歪ん だ 北 極 星 −デビル・ポーラスター
第二章−【昏迷路−フレイムウィッチの章−】
「木手。木手」 起きてくれ、と促す声にするりと引かれるように目が覚めた。 「………手塚?」 まだ、朝が早いことが窓の外の冷えた空気でわかる。 隣のベッドの甲斐はまだ寝ている。 「…少し、いいか?」 「……………?」 宿の外の森は静かで、人気のない色は純粋な碧。 連れ出して、しかし彼は言葉を惜しむように木手の腕を掴んだ。 「……どう、したんですか」 「……少し、動かないでいてくれないか」 「…ぇ………」 そう言われても、接近して傾いた顔に、思わず身を引いてしまう。 「頼む。逃げないで…くれ」 その声があまりに必死で、見つめる瞳が、限りなく真摯で。 木手はぎゅっと瞳を閉じて逃げようとした足を地面にとどめる。 安堵の呼吸が響いて、そっと唇が重なった。 強ばった身体が抱き締められて、何度も口づけを落とされるたび、徐々に身体は弛緩した。 キスされたことはあった。何度も。会いに来られるたび。 それでも、こんな風に、優しくされたことは、なかった。 「好きだ。…だから」 手塚はその続きを言わず、もう一度抱き締める。 (好きだ。だから守るよ。………キミと遠く、離れてしまっても) そして彼は宿に帰ると言った足でいなくなった。 北方国家〈ジール〉に帰ったんだ、と知念が言った。 赤也はふうんと気のない返事をして、あ、テニスの相手してもらえばよかったとぼやいて。 木手はやっと意味が分かったように遠くを見つめた。 (抱き締めて甘えて…それならそのまま抱いて欲しかった。好きだというなら) 理由がわからないほど愚かではなかった。 思い出す。 記憶のキミは、いつだって桜の下で笑っていた。 「こら、謙也。あなたは今日、心労でふせっていらっしゃる王の代わりに来たのですよ」 「やって母上。つまらんし」 「…全く」 あなたが王位を継ぐことはないけれど、王族なのだからと母の咎める声。 謙也は無視をするように遠くを見て、そこにあり得ない姿を見つけた。 「父上!?」 謙也?という母のとまどいの声に構わず駆けだして、その父の姿の腕を掴んでいた。 驚いたように振り返った『父』は何故か記憶より幼く、きょとんとした顔で謙也を見た。 北方国家〈ジール〉の桜の庭の下。 「蔵ノ介、どうした?」 「あ、陛下…あの、この子は」 『父』がそう伺った先にいたのは東方国家〈ベール〉の国王だった。 「…父上? 何故東方国家〈ベール〉の陛下とおるん? 今日は来れん筈やないんか?」 「……ええと」 「ああ、キミは南方国家〈パール〉の謙也殿下か。違うんだ。 蔵ノ介。彼は南方国家〈パール〉の殿下、謙也さま。 ご挨拶なさい」 促されて、『父』はにこりと笑った。 「初めまして。この度東方国家〈ベール〉の陛下の養子として王子となりました。 白石蔵ノ介です。お見知り置きを、殿下」 「………え? 東方国家〈ベール〉の殿下? 父上やのうて?」 目を白黒させる謙也に追いついてきた母が、まあ本当にそっくりと笑った。 「謙也、その方は父君ではありませんよ。よく似ていらっしゃって…。 名も同じと訊きました」 「ええ、私も養子に迎える際、苦労いたしました。 本当、そちらの弟王によく似ていてね。蔵ノ介。 そちらの南方国家〈パール〉の王の弟である、その謙也さまの父君も『蔵ノ介』と言って、お前にとても似ているんだ。間違われたんだよ」 「…ああ」 納得しました、と父によく似た、同じ名の少年が笑う。 「ほな、友だちになったらあかん? 謙也くん」 「あ、うん!」 なんて呼んだらええかなー蔵?と伺うと、蔵ノ介は綺麗に笑って。 「それでええよ。謙也」 と言ってくれた。 大切な、大切な思い出。 その彼と同じ姿の父と、あの日傍にいた母が殺されてしまった後も、大事な親友。 会うたび、心をいやしてくれる、桜の人。 「陛下、陛下…」 呼ばれて謙也は目を覚ました。 椅子の上で眠ってしまったらしい。 「謙也陛下。北方国家〈ジール〉と東方国家〈ベール〉の陛下が、お着きです」 「ああ、すまん。わかった」 失礼します、と下がろうとした文官を咄嗟に引き留めた。 「あ、蔵…! …いや、東方国家〈ベール〉の……殿下は?」 「漆黒王弟〈ダーク・プリンス〉の君は、本日欠席と訊いています」 「…そうか」 瞳に映すだけで心癒す人。 (今日は、…会えへんのか…蔵) 復讐王―――――――――――――彼が求める人が、彼の仇の傍にいるとは、まだ知らない。 「今日、復讐王と陛下と手塚くんとの会談の日やんな」 収まると思うか?と甲斐。 「多分、無理やんな。…俺も行った方がよかったか」 すっかり体調の落ち着いた白石が言うと、それはイヤたいと千歳。 「せっかく一ヶ月ぶりに傍にいられると…」 「抱きつくな。木手くんのこと考えぇ」 「………俺は手塚ば言葉足りんと思うたい」 「それもあるんやけど…」 「聞こえてますから、あからさま過ぎます」 そこまで落ち込んでません、と木手。 宿の一室で、こんな風にゆっくりするのは久しぶりだな、と柳は思った。 多くが白石がいるおかげだったが。 「ほら、赤也、ここ間違えたぞ」 「うう…なんでジャッカル先輩いないんですかぁ……」 柳さんは説明長くて混乱するのに!と柳が暗記していた問題を出されて試験紛いのことをやらされている赤也がぼやいた。 「馬鹿を言うな赤也。ジャッカルなどこの世界にいたらあのお人好しっぷりですぐ食い物になって終わりだ」 「あ、そっか…。あれ、じゃ柳生先輩は?」 「柳生は仁王さえいれば余計な食い物にはならん。というか仁王がなんとしても止めている」 「そうですよね」 丸井先輩はそもそも他人に食い物あげないしーと言いながら赤也の手が解いた問題の間違いに、柳は溜息を吐きながら今度は直さなかった。 知念・平古場の二人は買い物でいない。 真田は外で剣の素振り。 本当に、穏やかで、だから考える。 (仁王と柳生は無事だろうか…) 今日の会議の結論如何ですぐ彼らの元に行くか否かを考えるつもりだった。 復讐王が止まるのなら、探しに行く。 止まらないなら、ここで木手らと白石・千歳とは別れる。 それは皆に言ってあった。 だから、今日が分かれ道だ。 出来れば止まって欲しい。 今はまだ、本当は彼らと別れたくない。 「…やっぱ、行った方がよかったやんなぁ」 白石がもう一度言った。 「こだわるな」 「俺、一応復讐王の即位前からの親友やねん…」 「え? そうなの?」 あれ、白石って何年前にこの世界来たんだっけ、と甲斐が数え始めた時だった。 「あ、あのそちらは…」 一方、宿の受付。 ある方向に向かった人影を受け付けにいた少女が止める。 「ああ、知ってるよ。五大魔女さまがいるんだろう」 「でしたら…」 ご遠慮くださると、と言おうとした少女を、その青年の傍にいた少年が遮った。 「いいじゃん。こちとら西方国家〈ドール〉の国王陛下だぜ?」 「え…西の…馳せ参じる戦神〈イモータル・ハーキュリー〉陛下…!?」 「そういうわけだから、会わせてもらえるかな」 突然開かれた扉に、知念と平古場かと思ったが違った。 にっこりと微笑んだ面。美人と言って問題のない美貌が赤也を見て、おや勉強中?と言った。 「せ、精市…!?」 柳が答え合わせのペンを取り落とす。それで気付いた赤也も顔を上げて、え!?と大口を開けた。 「部長!? い、いや違う世界の? どっちですか柳さん!」 「いや俺に訊かれても」 「相変わらずだな二人とも。もっと、『精市!』『蓮二!』、とかって感動の再会はないのかい?薄情だなやなぎ」 「……精市、だな。間違いなく」 「間違いなく部長ですね…」 柳と赤也がそろって呟くように確信した。その背後で、こちらの方が驚きが大きいのかもしれない白石が、茫然から立ち戻ってえ?なんでおるん?と言った。 「いや、今日くらいだからね。復讐王が止まっているのは。だから会いに来た。 本当はやなぎたちが会いに来てくれるまで待つつもりだったよ」 「そら急やなぁ…。やっぱ幸村くんもそう思うか?」 「うん。止まらないだろうね」 「やろーな」 「来てすぐ帰るって渡り鳥かよって感じだけどな」 扉の向こうから顔を出した少年が笑って、あ、赤也が勉強してると一言。 「…ま、丸井先輩」 「よう赤也。美しい先輩が会いに来てやったぞ? 感動の言葉は?」 「…アエテコウエイデス」 「なんで片言なんだよ」 馬鹿にしてる?と丸井は言ってから真顔で。 「今日中に発った方がいいぜ。ここ」 そう言った。 「……復讐王の兵士でもいるん? 包囲しとるとか」 予測済みなのか、白石がそう返すと、まあなと丸井が頷いた。 「ちょ、それまずくないっスか!?」 「やから俺がおるんや。さっきも言った通り復讐王とは友人やし。 俺が止めた上で殺そうとはせんし、俺がいる以上皆殺し命令はでけん」 「…ああ、そういうことなんですか」 「それにもう少し俺としてはここおって様子みたいしな」 白石は最後はぼそりと呟いたのでほとんどが聞こえなかったらしいが、傍にいた千歳だけは聞こえたのかどげん意味と?と白石の手元を覗き込む。 手元にあるのは地図で、なにかを書き込んであったが要領を得ない。 例えるなら、誰かの進行図だが自分たちの進行図にしては道順が違う。 「とにかく気をつけてくれ。会う前に死なれるのは困るからね。 ああ、蓮二。俺に会いに来るときはこれを謁見の書状代わりに使ってくれ。 今うちはフリーズウィッチが不在でね」 「あと、ヒロシと仁王はノームウィッチのとこいるっていうからひとまず安心だぜ。 二人の心配するよか、このまま東方国家〈ベール〉王宮行っちまいな。いいな?」 「ノームウィッチ…ってことは二人は北方国家〈ジール〉におるんか今」 「そういうこと。サンダーウィッチが眠ってた間にいろいろ変わってんだってことだ」 「じゃ、蓮二。真田によろしく」 「おい精市。その書状の代わりとはなんだ?」 「ああ、赤也。くれぐれも人のいないところで言わないように。そういうのは陰口だからな」 笑って幸村の足が赤也の腰を蹴った。赤也はよろけなかった。力が入っていなかったのだろうと、見た先で幸村と丸井の姿は二枚の紙となって床に落ちた。 「……え!? え? え?」 なんで?というリアクションを身体一杯で取る赤也の横で、柳が書状代わりとはこれか?と薄い署名のされた紙を拾い上げた。 「式紙やな」 「白石さん…式紙って………あの突然変異〈ミュータント〉の?」 「あれは単なる能力名です。普通式紙という言葉が指すのは魔力の紙を使った分身幻術のことですよ」 「……あ、ああ! 忍者が使うみたいな?」 白石ではなく木手がいれた説明に、読みかじった漫画の知識を赤也が持ち出すと、甲斐がまあ大体そう、と頷いた。 「普通に考えて堂々馳せ参じる戦神〈イモータル・ハーキュリー〉がここ来れるわけあらへんしな」 そうぼやいた白石は驚きこそあったが、最初からわかっていたようだ。 「……遅いな。」 「え?」 「平古場くんと、知念くん」 まさかな、と白石。 だがしかし彼らが自分さえ殺さなければいいと許可されていれば。自分が邪魔出来ないよう制止する術を知っていたら。 浮かんだ予想はまさかだったが、自分の知る復讐王は策略に秀でた人間ではなかった。 それでも止まらないのか。 それでも、お前は俺から千歳を奪うのか。 (そうなんか…………? “謙也”―――――――――――――……) 「てっ…! おい知念無事か!?」 飛来した空を飛ぶ鉄球を交わして、叫んだ平古場の言葉になんとかと知念の声がかえる。 空は赤く染まり、もう夜が来る。 日が沈むのが、早い。 「もうすぐ宿だそこまで行けば…」 知念の言葉を遮って降った二つの鉄球が道を塞いだ。 「げ…」 背後に佇む、二人の突然変異〈ミュータント〉。 「まずい、んかなこれ」 「まずいだろう。普通に」 冷や汗を浮かべながら知念と呟きあった平古場の耳に聞き慣れた声が聞こえた。 鉄球の向こうだ。 「えーと、来んな、って言うべきか?」 「……多分」 「おーい来んな…!」 平古場が叫びかけた瞬間、道を塞いでいた鉄球が突然消えた。 反射で背後を振り返る。こちらに向かっていた柳たちの背後で、一人気付いた白石が歩を歩く速さに落とした。 「ダウト!」 それがなにを意味をするか、その場の誰もわからなかった。 だがその場に響いた大きな声が届いた瞬間、二人の突然変異〈ミュータント〉の頭は弾け飛び、血をまき散らして絶命した。 「……え」 茫然と呟いたのは誰だったか。 その光景に、吐き気を訴えて俯いたのは赤也で、柳は咄嗟に声のした崖の上を見上げる。 「…ダウト、って…トランプゲームの」 「あれ、だよな…」 甲斐と平古場が呟いた。 崖の上に立つのは、異形の狼の顔をモチーフにしたようなかぶり物を頭にかぶった小さな人影。 「誰だ!」 「ああ、申し訳ない」 その声は高い音程で謝罪を口にすると、跳躍して甲斐たちの前に着地した。 そうしてみると、小さい。 「失礼しました。ノーコールマジック<馳せ参じる魔法>の方々。 私は」 「久しぶりやな」 異形仮面の言葉を白石が遮る。微笑んで。 「うろついて平気なん?『嘘吐き狼』くん」 「白石、知り合い…と?」 千歳の言葉に頷いて、説明してくれるやんな?と促す。 「はい、みなさまも知りたいでしょう?」 「なにを…?」 「突然変異〈ミュータント〉の、生まれ方と、力の源、そして殺し方です」 異形仮面は、そう笑った。 「そもそも、突然変異〈ミュータント〉とはなんでしょう?」 宿に案内された『嘘吐き狼』は開口一番、そう言った。 案内したのは白石で、他の面々は千歳ですら訝る疑心を隠さない。 かぶったままの、はずされない仮面がおかしいのだ。 「……ええと、不思議な力を持った…」 「不思議な力は、ウィザードやウィッチも広く言えばそうですね。 ウィッチとウィザードと、どう違うんでしょう?」 「これでは謎かけだ。『嘘吐き狼』とやら、答える気があるのか?」 柳の言葉に、『嘘吐き狼』は仮面の下で笑った。 あるから来たのですよ、と。 「ですが、意味をわからせないまま説明しては、これまた意味がないからです」 「…………ウィザードとウィッチとの違い…?」 「そんなん、ウィザードとウィッチに不的確な奴が、ってことだろ?」 「凛、じゃこの間のは?」 「…えーと」 「平古場凛さまのお言葉は間違っていませんよ。 ウィッチとウィザードに不的確なものがなる――――――――――それが真実です。 あなたがたを襲った突然変異〈ミュータント〉の魔法は、単なる信託魔法でしょう」 「あ、そうなんか…」 「ええと、じゃあ」 「では、何故不思議な力という点で、ウィザードとそう違わないのに、彼らは突然変異〈ミュータント〉と呼ばれるのでしょう?」 「……?」 「…『世界に認められた資質』やないから、やろ?」 白石が言った。 「正解です。ですが漆黒王弟〈ダーク・プリンス〉。あなたが言っては意味がない」 「すまん。けどこのまんまやといつまで経ってもわからんやろ」 「まあ、そうですね」 「白石、わかっとう?」 「うちの上層部でもその辺だけはわかってん。 もっとも、これからこの『嘘吐き狼』くんが語る真実までは多分絶対俺も国も知らんし、なしてトランプゲームの言葉で殺せたんかもさっぱりわからん」 「話を戻しましょう。 では、以上をふまえて、ウィザード・ウィッチ・突然変異〈ミュータント〉。 この中で、突然変異〈ミュータント〉はいったいなに?」 矢張りなぞなぞだ。そう思った。 だが赤也が、あ、と手を打って言った。 「突然変異〈ミュータント〉だけ、『仲間はずれ』!」 「Yes!流石、よくおわかりです」 「いや、ダウトが出てたから…」 「…赤也、どういうことだ?」 「ほら、トランプゲームのダウトって、ようは『仲間はずれ』って意味でしょ? 違う仲間はずれのカードを出したら、『ダウト』って叫ばれて、アウトになる」 「その通りです。それが突然変異〈ミュータント〉の真実なのですよ」 『嘘吐き狼』は満足げに頷いて、語りだした。 「ダウトの仲間はずれカードを知っていて出すのは、つまり『嘘』。 嘘吐きを指します。 突然変異〈ミュータント〉の力の源こそが、『嘘』なのですよ」 「…嘘?」 「その人間が、ここまで生きた時間で積み重ねた、吐いた嘘の数とでもいいましょうか。 人を陥れるような惨い嘘を吐いた記憶が、魂が突然変異〈ミュータント〉を作り、力を作る。 突然変異〈ミュータント〉にならないあなたがたは、簡単な嘘こそ吐いたことはあれど悲惨な嘘は吐いたことがない。だから、あなたがたは突然変異〈ミュータント〉にならず、ウィッチになれた。そういうことです。 突然変異〈ミュータント〉の力の具現は、いわば『嘘吐き』の瞬間。 その瞬間に、『嘘吐き』の意味を持つ『ダウト』の言葉を放つ。 それこそが突然変異〈ミュータント〉へのワンターンキル(即死魔法)なのです」 「……だいたい、理屈はわかった。だが」 「何故あなたがたの世界の『ダウト』というゲームの言葉が役立つか、ということでしょう。柳さま。 簡単です。突然変異〈ミュータント〉の発生源は北極星還りの方々の来訪時に発生した異世界の力が世界に散ったもの。事実、突然変異〈ミュータント〉は北極星が落ちるようになってから生まれました。北極星こそが突然変異〈ミュータント〉を生んだのです。 その世界の言葉が効いても不思議ではない。 そして、この言葉で突然変異〈ミュータント〉を殺せるのは、北極星還りの方々。 ―――――――――――つまり『ダウト』という言葉が、『仲間はずれ』の意味であると知る方々のみなのです」 ご理解いただけましたか?と『嘘吐き狼』。 「実際、興味深い」 「理解は、出来ましたけど」 柳・赤也が言う。 「…じゃ、俺らでもオッケー?」 「ええ。甲斐さま」 「……あの、」 「サンダーウィッチさまの疑問にもお答えしましょう。 なぜ私がそれを知り、私を漆黒王弟〈ダーク・プリンス〉が知りながら、四大国家は知らないのか」 お見通しか、と木手は怖ささえ覚えて『嘘吐き狼』を見た。 「それは、私が世界に姿をさらせぬものであるからです。 この仮面はあなたがたを不快にさせるためではなく、素顔をさらすことが今、私はどの場所でも出来ないからです。 ですから、居場所を知られるような魔法を使って知らせることもできない。 王に謁見にも行けない。…ですからこうやって、漆黒王弟〈ダーク・プリンス〉が来てくださるのを待ち、姿を見せたのです」 「………なんか、やったのか?」 「なにかをしたのはあちらの方。ですが大衆に私は悪なのです。 けれど、最後は私が勝ちます。地位を取り戻し、偽りを追い、“俺”は復讐を果たす。 ―――――――――――――そう」 『嘘吐き狼』は仮面に手をかけ、一気にそれを脱ぎ去った。 そこから露わになったのは、彼らのよく知る、幼い少年。 「南方国家〈パール〉が国王、『復讐王』こと越前リョーマの名にかけて、ね」 そこにいたのは紛れもなく、あのルーキーだった。 |