−デビル・ポーラスター


 THE LAST STORY



  

  最終話−【終わらない空へ解き放とう 世界の果てで巡り会うまで】




 ジリリリリリリ!

「赤也! 起きなさい! 朝よ!」
「…うぅ…あと五分」
「起きろっ!」
「ぐえっ!」
 姉に蹴り飛ばされて、赤也はベッドから落下した。
「いってえなブス!」
「いいから起きなさい! 早く柳くん待ってるでしょ!」
「…え?」


 赤也の家の前、ぼんやりと空を見上げていると騒々しい足音が響いてきた。
「来たか」
「柳さん!?」
 何故かケツに疑問符をつけて、ぼさぼさの頭で後輩は門をくぐる。
「なんでここに! てかあれ! なんで」
「お前、…ボケているな。還ってきたばかりだから仕方ないが…ここは俺達の世界で、部活のある日の朝で、お前の家だ」
「………」
「まさか、語られる最悪の“どらえもん嘘の最終話”みたいに全て夢の出来事と勘違いしていまいな?
 あれは真実だったぞ」
「………、はい」
 頷いて、歩き出す。
「まだ、実感ないです…」
「そうだな」
「…俺、…力になれたかなぁ」
「なれたさ」
「…うん」
「…」
「…俺、すっごいしんどかった。すんごい大変だった。
 でも…すんげー…幸せだったです。
 あそこへ行けて、よかった」
「俺もだ」
「うん…。副部長は?」
「弦一郎はいつもの角で待っていよう」
「そっすか」
 懐かしい道。
 学校への道。
 いつも、歩いた。
 また、並んで歩いている。
 その当たり前の幸福と、あの世界の愛しさ。
「赤也」
 真田との待ち合わせの角の前、柳が立ち止まって、え?と笑った赤也の頬に近づいた。
 そ、とその唇にキスを一つ。
「……」
「間抜け面」
「…っ!!!」
「言ってなかったからな」
 そっと手を握って、柳は笑う。

「好きだぞ、赤也」

 そのままずるずると引っ張られて歩いて、徐々に胸に染みる言葉。
 満ちる幸福。

「俺も好きっスー!!!!」
「なにを叫んでおる! たるんどる赤也! 歯を食いしばれ!」
「げっ勘弁してください副部長っ!!!!」
 そして走り出す。
 途中で出会う、しっかり逃げろと笑う丸井に仁王、柳生はやれやれという顔で。
 最後に追い抜いた幸村が叫んだ。
「いっけー! 赤也!」
「はい!」

 空は、青い。





『今どこにいる?』

「飛行機が止まる駅」

 ふざけて答えて、空港の出口に向かう。
 すぐ見つける姿に、笑う。
「木手!」
「お久しぶりです」
「ああ」
 平古場たちは?
「みんなは今日は補習でね。知念クンは付き合うと」
「そうか」
 手塚は微笑んで、手を握る。
「公衆の面前」
「いいんだ」
「…はいはい」
 並んで外に出ると、眩しい太陽が見える。
「…木手」
「はい?」
「…」
「手塚?」
「…俺は、約束を守るから」
「…?」
「…待つ。一生」
 微笑む顔に、きょとんとした後、吹き出してしまってその額を弾いた。
「馬鹿ですか」
「…木手?」
 笑って、その手を正面から握ると、耳元で囁く。


「俺は、あなたが、…好きですよ」


「……」
「俺、とっくに、心も記憶も戻ってますよ?」
「……な…え?」
「ああ、キミはあの時意識ありませんでしたからね」
 とっくに平古場クンたちは知ってます。
「…っ…早く言え!」
「すいません」
 怒る手塚を笑って、手が触れて、抱きしめられる。

「もう、…俺のモノだ」
「…はい」

 ただ、愛しくて、そうしていた。





「蔵―――――――まだ終わらんと?」
 執務室の机に座ってずっと雑務に追われている背中に言うと、まだ、と素っ気ない。
 東方国家〈ベール〉王宮、春の季節。
「キスしてよか?」
「あかん」
「触ってよか?」
「あかん」
「…じゃあ、見ててよか?」
「うん」
「わかった」
 書類をまくる手が動く。
 彼は王子で、ずっと国に帰れなかったから忙しいのは仕方ないけど。
 しかし突然、白石はペンを放り投げて叫ぶ。
「あーやめた! ウザいわ!」
「…くら?」
「千歳!」
「え?」
 笑顔で振り返った彼が、立ち上がって千歳の手を掴み、窓を強く叩き開ける。
「逃げんで!」
「は!?」
「やってられん! 一日有給や!」
「は!」
「…あ、殿下!」
「あと頼むわ師範!」
「殿下!!!」
 石田の叫び空しく、白石は千歳と共にバルコニーから消えた。




「よかのー?」
「ええって。こうでもせんと一緒におれん」
 走って、たどり着いた海岸。
 海が、音を鳴らす。
「千歳」
「え」
 じっと、みつめられてどくりと鳴る鼓動。
「…」
 そっと、近づいて傾く顔に、そっと目を閉じた刹那。
「とう!」
 強い力で突き飛ばされて、悲鳴をあげる暇なく背後の海にぶっ倒れた。
 その上に飛びかかって、白石も海の中に飛び込む。
 あがる水飛沫。
「ぶはっ…」
「…あははっ! びしょぬれやん」
「誰のせいたい…」
「俺?」
 綺麗に笑って、白石は千歳を海の流れる地面に押し倒した。
「ちょ…ぶっ…げ…海が…っ波が…っ」
 波が来るたび呼吸を塞がれる千歳を見下ろしてけらけら笑うと、白石は微笑んで、覆い被さる。
 そっと、瞳を閉じて唇が重なった瞬間、波が来て、キスは海に沈んだ。
「……好き…千歳」
 微笑んで囁く声。
 自分はとっくに、負けている。
 笑うと、その身体を自分とひっくり返した。
「うわ!」
 下敷きになった白石の顔に波がかかる。
「お返したいよ」
「…ええ根性しとるわ」
 言い合って、笑ってまた唇を重ねた。
 手を伸ばして、抱きしめあう。
 果ての見えない海。果てのない、世界。
「…好いとうよ…」
「…うん」

「大好き…千歳……」


 波音がする。

 遠くなって、近くなって。

 そして思いは褪せることはなく、終わらない空へ帰るだろう。


 いつかきっと、世界の果てで巡り会うまで。



 そしてまたここで僕らは、出会った。






 THE END










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