頬に落ちる水。
その冷たさに、瞼が開いた。
「…………」
すぐ、両手がなにかに拘束されていると気付く。
両腕を拘束するのは天井から吊られた鎖に繋がった枷。
視界に見える格子は、軍の牢獄ではい、網状の格子。
「……ここ」
「お前ん家の地下。屋敷の主ならわかっとだろ」
「…、…千歳」
不自由な手のまま睨み付けてきた白石に笑って、その前にしゃがんだ。
大きな手で、その顎を捕らえるのを拒むように視線を背ける。
すぐ痛む程髪を掴まれて視線を合わせられた。
「……っ」
「色々聞きたかことはあるばってん、…答えてくれそうになかね」
「…当たり前や。すぐ話す人間をスパイに採用する国がどこにある」
「……」
千歳は一瞬黙ったかにみえたが、すぐ喉の奥で笑った。
いぶかしがる白石の顎を上向かせ、分厚い舌でその首筋をそっと舐め上げる。
そのなま暖かい感触に眉を寄せる白石の服の前合わせを掴み、強引に引き裂くと白い肌を無遠慮に大きな手が撫でる。
脇腹を掠める手に、感じるまいと思ってもぴくりと肩が揺れた。
そのまま胸の飾りを舌で遊ばれ、唾液でべとべとに濡れて勃ちあがったそれを噛み込まれる。ひくりと膝が一瞬跳ねたのを、千歳は面白がった。
「……白石も、軍人なら知っとうね?」
「なにが…」
返した言葉が既に息が上がっていると思い知って、内心白石は悔しく思う。
まだ前戯めいたことしかされていないのに、身体が熱い。
それはクスリを使われているかもしれないというより、千歳の手管が単純にそういうことに馴れて優れているだけだ。自分の身体が単純に感じやすい所為もある。
「性的拷問による自白。
…案外有効ばいよ?」
「……知っとるわ。けど、効いたらへんで」
「…そら、」
楽しみばい―――――――――――――そう笑った手が急に下肢を覆う服を下着ごと脱がせる。拘束された手ではなにも出来ない。
すぐ両足の膝裏を掴まれて大きく割り広げられた。
拒むように顔を背けると下肢の、慣らしもないそこに堅い熱が宛われたことに目を見開く。
「痛みに関してお前は強そうだけん、効かなかとは思うばってん、やってみらんとね」
「…っ…―――――――――――――ぁ!」
すぐねじ込まれた性器に引き裂かれたような激痛が襲って、けれどすぐ唇をかみしめて、奥まで貫かれる痛みに耐えた。
「……っ……ぁ」
それでも生理的な涙が零れるのはしかたなく、瞳から流れる水を千歳は舐め取ると、すぐ抽挿を始める。
揺さぶられ、内部を熱い塊に擦られる感触と痛みに白石の耐えても零れてしまう声が、嗚咽のように唇から漏れる。
唇を重ねて充分に貪ると、耳元で囁いた。
「舌を噛みきってもよかけん、その後自分がどげん目に遭うかはわかっと?」
「……っ……ぅ……は…」
「な、白石」
荒い呼吸と泣き声じみた喘ぎを零すしかない白石の唇をもう一度塞ぎ、舌を絡めた。
応えるはずもない舌を舐め取り、隅々まで蹂躙しても白石が舌に歯を立てることはなかった。
言葉の意味を正確に理解したのだろうし、彼ほど聡いならわかっているのだろう。
この状況でその程度の抵抗を示したところで、相手を無駄に刺激するだけだ、と。
この手の拷問を受け流すには、黙って終わるのを静かに堪えることだ。
がくん、と一度強く突くと仰け反った背を抱きしめて、白石の内部に精液を放った。
白石はそうもいかず、達することもなく荒い呼吸を吐いて痛みに濡れた瞳が虚ろに宙を泳ぐだけ。
その瞳の色が、一瞬何かに怯えるように揺れた。それに気付いて小さく嗤う。
「…わかったと?」
「……、…な、ん」
「想定内やろ? そういうクスリ使われるこつは」
身体を満たす得体の知れない熱に、白石が荒かった呼吸を詰めるように一度吐いた。
視線がそのつもりもないのに、千歳にすがるように向けられる。繋がったままの下肢は、彼にひどく急かしている筈だ。早く貫いて欲しいと。
「それ、効果がたいがよかけん、…効くまでにたいが時間かかるばい」
「…っ、あ…っ…や…!」
途端、ずるりと下肢から性器を引き抜いた千歳に、白石が非難のような視線を向けた。
本人は思わず行ったそれが不本意で、すぐ視線を逸らす。
「…これは、一応拷問ばい?
望み通りに欲しかもんあげとったら意味なか」
ぐい、と背中を起こして髪を掴んだ。
「よか? ちゃんとでくるなら、また挿れたげるばい」
荒い息のために薄く開かれた唇に、勃ち上がったそれを押し当てる。
顎を掴んで開かせると、喉奥にねじ込んだ。
「…っ…ん…」
苦しそうにした白石の髪を掴んで上下させると、生理的な涙がまた目尻を伝った。
「…ちゃんとせんね」
からかうように言ってはみたが、素直に奉仕するとは最初から思っていない。
「…ん…うん……っ……ふ」
口内を犯す熱に苦しげに眉を寄せる頬を撫でて、喉奥に放つとすぐせき込んだ彼の髪を掴んで唇を奪った。
自分の味がするそれをよく味わってから、鎖の元をいじって伸ばし、白石を床に横たえる。
抵抗の意志は失っていなくとも、既にクスリの所為でもうろうとした意識が映すのは最早欲しかない。
もう一度膝を掴み、足を開かせると下肢のそこに唐突に舌を這わせた。
「ゃ…んっ…」
血と精液で汚れ、傷ついたそこを治すかのように執拗に舌を這わされ、びくびくと跳ねる背は、それでももっと奥に欲しいとばかりに腰を揺らす。
意識も怪しい中で声を堪えることももうなく、素直に舌に乗る嬌声に笑みが零れた。
顔を上げると、虚ろな瞳と視線が合う。
開かせた足のそこにもう一度性器を宛うと、再度ねじ込んだ。
零れる筈の悲鳴は、口に突っ込まれた二本の指に遮られる。
「…ぅん…っ…ん…む……っ」
口を二本の指で犯したまま、深く何度も貫いた。
既に時間はどれほど経ったか、千歳にも判然としない。
白石の身体からクスリの効果が消える程だろうが、彼はもう目立って大きな反応をしない。
息絶える前のようなか細い呼吸に、既に限界なのだと理解しても彼自身は「もう無理」だとも一言も言わない。
「……なんで」
代わりにそう零した。
「…?」
「なんで…拷問やいうなら……、もっと、…俺の口割らせるような…やり方…せえへんねや……。
…おかしいやろ……お前」
確かに、千歳の行為は拷問というより、むしろ調教じみていた。
快楽に溺れていても白石もそれはわかった。
「…実は、このこつ、上に言ってなか」
「……、」
目を微か見開いた白石が、呼吸を一瞬止める。
「……なんで」
「…お前を密告する気も、…スパイを続けさせる気もなか。
お前がスパイやめて、…ここにおればよか。
俺が、お前のこと、気付いたんはほんに証拠なかばい」
「……」
「ただ、俺がお前を見とうただけ。恋いこがれて、…お前を囚える口実を探しただけ」
「………なん、……でや……」
「……お前が俺の言うことを訊くだけでよか。
スパイも、もうせんならよか。
上なんて関係なか」
「俺はお前が―――――――――――――欲しか」
北軍より、南軍より、千歳千里を彼に選ばせるためなのだから、拷問じゃない。
調教であっているかもしれない。
「……………お前、…………どうかしとる。
…そんなん、………なんの得が…………」
「……知っとうよ」
見上げる顔は、暗い笑みだ。
恐怖さえ、感じる程の。
「……お前、……狂ってんちゃうんか…………」
なにがその目に見えてんねん。そう掠れた声が紡ぐのを訊いた。
構わず貫くと苦しげに息を吐いて、達した身体が今度こそ意識を失った。
狂っていても、どうかしていても。
この鳥が欲しかった。
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