真昼に星は見えるか?
−歪んだ北極星U


 
第四章−
【濁ったノーザンクロス−螺旋の章−】



  
−現世・星還り編−


 
第三話−【星を辿る旅−Side:赤也他-善がれぬ嘱-】






「あれ? 仁王先輩? 次前橋っスよ? 降りないんですか?」
 走る電車のアナウンスに、赤也が訊いた。
 ボックス席に向かい合わせで座った仁王が、降りんと一言。
「降りるんはもうちょい先の高崎」
「あれ? 群馬の県庁所在地って高崎でした?」
「いや前橋」
「……?」
「ただ、前橋は夜の八時には全ての店のシャッターが閉まる(誇張した言い方)」
「え? マジすか!?」
「夜遊びに向いた栄えた街は高崎の方」
「普通、県庁所在地じゃないんスか? そういうの…」
「そんなん県それぞれじゃ。…つか、大丈夫かのう」
「なにがだ仁王」
「神奈川の柳らに聞いた話で高崎に行き先は決めたが…、車で逃げられたら困るぜよ」
 一瞬沈黙が落ちた。
「そうですよねー……。ここ、車ないと身動きとれないってなんですか」
「電車だけで買い物できる神奈川・東京県民は救われとるの」
「電車一本逃すと普通に一時間待ちですもんね…」
「…あんまり他県の文句を言うのもどうかと思うが…」
 一人黙していたクラウザーが突っ込んだ。彼はそもそも日本国民ではないので他人事だ。
「外人になにがわかりますか」
「人がお前が英語使えないからと日本語使ってやってれば…、まあいい。
 でも、日本全国一位とか、群馬のことは聞いたが」
「え? 一位。
 なんのですか」
「………確か、……交通事故の数のワースト1」


 悪い意味のナンバーワンじゃねーか……。(赤也・心の声)


「あ、高崎に着くぞ。降りるぞ赤也」
「あ、はいっ」
「ここから歩いて数分のクラブに集まってるとは思うが…」
「てか、わあ…、エスカレーターがない……」
 赤也が思わず率直に突っ込んだ。




 柳たち神奈川組の情報から、携帯サイトの利用を聞いてすぐ群馬県域のサイトを探した。
 ビンゴにあって、そこに「高崎に集まるように」という旨のメールと書き込みを昨日のうちにした。ただ、群馬県域にいると判明した北極星還りは200人。
 全員集まるとも、考えにくい。
 そして、このチームに五大魔女はいない。
 早く役目を終えた跡部か木手の合流を待つしかない。
 佐伯は回収が終わったばかりだ。すぐ来れるとは思わない。
 時刻、20時を携帯で確認して多くが行き着けのクラブバーに足を踏み入れた。




「…―――――――――――――なんでこうなってんですかねー」
 スマートに出来なかったからだな、とよそ事のようにクラウザーが答えた。
 結果敵に回した200人の北極星還りを最初からスマートに回収する策は最初からない。
 自分たちの役目は目星をつけること。魔法の印をつけることだ。
 あとは後から来た五大魔女メンバーがどうにかする。
 タクシーを捕まえて乗った矢先、ふと振動した携帯を取り出した赤也が、ぱっと顔を輝かせた。
「木手さん!」

『今、どこか合図してください。
 星還りの数が多くて判別出来なくて』

「あ、と魔法撃てばいいんですかね?」

『そうですね。空にでも。
 今、跡部くんもこちらにいるので…』

「仁王先輩っ」
「お」
 携帯を赤也に投げるように渡された仁王の前、赤也がひょいと開けた窓から車の天井に飛び移ったのを、運転手がぎょっとして咄嗟にブレーキを踏んだ。
 後ろから追ってくる車は振り切り切れなかった星還りの奴らだから、本当は停まってはいけないのだが民間人の運転手に言っても無駄だ。
「大いなる鷹よ蘇れ―――――――――――――」
 構わず空に向かって手を構えた赤也から視線を逸らすためにクラウザーが伸ばした手で運転手の視界を塞ぐ。
「フレイムサジタリウス!」
 空に炎が昇った瞬間、傍を舞った風が視界を掠めた直後、赤也たちがいたのは車内ではなく見知らぬ建物の屋上。
 傍に立つ木手に、彼が移動させたのだと知る。
「全員に印は?」
「つけた。読みとってくれ」
 頷いたクラウザーや仁王たちを見遣って傍をまた風が走る。
 一瞬で魔法の残滓を読みとった木手が、傍にいた跡部に手を貸して彼にも伝える。
「「第五十代五大魔女の名に置いて、全てのウィッチの魔法の回収を宣言する!」」
 二人が伸ばした手の先に集まった閃光に、終わったことを察する。
 疲れた、と呟いた赤也がはた、と気付いた。
 俺らタクシー料金払ってない!と慌てる赤也に今更名乗り出た方が危ないからやめろと跡部が止めておいた。





「向こうも終わったらしいぞ」
 佐伯が合流した大坂。
 橘の言葉に顔を上げて、白石はまた明後日の方角を見る。
「気になるのか…?」
「……なんで、…みんながおらへんのやろう」
 小春も、ユウジも、銀も、金太郎も、小石川も、先生もいない。
 ただ俯く白石の肩を、そっと橘が叩いた。










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