「おはよう」
次の日、何事もなかったように登校した白石に、遠山が話しかけてきた。
「なぁなぁ、蔵ノ介」
「ん、なに金ちゃん」
「昨日、来てたカメラマン?がなんか殺されたってー、怖いなぁ」
(――――――――――――…え?)
傍で下駄の音がして、ハッと顔を上げた。
千歳だ。感情の読みとれない顔で見下ろしている。
「……」
なにを言う?
否定?
否定出来ない。殺意はあった。
でも、逃げられた。
俺やない。
俺は殺してない。
俺は、今回は殺してない。
「……蔵」
「…う」
違う、俺やない。
俺やない。
「…千歳さんが?」
うん、と頷いた。
「あいつ、なんか…前の世界とか…あいつも何度か帰って来てんやないんか…?」
「……そっスか…」
ぽつり、と財前が呟く。
部活の休憩中、いつものごとくへたばっている千歳の元に歩いていくと、きょとんとした顔が見上げて笑った。
(俺やない)
て、言って信じるんか…?
「あ、千歳さんも食べます?」
「ん、なんね?」
「みんなで作ったんですけど」
渡された箱に入っていたおはぎに、千歳はなんの疑いもなく手を伸ばした。
腹減ってた、と。
いや、知っているなら、ここは疑うんやないか…?
けれど、千歳は手に取ったおはぎを一度半分に手で割って、中から見えた一本の裁縫針を引き抜いた。
「流石に二本とかなかね。じゃ、いただきます」
「……………、」
茫然とした後、白石は思わず財前を振り返った。
「どういうことや!?」
千歳から離れて歩き出した財前を追ってきた白石を、彼が不思議そうに振り返る。
「俺は入れてへん! なんで針…」
「……針?」
首を傾げた財前が、ふ、とおかしそうに笑う。
「なんの話しとるんですか?」
「…………」
なんだ、これは。
なにかが狂っている。
俺は殺してない。
針もいれてない。
なんで。
「……、」
ふと顔を上げると、帰り道の途中で寝そべっていた長身が気付いて起きあがった。
「蔵? 今帰り?」
へらりと笑う暢気な顔が、今は得体が知れない。
「……なぁ、」
「ん、なんね? 蔵」
「お前ら、俺に隠し事してへん…?」
「……え?」
不思議そうに千歳は首を傾げ、しとらんよと笑う。
「嘘やろ。
正直に言えや…。しとるよな? 俺に!」
「…ばってん、蔵はどげんね?」
「は…?」
「蔵こそ、俺に嘘ばついとらんね? 隠し事、しとらんと?」
丁度、千歳の立つ位置が木々の陰で、顔が見えない。
声が静かなのが、不気味で。
「…しとらん。別に」
「嘘」
「…しとらん!」
「蔵も、あん鉈なにに使うつもりで持っとうや?
光も知っとう?」
「……………」
「 あれ なん? 」
「…!」
知っている? まさか。
背後によろけた白石を、少し追うように歩いた千歳の顔がようやく陰から出て見えた。
その顔は至って普通に、冷静で、静かだ。
「蔵、気付かなか?」
「…?」
「こん
「…っっ!!!」
「蔵」
「お前らに、関係…」
「
「っ…しらん。なんもしらん!」
もうなにもわからず叫んで、白石は振り返らず駆け出した。
千歳が追ってくる音はなかった。
「…!」
家の玄関を閉めてその場にしゃがみ込む。
「……」
呼吸が荒く、収まらない。
「……なん、やねん…」
これ。
「………………………ホンマに、…次」
俺の番?
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