真昼に星は見えるか?
−歪んだ北極星U


 
最終章−
【そして星の物語は幕を下ろす】



  −炎の魔女の終焉編−


  
第三話−【キミに贈ろうB『おしまい・おしまい』】







「じゃ、還るか」
 千歳がフレイムウィッチでなくなった三日後、跡部が朝食を終えて唐突に言った。
「…………は?」
 木手が最初に疑問符を頭に浮かべた。このどっからどうみても知性派な男の頭に誰が見ても疑いようのないクエスチョンマークが浮かんでいるとそれだけでなにか気持ちいいが、そういう趣旨で言った話ではない。
「か、還るって景ちゃん。…どやって?」
「それはだな、つかどさくさに紛れてんじゃねーよ忍足。
 『跡部』だろ?」
「……跡部」
 ぎりぎり頭を片手で締められて呻きながら忍足が言い直した。
「つか、今のどう考えても千歳か橘経由やろ…」
 アイアンクローの輸入国を聞いている忍足を無視して、跡部がこっちは素直に疑問符を飛ばす丸井ら第二十代に視線を向けた。
「世界を繋いでたのは北極星でガチだ。
 だから、今度こそ消滅した北極星頼みはない。あっても俺達を還す善行はしねえな。
 だから、今回俺達が回収した魔法はてめえらに渡さない」
「…文脈のどこらへんが『だから』なんだぃ?」
 丸井の質問に、『千歳だ』と跡部。
「千歳の例だ。あいつは五大魔女の残りの魔力を代償に世界を越えた。
 俺達にもそれが出来る筈なんだよ。今ならな」
「……大体わかったけど、跡部クン。それでは」
「だからだ木手。
 俺達五大魔女だけなら五大魔女のみの魔力で充分だろうよ。
 今は辛うじて世界は繋がってる筈だしな。俺達をなにもなく引っ張る力はないが、開いたままだ。だから、俺達の魔力でも越えることは可能の筈。
 だが、ここには四天宝寺の忍足の従兄弟を初め、五大魔女じゃねー連中も多いわけだ」
「そうか。忍足さんの従兄弟や四天宝寺の他のみなさんも一緒に還るために、回収した魔力はそれにあてる、と」
「そういうこと」
 つーわけでさっさと還るぞ、と立ち上がった跡部を見遣って、丸井たちも立ち上がった。
「残念だな。今度は私怨なしで勝負したかったぜ。第五十代」
「同感」
 仁王と丸井、その背後の赤也たちも同意見なのだろう。挑戦的に見送られて、跡部も笑い返した。
「時間があったら、俺もやりたかったぜ。
 第二十代」
「けど、残念ながら第五十代は一人欠員ですし。…しょーがないですね」
「そういうことや」
 赤也と財前が交互に言ってつられて笑う。
「お前らが…」
 言いかけた跡部に、仁王たちが肩をすくめて手を左右に振った。
 なしにしようぜ、と。
「…そうだな。やめとくか」
 全員準備しろ、と促されて財前、木手、佐伯、忍足、日吉がその場に集まる全員を包む形で魔法を発動させる。
「またなー……やない。ばいばい! 白石、千歳!」
「ばいばい、金ちゃん」
「またな、でもよかよ」
「かっこつけんな千歳。さいなら」
 笑って言ったユウジの隣で手を振った小春が、傍を一歩進み出た小石川を見上げた。
 差し出された手を、理解して白石が手を重ねた。
「一年、おおきに。副部長」
「こっちは二年おおきにな。部長」
 無言で頭を下げた石田の横で、渡邊が一度だけこちらを見て笑う。
「…お元気な姿を再び拝見出来て、嬉しく思います。
 南方国家〈パール〉弟王」
「色々迷惑かけました。
 …さようなら第五十代サンダーウィッチ」
 木手も弟王から手を放して力をより強める。
 風に包まれた姿が見えなくなる。その瞬間、必死に叫んだ謙也の声は聞こえなかったが、千歳と白石にはなんとなくわかって微笑んだ。



 その後、新たに就任した第五十二代が誰かを、知るモノはほとんどいない。
 禍つ伝承の魔女の話はもう遠く、彼らはただの五大魔女。
 跡部が言いかけた言葉は、何故彼らだけ冥府で足止めを喰らっていたのか。
 おそらくは、初代フリーズウィッチは彼らの転生にも働きかけた。
 だが、世界にあの形で残った北極星が阻んだ。それだけの話だ。
 だから、あの場にはもう不要の話。



 新たな五大魔女。
 婚約の後、たった一ヶ月で命を落とした南方国家〈パール〉王妃。
 フレイムウィッチでなくなったかつての炎の魔女。
 今度こそ世界から去った全ての第五十代。
 それは、誰も知らない物語に続く。










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