
「はあ? なんだそれ。馬鹿言ってるなら閉めるぞ」
「あ、ちょっと待ってくださいよ!」
「……」
若干むすっとした風に、甲斐は次の言葉を待つ。
その瞬間。
「ふらぁ!」
「うお!」
声と共に甲斐の後ろにいた男が甲斐の背中を思い切り蹴り飛ばした。
勢いで甲斐は地面にぶっ倒れる。
「裕次郎! 北風が入ってくるだろ! 早く閉めろ!」
「い……っ! 凛! なにすんだお前!」
「うっさい! 早く閉めろ! 寒い!」
「……平古場凛まで」
「……? なんで俺の名前。…裕次郎教えた?」
「まず俺を起こせ…」
「……ああ、悪い。まあ、入れ。寒いから」
平古場の言葉に、納得出来ないのは三人だけではなく蹴られた甲斐もだったが、とにかく扉は閉められ、三人は館の中に招かれた。
「…もしかして、ここには知念寛に田仁志慧に、木手永四郎というヤツがいないか?」
柳の言葉に、甲斐は振り返りながら“よく知ってんな。誰かに聞いた?”。
どうやら知らないフリをしているわけでもないらしい。
意味が分からない。
「自己紹介しとくか。俺は甲斐裕次郎。五大魔女に比べりゃ弱いが、ウィッチの一人。
得手は」
と、その瞬間、ひゅっと三人の前に透明なグラスが飛んできた。
「いっ!?」
グラスは上を向いた姿勢で、前でぴたりと止まる。浮かんだまま。
そこになにもない上から水が注がれた。
「この通り、水だ。水のウィッチ。…グラスうかせてんのは、平古場凛。風のウィッチ」
「…ああ。飲んでいいのか?」
「じゃなきゃ出さない。安心しろ、毒なんかない。お前ら殺してメリットなんかないからな」
言われて、受け取るとグラスはあっさり手の中におさまる。
飲んでみて。
「うまい! 普通の水道水や下手な名産の水よかうまい!」
言ったのは切原だ。そのまま一気に飲み干してしまう。
「…すいどーすい? めいさん…? なにそれ」
甲斐の質問も、切原は聞いていない。
「ああ。俺達の世界の、水の呼称と思ってくれ」
「…世界。ああ、そっか。お前達、違う世界の客人って言ったっけ。
なら納得」
「なにがだ?」
広間に着いたところで、甲斐は足を止める。
平古場は空いているテーブルの椅子の一つにどかりと座ってしまった。
「平行世界って知ってるか? こっちの世界じゃ有名」
「……へーこー?」
「ああ、パラレルワールドのことだ。自分と全く同じ名前、同じ姿形の人間がいる違う世界のことを指す」
「…そういうこと。多分、お前たちの世界にも俺と同じ名前、姿形の人間がいる。
で、お前達はお前達の世界の“甲斐裕次郎”と“平古場凛”を知ってる。
…ってことじゃないか?」
「…えっと?」
「視線で訴えなくとも説明するから赤也…。
つまり、違う世界に生まれ育った、姿が同じだけの全くの別人だ、ということだ」
「…ああ」
「…な、なんとなく」
「…なんとなくでいいよ。詳しい仕組みなんか俺達だって知らない。
で、来た理由は帰る方法か? 耳たこだ。最近ひっきりなしに来るからな」
「……まあな」
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