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「最後の時間だぞー。早く決めろよ」
三年六組。
教師が黒板を後ろにして言う。
生徒からのブーイング。
ああ、まだミス・ミスターが決まらない。
「高坂か沢瀬か……」
「……どっちがいいんだ……………」
「どっちも決まらない〜」
菊丸は一人。
不二、何処に行ったんだろう。
廊下をぱたぱたと駆けてくる音がする。
がらりと扉が開いて、最初皆美少女が入ってきたのかと思った。
「…不二!」
「すいません。遅刻して」
「い、いや構わないが」
よく見れば不二だ。
多少乱れた髪。紅潮した頬。皺になったシャツ。
それに混ざるように、何か艶がある。
不二は菊丸の隣に戻って、ごめんねー等と謝っている。
それはまるで。
「ごめん遅くなって」
「もーどうして遅刻したの?」
「い、いやそれは…………」
「俺には言えないこと?」
ごつん、と額をぶつけて睨まれる。
が、言えないことは言えないこと。
だが、相手は菊丸だ。
「……………いや、あのね」
紅潮した頬はまだひかない。
「手塚っ!」
生徒会室の床に押し倒されて、必死にもがくが力が足りない。
すぐに膝を割られる状況に、やばいと思う。
「手塚っ! もう休み時間終わっちゃうよ!
此処学校だよ!?」
「五月蠅い」
「ん!」
唇を塞がれる。
「…ん……んぅ………ぁ」
いつの間にか外されたシャツのボタン。這わされる熱い体温の手の平。
「…あ……っ…………ぅあ……あっ」
無遠慮に下肢に触れてくる指先。快楽に身体に力が入らない。
急にずるりと下肢の衣服を全て剥ぎ取られてギョッとする。
「ちょ……止め」
「もう誰にも触れるなと言ったはずだ」
身体をひっくり返される。
「……あ」
「判ったな」
「てづ…、――――――――――――――――!」
いきなり貫かれて、息が詰まる。
快感より痛みが先走る。
痛い。痛い。痛い。
手塚が小刻みに腰を動かす。滑りが良いのはきっと出血したからだ。
感じたくないのに。
貫かれて引き抜かれるたびに快楽が混ざってくる。
感じたくないのに。
もっと貫いて。もっと感じさせて。
言いそうになる。
違うのに。
「いいか。もう、誰にも触れるな」
その声を遙か遠くで聴きながら、揺らされる快感に酔っていた。
「………………そか」
お互い顔が赤い。
当たり前だ。
ついでに腰も痛い。
窓際に二人で並んで赤面して、周りはワケが判らない。
「にしても……手塚の奴」
「……僕が迂闊だったんだよ」
「でも狡いじゃん。俺だって不二に抱きつきたい!」
「英二は対象外だと思うよ」
「じゃあ抱きつく!」
ぎゅーと首に腕を回して抱きついている。
その光景を見て、クラスメイト達にある天啓が下った。
『そうだ!』
「……え? なに?」
「不二。俺達決めたわ」
「私達も決めた!」
キャーと声を上げながら寄ってくるクラスメイト達に二人はワケが判らない。
だが次の言葉で顔色を変える羽目になる。
「六組のミスは不二!」
「六組のミスターは菊丸君にするわ!」
『………………………………………………………………………………………え?』
髪が乱れた不二はまるで美少女のようで、その側で額をくっつけたり抱きついたりしている菊丸は彼氏のように見えたのだ。
六組のクラスメイト達の決意は固い。
それは、不二と菊丸にも、覆せなか、った。
頬がじんじんと痛む。
結構目立つかも知れない。よくもやってくれたなぁと思う。
「うわ、誰と喧嘩して来たの貞治」
「応想像で考えろ、留花。触るな。痛い」
教室に戻ってからのHRで、何を何処に展示するかなどと前で話し合っている。
雑談している奴。机に突っ伏して寝こけている奴。金貨を幾つ貰ったか競争している奴らとばらばらだ。一番後方の席の乾と五十嵐もその例だ。クラスの出し物である展示会の話など聞いていない。
「口の中切れてる?」
「切れてる。結構痛いわ。
全く容赦なくぶってくれて」
「それ誰の話?」
「俺のライバルの話」
「ふーん。手塚君?」
「そこで判っちゃうのがお前だよなぁ」
「だって貞治、不二君好きそうだから。
手塚君とも仲良さそうだけど」
何処が仲良さそうなんですかと突っ込む。
「あいつは馬鹿だ」
「手塚君を馬鹿って言う人って貞治くらいかしら」
「いやもう一人居るだろ」
(不二とか)
「とにかくあいつは馬鹿。
我慢が効かない馬鹿。あれじゃ」
ひょいと五十嵐が顔を覗かせてくる。
「あれじゃ、駄々っ子だよ」
欲しい物が我慢できなくて。
欲しい欲しいと喚いている。手に入れるまでその場を動かないで居る。
小さな子供。
不二が欲しい欲しいと、もう手に入っているのに。
不二の時間全て欲しいと、無茶を言っている駄々っ子。
全国大会が終わって、あいつは不二しか見ていない。
それほど大事なんだろう。どれほど大事なんだろう。
俺では計り知れない。
でも、今のあいつはただのガキだ。
「……………子供って、凄いバイタリティ在るよね」
「……は?」
五十嵐がすとんと、隣の席に腰掛けてそんなことを言った。
「欲しい欲しいってさ、周りにどう見られても構わずに。
あとで何で欲しかったかなんて考えずに。
それだけを見てるんだよ。
欲しい欲しいって強請るんだ」
「……留花」
「あたしの従兄弟がそうだった。
おばさんに叩かれても置いてくよって怒鳴られてもその場に転がって離れないの。
もう一つのことしか考えてないの。
可哀想なくらいぎゃんぎゃん泣いてさ。
ああもういいよ買ってあげるって思わせちゃうくらい」
お姉さんの瞳で、机を見つめて、五十嵐はふうと息を吸う。
「それくらい潔いんだ。
欲しい物のためには手段を選ばないんだ。
そういうの、駄々っ子、っていうんだよね」
「…………留花」
「貞治は、いい子だったんだろうね」
そう言ってふと笑う。
儚げな微笑み。
緩やかな、浸透していく空気。
流れる髪の一筋一筋が綺麗。
柔らかに。
「……………我が儘なんて、言ったこと無かったな」
「うん。そういう子だね。
我慢しちゃうの。駄々のこねかたを知らない子。
だからね、あたしはそんなあんたが好きなんだよ」
にっこりと笑ってそう彼女は言った。
精一杯、笑うように微笑んでいた。
「なんだそりゃ」
同じように笑って、痛む頬を押さえて。
楽しげに笑う人々の声を聴く。
何か他愛ないことで笑っているのだろう。
何時だったか、自分がそんな子供だったことも忘れて。
楽しげに。
今はもう分別も付く。大人に近い子供。
まだまだ知らないことの多い子供。
そう、俺達は、まだ、子供。
「……まだ、だな」
「まだ、大人になるには早いよ」
一杯、勉強しなくちゃね。
いろんな事。
「そうやって人のことを知って、付き合い方や処世術を知っていくんだよ。
だから今は無茶苦茶でいいんだ。
子供だから。
ねぇ貞治」
「……そうだな」
我慢の効かない子供。
あいつも子供だったって、思えばいいか。
まだまだだな。なんて。
幼い子供。
がらり、と扉が勢いよく開く。
皆の視線が一斉にそこに集中する。立っているのはクラスメイトの男子。
「…………聴いてしまった」
「………なにを…?」
「…俺は聴いてしまった。重大な秘密を」
「だから何を」
「三年六組のミスとミスター。
不二と菊丸だって!」
クラス中に『はぁ?』の言葉が飛ぶ。
それは乾も同じだ。
曰く、あいつ、何時の間に性転換したんだ。
「高坂と沢瀬できまんなかったんだよ絶対!」
「それゆうなら菊丸と不二でも決まらなかったからだ」
「いいうのかねーそれっって倒錯じゃ」
「いいんじゃねーの。性別限ってねぇし」
「思い切ったなぁ。六組…」
(本当にそう思う)
これじゃまた、一組の駄々っ子が大変だな。
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