歪ん だ 北 極 星 −デビル・ポーラスター
最終章−【薔薇夜−魔王の章−】
−buria−
第四話−【もう叶うことがないのなら、僕は】
それは、あっさりと終わった。 財前の光をまとった腕は、あっけなくジャッカルの胸を貫き、切り裂いていた。 「…なんでや」 「……」 「なんで避けなかったんや!!」 「……ブン太」 聞かず、ジャッカルはふらりと歩き出す。あらぬ方向へ。 「……ノームウィッチ………?」 茫然と見送る財前の視界の向こう、ジャッカルの姿は闇に消える。 今の瞬間に、感じた命の消える音。 “死ぬなよ、ブン太” “わかってらい” 彼が笑った。 笑ったのに。 扉の中に入って、涙が溢れた。 胴体だけの、既に息絶えた彼の姿。 「…ブン太っ…!!!」 駆け寄って、その身体を抱いて泣いた。 死ぬなって言ったのに。 一緒に解放されて、今度こそ。 今度こそ幸せになろうって。 二人で幸せになろうって。 「…約束したじゃねえか―――――――――――――!!!!!」 涙がただひたすら彼の顔に零れた。 その顔は、幸福に微笑んでいる。 「……」 眠る、永遠の笑顔。 「…そっか。お前は…幸せに…なれたんだな」 掠れた声が紡いだ。 「……じゃあ、…一緒に、…幸せになろう。 一緒に、幸せにさせてくれ…」 後を追ってきた財前が、その背中を見て声を失う。 「…第五十代ウィルウィッチ」 「…なんや」 「……今すぐ、俺を…殺してくれないか」 「………」 「頼む……」 微笑むのだ。泣きながら。 彼が、彼の元に逝きたがっていることくらい、わかる。 財前は手を掲げた。 そうだ。 自分だって、あの二人が死んだら。 もう叶うことがないのなら、僕は。 「さよなら……第二十代ノームウィッチ」 放たれた光は、違わずジャッカルと、抱かれたブン太の身体を跡形なく消滅させる。 会いに、逝くよ。 ブン太―――――――――――――。 残された、部屋。 ただ、俯いて財前は顔を押さえた。 「なんやねんこれ……」 ぽたり、と手の平に零れる水。 「俺が…泣いてるやんか………」 愛しさの欠片すらなかった、責めて許せない人たちなのに。 激しい痛みが残ったのは、俺だった。 だん、と着地したのはお互い。 柳と向かい合って、佐伯は微笑む。 「…そろそろお終いにしようか?」 「そうだな」 また地面を蹴る。 放った拳は決まると思った。 だが、見えないのに見えたように交わした柳は佐伯の足を風で切り裂く。 「…っ」 「俺は一番心読みに長けている。 すぐ、わかるぞ。お前の感情の揺れによる、狙いがな」 終わりだ、と掲げられた手が落とされる瞬間、佐伯は振り返って跳躍した。 「甘い! どこに行こうとも…!」 砂塵を起こし、砂に紛れて狙うと読んだ柳が、悟って風を正面に放つ。 しかし、風が裂いたのはただの空白。 「…」 「チェックメイトだ」 背後からした声。刹那巨大な石氷柱が、胸を貫いていた。 「…何故…だ…?」 血を吐きながら、柳は言う。 「…俺は…楽以外の感情がないから」 「そうか…」 感情を失って以来初めて、寂しそうに微笑んだ佐伯を振り返って、柳は微笑む。 そのまま、倒れる身体。 最期に、会いたい。 届いたのだろう。 室内に新しい風が吹いた。 千歳に抱かれた、切原の姿。 「…あか」 茫然と見上げる柳の傍に、その身体が降ろされる。 「…柳さん…」 「…赤也」 抱きしめる。そして、瞳に愛しげにキスをした。 「…柳さん…、ただいま」 「…ああ、…」 涙が零れて、歪む視界でも、お前がわかる。 こんなところにあった、太陽。 もう叶うことがなくても、僕たちは。 「……おかえり赤也………ただいま」 そして、終わる。 閉じる、二つの命。 千歳と白石、佐伯は悲しく笑い会うと、足を向ける。 進む先は、初代フリーズウィッチ、魔王の元。 開かれた扉の中に、気付けば全員がいた。 「ようこそ、俺が招いたんだよ」 「…全員いるな」 「ああ」 「いや…柳、真田、切原が」 「この子たちは、ここ」 初代の傍に浮かぶ球体に、三人が重なって倒れている。 「二人の出血は止血だけしたけど、血が足りないな」 「…離せ!」 「キミたちが俺を、殺せたらだ」 そして初代は仮面を脱ぎ去る。 「…幸村………?」 そこにいたのは、紛れもない、幸村精市の姿。 「俺が初代フリーズウィッチ、幸村精市だ」 「…」 「ほら」 彼は手を一降りした。 それだけで、全員の身体は壁に叩き付けられて、身動きがとれなくなる。 「無理だろう? 俺に、勝つのは」 「…っ!」 「だが、チャンスはあげよう」 そう言って、“幸村”は両手を広げる。 一人自由になった手塚が思わず生みだした剣を見て、微笑む。 「それで、俺を殺してみせろ」 |